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偽者王女ととある策略  作者: 八仙花
第一章 事の発端
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2) 園芸部の畑では実った茄子がとても眩しい

続きです。まだ異世界には行きません。

 プール、の可能性は、否めない。

 しかし私がそこへ行って、あの子を探す素振りなど見せられるはずもない。

 ここはイチかバチか、あの子がプールへ向かってない、という確率にかけるしかなかった。

 確率は、低くはない。

 なにしろあそこでは我が校の期待のホープたちが県大会を目指して猛特訓に励んでいる。

 プールサイドは人が多くて、おまけに騒がしい。

 水辺までのスタンスを考えると、あまり近寄らないだろう。

 それに比べて………

 私は校舎裏の裏庭に来ていた。

 裏庭といっても野放図の草むらであり、その一部が園芸部の活動場所になっているだけで、奥にはウソかホントか夏にはお化けも出るという噂の小さな溜池がある。

 あまり生徒が近づかないように、一応金網が張ってあるが、用務員のおじさんと教頭先生、そして園芸部の一員は扉の鍵を持っていて、奥にある小さな祠の清掃を担当していた。

 かくいう私も、生物部と園芸部を掛け持ちしているため、鍵が借りられる立場でもある。

 「今週の当番は〜〜、ん〜〜?あ、ヨッシーだ!!」

 園芸部の畑のみずみずしく育った緑の中に、部長の吉沢の姿を見つける。確か彼が今週の当番だ。

 「ヨッシー!!ごめん、鍵、貸して!!」

 「うわっっ!辰巳か!唐突になんだっよ!」

 今を盛りとすくすくと育った黒く光る茄子を愛でていたヨッシーを見つけ、私は突進していく。もちろん、野菜たちには傷がつかないように、アタックの焦点はしっかりとヨッシーに狙いを定めて、だが。

 「ごめん!!この前清掃当番で裏山に入った時に、落し物してきたみたいなの!!心当たりはあるから、すぐに見つかると思う!ちょっとだけ、鍵貸して!!」

 一、二を争っていられない、という切羽詰った状況の私の勢いに、ヨッシーは目を丸くしながら、半ば逃げ腰になっている。

「お、お、落ち着け、話せば分かる!!畑を踏み荒らすな!茄子に罪はない!」

 しっつれいな!!踏みあらすわけ無いでしょ、この私が!!

 私にとってもこのコたちは、可愛い可愛い農作物なんですからね!!

 しっかしヨッシー、あんたもあんたよ!既に身長が180cm弱もある男が、背中を丸くして腰をかがめて、艶々と光る茄子を撫でて微笑んでる姿って、炎天下の熱でやられちゃったのか、と思いたくなる光景よ!!

「いや、収穫日は明後日だけど、これだけ立派なら、もうすぐにでも収穫してあげたほうがいいんじゃないか、と……」

 しどろもどろに言い訳しなくても、あんたが野菜をこよなく愛する気持ちは充分知ってるから大丈夫よ!

 私はそう吐き捨てて、ヨッシーから鍵をもぎ取る。

「本当にすぐ終わるよな?何かあったら、部長の俺にも責任がかかるんだぜ!」

 慌ててるせいから乱暴な態度の私に、落ち着きを取り戻したヨッシーは厳しい声を出す。

 野菜に対する時と、部員に対する時の態度ったら、まあ、随分違うこと。

「大丈夫だよ、一周もすれば見つかると思う!じゃ!」

 私はそれだけいい残すと、ダッシュで鍵のかけられたフェンスへと向かっていく。

「おい、辰巳、明日の約束、忘れてないだろうな?」

 走り去る私の背中に、ヨッシーが慌てて声をかける。

 あ、そういや明日、部長命令で入ったばかりの下級生たちに収穫のプチ講義をしてあげる約束だった。頭の隅で、「やば、忘れてた!」と小さな声を上げる私を押さえ込み、とにかく目の前の自体の収集を最優先で、とその場しのぎの答えを返しておくことにする。

「大丈夫、大丈夫、去年教えてもらったの、ちゃんと覚えてるから」

 去年新入生だった私たちも、先輩たちから同じように毎年講義を受けているのだ。あのレジュメ、まだ残ってたしな〜……

「ならいいけど、気をつけろよ!」

 裏山めがけて走り出した私に、ヨッシーが心配げな目を向けていたことを、私は知らない。


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