第6話 少女救出
魔法を使うことで魔力総量を増やせると気づいてから約2週間が経った。
俺は相変わらず黒影の一閃を使い続けている。
最近は家の周りや村の中では危険だと思ったので村の外れにある小さな丘の上で練習するのが俺の日課だ。
「暗黒を操りし闇の帝王よ。かの者を漆黒の斬撃で切り裂け!黒影の一閃!」
おなじみの魔法文を詠唱すれば見慣れた黒い斬撃が掌中から飛び出す。
だが、その威力とスピードは日を追うごとにますます強く、素早くなっていく。
できれば試す対象が欲しいがこの辺はモンスターの出現が少ないうえ、現れたとしてもハイゼンを含めた村の若者たちが討伐してくれる。
要するに俺の出る幕は無いって事だ。
まあ、5歳児をモンスターとの戦闘に巻き込む大人なんかそうそういないか。
「でもやっぱ試したいよなー」
成長を実感しているのに実力を試せないのはなんとも歯がゆい。
前世だったら冒険者として依頼をこなしながら剣術を磨いていったが、今の俺はまだ5歳。
冒険者になれるのが14歳からだと考えるとまだまだ先のことだな。
「さて、日課も終わったし帰───」
「キャー!」
「!?」
突如聞こえた悲鳴に驚きつつも声の聞こえた方へと振り向く。
「今の悲鳴⋯まさかモンスターが!」
声が聞こえたのはここから少し離れたところにある森の奥の方からだ。
いくらモンスターの出現が少ないとはいえ、森の奥の方に行ってしまえば普通に奴らのナワバリだ。
「待ってろ!今行く!」
本来ならハイゼンや村の冒険者に助けを求めに行くべきだろう。
しかし、俺が村へ向かう最中にモンスターに殺られたら意味がない。
それなら俺が全速力で向かった方が100倍マシだ。
──────
俺は声の聞こえた方へと全力で走り続けた。
森の中は泥や沼で敷き詰められており足をとられそうだったが上手く避けつつ、なるべく最短距離で走った。
「あの子か」
走り続けてから約5分。
森の中で少し開けた場所に出ると、一人の少女と三匹の狼型のモンスターに出くわした。
少女とモンスターは互いに見合っており、少女は後退りしながらモンスターと距離をとろうとするが、その距離を即座にモンスターが詰め寄る。
おそらく悲鳴を上げたのはあの少女だろう。
あらかた森に迷い込んで奥の方に行ったらモンスターに出会ったしまったてところか。
一方、モンスターは自身のナワバリに入られたことでかなり苛立っている。
いつ、少女に噛みついてもおかしくない。
「黒影の一閃で応戦⋯いやダメだ遠すぎる」
黒影の一閃でモンスターを討伐しようとしたが距離が遠すぎる。
黒影の一閃の有効射程はせいぜい10メートル。
それに対し、俺とモンスターとの距離は約20メートル。
この場から魔法を撃っても現状打破の一手にはならない。
「距離を詰めながら詠唱すればいけるか?」
この方法ならモンスターを黒影の一閃の有効射程に入れることはできる。
だが、走りながら撃っても当たるかは五分五分だ。
仮に当たったとしても倒せなければ相手の怒りを逆撫でて俺まで食い殺される。
「どうすれば⋯」
黒影の一閃での直接攻撃は距離的に厳しい。
かといって、このまま助けに行っても俺諸共食われてしまう。
(せめて、モンスターをあそこに留まらせることが出来れば⋯)
「そうだ⋯!」
一つだけある。
この状況を突破する策が。
「暗黒を操りし闇の帝王よ。かの者を漆黒の斬撃で切り裂け!黒影の一閃!」
俺の右手から放たれた黒い斬撃が森の木を一刀両断。
切断された木の幹はモンスターの頭上目掛けて倒れ、そのままモンスターを下敷きにした。
(よっしゃ!成功!)
作戦が成功したことに喜びつつも、少女の元へと駆け寄る。
「大丈夫?怪我は無い?」
「う、うん。大丈夫」
少女に目立った外傷は見当たらない。ギリギリセーフだったようだ。
「そっか。じゃあ走れる?」
俺の問いかけに対し少女は小さく頷く。
「よし、村まで走るよ」
俺は少女の手を取り、村まで一直線に走った。
──────
少女と走り始めてから約10分後、やっと村へと帰ってこれた。
道中何度か泥に足を取られて転けたせいでかなり泥まみれだが、命があるだけマシか。
「ここまでくればもう大丈夫だよ。家はどこかわかる?」
俺の問いかけに対し少女は小さく頷いた後、一人で歩き始めたので俺は後ろから少女について行った。
──────
それなりに歩き、村の奥の方まで来た。
俺の家は村の入口に近いのでこんな奥の方まで来るのは久しぶりだ。
「お家、ここ」
少女がそう言うと、この村では珍しい二階建ての家の前で立ち止まった。
「え、本当にこの家?間違ってないよね?」
「間違ってないよ。私のお家だもん」
まじか。確かこの家って⋯
「村長の家じゃねぇか!」
ちなみにバルトが剣を持ってきてたら30秒くらいで圧勝してました。(前世なら10秒切ってると思う)
『若き剣聖』という呼び名も伊達じゃないですね。




