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偽者王女ととある策略  作者: 八仙花
第二章 渡りに船の偽者王女
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2) 密かに主張する痛み

 しばらくすると、モリオンは、一人の男性を連れて戻ってきた。私よりも歳上であることは確実だろう、20代半ばくらいの青年だった。

 美形ではあるが、怜悧で知的な雰囲気を持つ彼は、モリオンよりも若干、マレフィセント夫人に似ているような気がする。

「さあ、ライリー、お願いね」

 マレフィセント夫人はやってきた青年に呼びかける。

「……母上、先程も言いましたけど、兄妹とは言え一応女性ですよ?ハンナ医師を呼んでくださいよ」

 予想通りライリーもどうやらマレフィセント夫人の息子らしい。

 しかし、兄妹?モリオンのこと?でも、女性って………もしかして、私のことを言ってるのだろうか?

 ……いやいやいや、それはないない。

 思い当たった可能性に、私は一人で首を振る。

「ダメよ、まだ彼女の存在を他の者に知らせることはできないもの。せめて体調が落ち着いて――いろいろと、思い出してもらって――ね?」 

 何故だか私の方へパチリ、と綺麗なウィンクを見せてくるが、わけがわからない。

 いろいろと思い出すもなにも、なにを思い出せというのだろうか?

 確かに、竜鱗樹の洞に吸い込まれてからこっち、このベッドの上で目を覚ますまでの記憶がないといえばないが、それは単に気を失っていたから、じゃないのだろうか?

 いや、学校の裏山とここでは地球の裏側程の差がある、日本語が通じるとはいえ、もしかしたらうちの近所じゃない可能性もある。私はリュウノスケを抱えて、夢遊病のようにここまできた可能性もあるのだ。

 仕方がないなあ、と眉を寄せて、ライリーは私の枕元までやってくる。

「気分はどう?……どこか、痛くない?」

 医師と言いながら、白衣姿ではない普通の白いシャツを着たままのライリーは、聴診器なども携えておらず、掌を私の額に当て、原始的な方法で私の熱をはかる。

 その声は、大人の男性らしく低く響く声で、モリオンの声変わり前のソプラノとは全然違ったが、私に話しかけていた声ともまったく別のものだった。――この人ではない。

 続いて口を開けさせられたり、目の下を引っ張られたり、脈を図られたり、一般的な診察を一通り行う。

 別にとこも痛くない、と告げると、「そう、でもまだ油断できないから、しばらく安静にしててね」とにっこり笑った。

 そういえば……聞かれてすぐにはわからなかったが、一箇所だけ、痛みを感じるところがあった。

 脇腹だ。

 お腹が痛い、というのではない。多分、打ち身か切り傷ができているのだろうか、左脇の下の肋骨の上のあたりの狭い箇所だが、ヒリヒリとした痛みを感じる。

 とはいえ、わざわざ今告げるほど、大した痛みではない。

「あの……ここは……どこですか?」

 その代わりに私は、ライリーに問いかける。

「ここ?」

 ライリーは私の問いかけに、振り返って母親の顔を伺う。

 どうやら話していいのか、無言でお伺いを立てているようだ。

 しかしマレフィセント夫人は黙って首を横に振るだけだ。

 先ほどモリオンが出て行ってから戻ってくるまでの短時間の間にも、私はマレフィセント夫人にも何度か尋ねたのだが、「無理をしないで」とか「大丈夫よ」とか言われるばかりで、答えてもらえなかった。

「……母上、別に話しても構わないでしょう?彼女だって、きちんと説明してあげないと混乱するばかりなんですから」

 ライリーの言葉に、夫人は「仕方がないわ」と息をつく。

「せめて――一日だけは、安静に寝ていて欲しいのよ。どこも痛くない、気分も悪くない、といっても、急変する可能性だってあるんだから。動揺させて、その確率をあげたくないわ」

「大丈夫です、本当に」

 私は起き上がろうと身体を動かすが、「だめだよ」とライリーに制止されてしまう。

「本当に、せめて半日だけでも安静にしていて。……母はああ言ってるけど、大人しくしていてくれるのなら、代わりになんでも答えてあげるから」

「ちょっと、ライリー!」

「仕方ないでしょう、母上」

 モリオン少年も兄のライリーに同調しているらしく、夫人を諌める。

「この先彼女には、ここで“頑張って”もらわないといけないんでしょう?遅かれ早かれ、話さないといけないことなら、彼女が不安を増大させる前に話したほうが、いいに決まってるじゃないですか」

 少年の冷静で理屈にかなった言葉に、夫人はたじろぐ。

「……わかったわよ……二人して、ママをいじめるのね……」

 いえ、どちらかといえば、いじめられている私を助けてくれてるんです。

「じゃあ、私が話すから、二人は外してくれる?」

 夫人は、モリオンとライリーにそう告げると、すぐそばにあった椅子を引き寄せ、私の枕元に陣取った。

 ほら、さっさと行きなさい、とばかりに手の甲でしっしっと二人を追い払う。

 二人は困ったように顔を見合わせるが、諦めたようにライリーが肩をすくめると、モリオンも小さく頷いて了承する。

 いや、できれば残って欲しい、なんだか、夫人と二人きりになるのは、怖い気がする。

 せめて常識人っぽいモリオンや、比較的優しげなライリーにそばにいてもらえたら……

 そうは思うものの、本人を前に、流石に口に出すことははばかられた。

次回は再び来週末の予定です。


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