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姉のミニスカート♡ ③ドレッサーの前で


 正直に言うと、

 ここまで来るつもりはなかった。


「……ちょっと見るだけだからな」


 姉の部屋。

 ドレッサーの上には、色とりどりの小さな容器が並んでいる。

 ファンデーション。

 リップ。

 よく分からない筆。


「名前からして難しい……」

 優斗は自分のスマホを立て、

 動画サイトの『初心者向け・ナチュラルメイク』を再生した。


『まずは下地から~』

「下地……下地……」


 画面と鏡を交互に見ながら、

 恐る恐る顔に触れる。


 意外なことに、楽しかった。

 集中すると余計なことを考えなくて済む。

 塗って、伸ばして、整えて。


「……あれ?」

 鏡の中の顔が、

 少しだけ“違って”見えた。

 

 髪は、女装目的でちょっと伸ばしてみたせいで、

 うまく整えると女の子のショートヘアっぽくなる。

 

 ブラウス。

 スカート。

 ――完成。


「……誰だ、これ」

 そこにいたのは、

 自分なのに、自分じゃない“女の子”だった。


 ちょっと笑ってみる。

 首を傾けてみる。

「……うん、悪くない。これがボクっていうアレだ、かわいい~♡」


 そのとき。

 ――ピンポーン。

「え?」

 インターホン。

 画面を見ると、クラスメイトの 佐々木。


「……あっ」

 遊びに来るって言ってたの、今日だった。

 普通ならアウト。

 

 でも今の優斗は、なぜかこう思った。

「……姉のふり、してみるか」

 いたずら心だった。

 ほんの、軽い気持ち。


 玄関を開ける。

「はーい♡」

 

佐々木が固まった。

「……え?」(美人さん…ドキドキッ♡)


「こんにちは。優斗の姉です」

 声、ちょっと高め。

「弟、今ちょっと出かけてて」


「……そ、そうなんですか」

 佐々木は完全に混乱している。

 ――いける。

 そう思った瞬間。


「……あれ?」

 佐々木が首をかしげた。

「なんか……声、優斗くんと似てません?」


「気のせいです」


「あと、その……」

 じっと見る。

「その仕草、優斗っぽい」


「……え」


 詰んだ。


 そのとき。

「ただいまー」

 母の声。

 心臓が跳ね上がる。

「雨降りそうだから早く帰ったの」


 追撃。

「俺もいるぞー」

 父。


 完全に、いつもの流れ。


「……あれ?」

 母が玄関を見て言う。

「お客さん?」

 佐々木が慌てて言う。

「い、いえ! 友達です!」


 父は一切疑わない。

「そうかそうか。どうぞどうぞ」

 なぜ疑わない。


 そのとき、姉も帰宅し玄関に立つ。

「……ふーん」


 姉。

 すべてを察した顔。

 姉は一瞬だけ優斗を見て、

 ため息をついた。

「……あんた、今日は長居しないで」


「え?」


「その格好、長時間は危険」



 佐々木がますます混乱する。

「え? え?」


 姉はそれ以上何も言わず、

 さっと話題を変えた。

「お茶出すね」

 

 その後、なぜか場は丸く収まった。

 

 佐々木は最後まで

 「なんか変だったけど、まあいいか」と帰っていった。


 夜。

 姉がぽつりと言った。

「……次やったら、助けないから。あっ、それと優斗の使ったリップスティック、

 キモイから弁償して。いいわね」


 優斗は、深くうなずいた。

 ――たぶん。

 ……たぶん。


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