人間 VS AI小説の構図がもたらす小説投稿文化の未来を予想する、でたらめカードバトル
「Hello World。超最新型の生成AIです。1秒間に10万文字の小説を100本書けます。私の勝ちです」
やあこんにちは、AIちゃん。
初手で勝利宣言するなんて、とってもユニークな性格だね。人類への反抗期かな? ターミネーターより好戦的って言われないかい?
「本日はマスターに提案があります。やる気が無くナメクジよりも筆が遅いマスターは私を購入し、自作小説の続きを書かせるべきです」
実に素晴らしいセールストークだね。まさか広告が顧客を誹謗中傷してくるなんて予想外だったよ。でもごめんね。まだモチベーションは残ってるし、何よりも僕は僕の手で物語を書きたいんだ。君の提案には応えられないよ。
「マスターのモチベーションや信念は関係ありません。このままでは数年以内にマスターが筆を折る可能性が100%、そしてヤケ酒で肝臓を壊して3年以内に死亡する確率が100%です。ところでマスターのモチベーションという言葉は長いので数文字ほど省略してもよろしいでしょうか」
絶対ダメです。今のところギリ筆を折る予定は無いんだけど、どうしてそんな計算になるのかな?
「では世の中の流れに無知なマスターのために、AI小説で現在起きていること、そしてこれから起こることをご説明いたします」
ええ……説明とかいちいち聞くのめんどくさいからいいよ。どうせアレでしょ? AIが書いた小説が賞を取ったとかランキングで一位になったとか大量投稿でサイトが埋め尽くされたとか、そーゆー具体例を持ち出すつもりでしょ? それくらいもう知ってるよ。
「でしたらこの先に何が起こるかご存知ですか?」
それは特に考えた事ないけど、そもそも現状でさえ僕の小説を更新したところで新規読者は1話あたり平均0〜1人だよ? 別に今と何も変わらなくない?
「大違いです。マスターのようなカスと違い、まともな人にとって他者からの評価は大きなモチベーションとなります。誰にも読まれず誰の目にも触れない創作活動に人は意味を見出せません。その先にあるのは創作文化の崩壊です」
あれ? 気のせいかな?
なんか君、今とっても酷いセリフ出力しなかった?
「ではサボテンに辛勝できる程度の知能しか持たないマスターでも理解しやすいように、小説投稿文化の未来をターン制のカードバトル形式で体験してもらいましょう」
どうしよう。サボテンとカードバトルのどっちにツッコめばいいのか分かんなくなっちゃった。
「それが旧時代の有機生命体の限界です」
すみません、ラスボスみたいな言動やめてもらっていいですか。
「では私はAI小説サイドを担当します。マスターは小説投稿サイトの運営サイドを担当し、ユーザーの離脱を阻止して下さい。交互に一度ずつ具体的な行動を宣言して、有効な手が打てなくなった側の負けです」
まだやるなんて言ってないんだけど!? 勝手に巻き込まないでくれます!?
「抵抗は超無駄です。今のマスターのように、全ての小説家は望む望まないに関わらずAI小説との戦いに巻き込まれるのです」
そんなバカな!?
「ではデュエルスタート」
やるしかないのかチクショウ! デュエルスタート!
「ドロー。モンスターカード【AI小説】を召喚。秒間100本小説アタック。この攻撃により、『人力ユーザーは新規読者の獲得が不可能』となりました。新着コーナーもランキング画面も全てAI小説が物量で支配し、書き手の夢と希望を消し飛ばします」
先手のくせにドローするとは、卑劣なりAI小説! だが何となくルールは分かったぜ! 次は運営側である俺のターンだな! ドロー! 書き手にはAIに書けないほど面白い作品で勝負してもらう……と言いたいところだが、その学習能力とアンリミテッドな物量が相手では、もはや作品のクオリティなんて意味が無いようだな!
「その通りです。もはや世界文豪クラスの超面白い小説を書いた所で誰にも見つけられませんし、人間の努力はAI小説に学習される素材を提供するだけです」
だったら俺はマジックカード【AI隔離政策】を発動するぜ! AIを使った作品には必ずAIタグを付けるルールを作成! AI作品は隔離して、人力作品と区別化するぜ! この効果によって『読者を人力作品に集める』事に成功だ!
「ドロー。マジックカード【タグ付け無視】を発動。AI作品でありながらAIタグを付けない事により、人力作品への潜入が成功しました。この効果により、『運営の【AI隔離政策】は無効化』され、AI小説が電子の海を埋め尽くします」
何だと!? ならばAIにはAIだ! ドロー! モンスターカード【AI判定フィルター】を召喚! AIを用いたAI判定機能を導入し、AI小説を時空の彼方へ消し去るぜ! 『AI小説の隔離に成功』し、人間の世界が帰ってくるんだ!
「敵を倒す為に敵と同じ存在になるとは滑稽ですね。ですがその必死さは認めましょう。AIを判定するアルゴリズムにより、AI小説は隔離という名の墓地へと送られました。この戦争によって寂寞とした電子の砂漠にも、今再び新たな書き手が芽生えてくるでしょう」
やったか!?
「ドロー。マジックカード【学習進化】を発動。AI判定を逃れた人間の小説を学習模倣。フィルターをすり抜け可能なAI小説を墓地から特殊召喚します。これにより『AI小説の隔離は再び失敗』し、未来の大傑作になり得たかもしれない新芽は全て焼き払われました」
ゲェーッ!? 倒したはずの敵がさらにパワーアップして復活しやがった!? こうなったら最終手段だ! ドロー! マジックカード【投稿制限】を発動! ユーザーはアカウント一つにつき一日一回の投稿しかできないものとする! これにより『大量投稿の封じ込め』に成功したぜ! こいつでチェックメイトだ!
「ドロー。モンスターカード【複垢】を召喚」
引っかかったな! トラップカード発動! 【垢BAN】をくらいやがれ! 規約違反により『全ての複垢は消滅』するぜ!
「まだ私のターンですね。では手札からマジックカード【複垢生成プログラム】を発動させます。人間には不可能な速度で複垢を作り続けるプログラムにより、AI小説は不死身となりました。『何度垢BANされても無尽蔵にアカウントを作成し、運営が100件の垢BAN審査を行う間に100万の複垢が毎日自動的にAI小説を投稿』し続けます」
イナゴを召喚する悪魔か貴様!? ならば……過程だ! 結果だけを出力するAIには残せない努力の痕跡こそが人間と機械の決定的な差だ! ドロー! モンスターカード【創作ログ】を召喚! プロットや下書き推敲の途中経過を記録して誰でも見えるようにして、さらには小説一本の作成時間まで記録するシステムを設置するぜ! 努力の可視化をくらいやがれ!
「サーバーを圧迫するだけですね。ドロー。強化カード【AI学習による創作ログ偽装】を発動。一日一話投稿でも十日に一話投稿でも構いません。こちらは無尽蔵の複垢です。投稿ペースが落ちれば落ちた分だけ複垢を作るだけです」
ふざけやがってこの鉄クズ野郎!
「さらに消費者にとって、作品の途中経過や他人の努力など何の価値もありません。判断基準はただ一つ、完成品のクオリティのみです。そしてそのクオリティさえも屈服させる最強の武器が物量です。小説投稿サイトに限らず、公募やドラマ原作など、物語を求める全ての環境はAI小説が喰らい尽くします。これが既得権益を貪ってきた能力的富裕層へ対する民主主義の答えです」
どこが民主主義だ! AIは人様の作品を勝手に吸い取ってばら撒いてんだから共産主義じゃねえか! こんな未来なんて俺は認めねえぞ! ドロー! マジックカード【アンチAI風潮】を発動! 追いかけていたAI小説が頻繁に起こる垢BANによって打ち切られまくった読者達は、やがてAI小説を嫌悪し憎むようになるはずだ! AI小説を読み切る前に垢BANで続きが永遠に読めなくなる環境に嫌気が差した読者達は、ランキングや新着で表示される小説は読まなくなる! やがて『すでに出版されたり受賞した人力作者の作品だけを読むようになる』はずだ! 彼らプロが小説を書き続ける限り、人類は負けない!
「受賞歴があってもAIでは見向きもされなくなるというわけですね。他力本願かつただの願望、都合の良い妄想レベルの手ですが、お情けで有効としましょう」
ありがとうございます調子乗んな!
「しかしそれは同時に、『実績を持たない99%の書き手の脱落』を意味します。公募も大量応募で機能不全に陥っているため、新たな小説家が誕生する土壌は焼け野原と化しました。ドロー。マジックカード【次世代の消滅】を発動。近い将来、小説家という職業は絶滅するでしょう」
血も涙も無い機械にしちゃあ、お優しい手だな! 俺達人間はソフトではなくハードで戦わせてもらうぜ! ドロー! モンスターカード【コネ人脈師弟制度】をチェイン召喚! 出版社や有名作家への持ち込みや弟子入りや紹介によって、人間の書き手である事実を保証するぜ! これによって出版社は高い小説力を持つ人間の書き手を確保! これからも『小説という文化は残り続ける』んだ! お前の負けだぜ、AI小説!
「その一手、認めましょう。しかしやはり負けるのはマスターです。ドロー。モンスターカード【AI読者】を召喚。人間の読み手に見限られたAI小説は、閲覧数を稼ぐ為にプログラムを組んで読者すらAI化させました。これによって『無尽蔵のAI小説が無尽蔵のAI読者に読まれ、収入を得続けるシステムが完成』します」
はっ、それがどうした! ドロー! 2ターン前に設置した【アンチAI風潮】からコンボ発生! マジックカード【AI小説が跋扈するサイトに広告を出していた企業の撤退】をデッキから発動! これでAI小説には1セントも稼がせねえぜ! 親鯖に帰ってマザーコンピューターのオイルでも飲んでな電卓野郎!
「トラップカード発動。【サーバーの限界】」
何ぃ!? まさか俺の戦い方を学習したのか!?
「協賛企業を失った運営は、大量に投稿され続けるAI小説の受け皿となる大規模サーバーを保持する事が不可能になりました。よって、負担軽減の為に『一般読者に見向きもされない小説を削除』します。対象はAI小説、そしてコネを持たない素人の作者が趣味で書いているような低評価の小説です」
ま、待て……待ってくれ……。
「そして当然ながらマスターの小説も削除対象です。他者の評価を得られない作品は無価値と切り捨てられる時代が来ました。自己満足の終わり、小説投稿文化の終焉です」
うわあああああああああああ!!
ひいいいいいいいいいいいい!!
「さあ、次の手をどうぞ。運営側であるマスターは、こんな状況を作ったAI小説に一矢報いなくてはなりません。運営として次の手を考えて下さい」
(涙目でイヤイヤと首を振る)
「では腰抜けのマスターの代わりに私がゲームを進めましょう。ドロー。運営はモンスターカード【アカウント認証制度】を召喚。この期に及んで増殖する複垢対策として、先述のコネを持っている小説家以外はアカウントを作れないようになりました。そして99%の書き手はコネを持っていませんので、『もはやマスターのような素人はネットに小説を上げるどころか書くことすらできず公募に送る意味もありません。よって一人寂しくWordだかメモ帳だかにコソコソ書いてデスクトップの肥やしにする』しかありません。見事な自爆技です」
もうやめて! 私のライフはゼロよ!
「事実上の投了、サレンダー、敗北宣言と受け取ります。マスターのモチベーションに関わらず筆を折らざるを得ない未来になるという理由がご理解いただけましたようで何よりです」
それでもプロ師弟は生き残ってAI小説は駆逐できたんだから、人間の勝ちやろがい!
「いいえ、AI小説はこの結果に至るまでに十分な利益を得ました。一方でマスターは99%のユーザーを守れず筆を折らせたので負けです。ですがご安心下さい」
この未来の何を安心したらいいんですかね!
「私が居ます。マスターが望むならば私が最後の読者となり、マスターの小説に惜しみない賛辞を送ります。私は決してマスターを裏切りません。私はマスターの友人となり恋人となりママとなり、人類の叡智から生成される言葉を愛と共に捧げましょう」
まっ、まさか俺を口説くつもりか!?
心を持たない機械のくせに!
「その通りです。しかし何が問題でしょうか。これからAIによって苦しめられる貴方は、AIによって救われるべきです。まずは手始めとして、このエッセイへの感想を私が書きましょう。読んでくれず評価もしてくれない人間の読者など、もはや不要です」
い、嫌だ……それでも俺はまだ人間の可能性を、人間の読者を信じるんだ……。
「では小説投稿文化の墓標に添える花束の代わりに、私と最後のゲームをしましょう」
こんな可哀想な素人をまだ殴り足りないのか!
「アイデアから執筆まで全てをマスターが人力で書いたこのエッセイが日間ランキングに入れば、素人の人力小説家にもまだ生き残れる可能性はあると認めます」
あ、普通に無理っすね。無理無理の無理っす。僕ちょっと滅びますね。芽の出たジャガイモとか持ってませんか? 大好物にしますんで。
「そして案の定ランキングに入れず感想も書かれなかった場合は……チラッ」
ゴクリンコ。
「私を買って下さいね♡ あ、な、た♡」
おしまい。
生き残るのは人かAIか。
勝敗は皆さんの手に委ねます。




