17) 着信アリ
よろしくお願いします。
モリオンにスマホを返してもらって、みちるはこの世界で目覚めてから、初めて希望を掴んだような気分だった。
……いや、正しく言うと、二度目だ。
はじめはリュウノスケが言葉を話せて、自分の味方になってくれてる、とわかった時だった。独りじゃない、とわかった時は、喜びは大きかったが、反面、当然だ、という気持ちもあった。何しろリュウノスケを追いかけて、この世界にやってきてしまったのだから。
比べて、今回のモリオンが与えてくれた希望は、意外だったため、喜びが大きかった。
なぜならモリオンはこちらの世界の住人だし、みちるの知り合いでもなんでもなかった上に、みちるを王女に仕立て上げようとしているライア王妃の息子なのだ。
言ってみれば“敵方”といえる存在だが、そのモリオンが、王妃ライアとは違ってみちるが元の世界に戻ることを応援するような言動をしてくれた。部下が頭を悩ませている、と言いながら、スマホを返してくれるなんて、なんて気がきくいい子なんだろう。
そう思いながら、スマホの画面を指ですっと撫でる。
親に制限されれているのは、暗証番号を両親と取り決めた以外のものに変更することだ。一応、紛失した時のために暗証番号の設定はさせられているが、番号は親が決めたものだった。勝手に変更したら、スマホを没収する、と言われている。それ以外の干渉があまりないため、みちるとしては別にその程度なら大したことはない、と抵抗する気持ちすら起きない。
暗証番号を入れて、画面を確認する。
もう電源、落ちる寸前だろうな……と半ば諦めながら画面を見ると………
「何!?この着信履歴!?!?」
半端ない数の【着信アリ】の記録にびっくりを通り越して恐怖すら感じてしまう。
「50件って……」
そりゃあ、行方不明になってることを考えると、それも当たり前かもしれない。
しかし、よくもまあ、スマホの充電が切れなかったものだ、と感心してしまう。
「……て、あれ?」
おかしい。
確かに着信はあるものの、誰も電話には出ていない、出れるはずがない。
だからといって、電池が使われないわけではない。
しかし、一日少したった今のスマホの充電量は……
「なんで100%?」
モリオンたちはスマホを危険物とみなしていたから下手にいじったりしなかったようだが、だからと言って待機電力が全く消耗されない、というのもおかしい。なによりも、これだけの着信があるのだ、モリオンの従者が頭を悩ませるくらいに音が鳴り光を放っていた、というのならば、もちろん電力を消費していておかしくない。
なのに……
「あ、でも、表示が一日前から変わらないだけで、ちょっと操作すれば、直ぐさま反応して電力オフ、になっちゃうのかも……」
そう考えながらも、確認せずにはおられない。
みちるは慎重になりながらも、いつもどおりにスマホを操作した。
まずは恐ろしい程に溜まりに溜まった着信履歴をチェックする。
「……うわぁぁ……新汰、ばっかり……」
『やっぱりかアイツか』
思わず口にした名前に、リュウノスケも素早く反応する。
『24時間で50件ということは少なくとも1時間に2件か……あの男にしては、少ない気がするな。あの男なら1時間に20回はかけてきそうだ。睡眠時間を別としてもそれこそ、300件を越えててもおかしくないはずなんだが……』
いやいや、まるでストーカー扱いじゃん、新汰。
『何を言ってるんだ、ストーカーそのものじゃないか、あの男は。前々から何度も言いたくて仕方がなかったんだが、やっと言える。みちる、あんまりあいつとは関わらない方がいい』
今更そう言われても。
どうやらリュウノスケは新汰のことが嫌いらしい。
言葉が話せるようになって、初めて彼が彼の意思で新汰を敵視していることがわかった。
今までも、爬虫類嫌いの新汰がリュウノスケを排除しようと躍起になって私を説得にかかることは何度もあったが、お互いに嫌っていたとは知らなかった。ある意味、相思相愛だ。
『とはいえ、その50件の着信は、みちるがこちらの世界に来る前までのものだと考えられるな。いくらなんでもこちらの世界に電波は通じていないだろう、ということは、電波圏域の限界で、50件しか着信履歴が残らなかったのだろう』
トカゲのくせして、やけにスマホの機能に詳しいじゃん。
『電波圏域』なんて言葉、私でも使ったことがないのに、どこで覚えてきたんだか。
「でもモリオンくんは、昨夜も一晩中スマホが鳴り続けてて、それで彼のお友達が困ってた、て言ってたよ?」
鳴り続けていた理由は分からないが、夜中にアラームなどかけているはずがない。
可能性があるとしたら、電話の着信か、メールの受信か、災害速報か……
もちろんそのどれもが、『電波圏域』から外れているであろうこの世界では、届くはずのないものなのだが。
「それにスマホの着信履歴って、50件が最大なんだって、後は古い順から消えていくらしいから」
プチ雑学を披露してから、あ、と気づく。
これ、新汰のフォローにはなってないよね……
案の定、私の雑学にリュウノスケは『やはりな』と相槌を打った。
『奴のことだ、おそらく履歴が消えていくほど電話をかけていたに違いない、もしかしたら500件、いや、やはり600件……』
いやいやいや。
600件じゃ、単純計算しても一時間に25件じゃん。ほぼ1分に1回のハイペースだ。
それを24時間不眠不休で続けたとなると、はじめの30分はともかく、その後続くとは思えない。
もしそんなことが可能だとすれば、それこそストーカーだ。
『だからそう言ってるだろう、みちるはあの男に対しての認識が甘いんだ』
押し問答だ。
「だって、現に今、モリオンくんから受け取ってこっち、20分くらい経ってる気がするけど、全然着信こないよ?いくら新汰にだって……」
♫とぅらら〜とぅりら〜とぅらららららるらら〜
「うあぁあぁぁ!!」
思わず声を上げてしまう。
『ぎゃぐあああ』
リュウノスケも、悲鳴なのか不思議な声を上げていた。
聞きなれた音楽だった。
間違いなく、自分の手元から鳴り始めた大音量に、私は思わずスマホを取り落としてしまう。
「……な、……鳴った……」
『……おい、鳴ってるぞ』
突然過ぎて、心臓に悪い。
私もリュウノスケも、しばし呆然として、モリオンの言うところの七色の怪しい光を放つ、スマホをガン見してしまう。
慣れているはずの私でさえ、突然のスマホの着信に動揺を隠せないのだ。
これをスマホがないこの世界の人が見れば、怪しいどころか危険物とみなしても、仕方がないだろう。
実際、モリオンくんのお友達はよく破壊せずにいれたもんだ、と思ってしまう。
流れてくるのは、全世界に有名な某ヒット曲の着メロバージョン。
導入部分がなくいきなり盛り上がりのサビから流れ出すから、まわりの注意を引くことこの上ない。
これは間違いない、着信だ……
でも、なぜ?
もしこの世界が異世界であれば、届くはずのない着信。
しかし私は確かに、今目の前のスマホが、圏外も圏内も関係なく、鳴り響くのを目の当たりにしている。
「う、うそ……」
私はおそるおそるスマホを取り上げると、画面を確認した。
やはり、新汰からの着信だ。
どうして着信が……という謎はともかく、私は息を飲んで、画面の通話スライドをそっと撫でた。
一話で終わるはずだったのに……毎回毎回(涙)
新しく登場(?)する人物が少々熱量過多なので、話、わけました。
言わずもがな、名前だけは何度も出てきてた“彼”です。
ちなみに次話は、明日更新します。




