第5話 魔法って難しい
「にしても凄い切れ味だな」
見事な断面を見せる木に近づきそっと断面を撫でてみるが引っかかることなく綺麗に切断されている。
「おーいバルト。なんか凄い音が⋯は?」
急に名を呼ばれたので振り返ったら音を聞いて出てきたであろうハイゼンが口をあんぐりと開けて玄関前に突っ立っていた。
「な、何があったんだ⋯?」
「魔法使ったらこうなった」
使うといっても詠唱しただけ。
理論上、魔力があったら老若男女問わず使えるはずだ。
「もう使えるのか!?ついさっき魔導書を読み始めたばかりだろ!?」
驚きを隠せないままハイゼンが結構なオーバーリアクションで質問してくる。
正直うるさい。
とはいえ、ハイゼンの気持ちもわからんことはない。
5歳の息子が魔導書を読み始めてから30分で魔法を使ってるのだ。
驚くのが普通であろう。
俺自身もこんな威力の魔法が使えるなんて思ってもいなかった。
炎とか水とかが弱すぎて、
(なんか様になればそれでいい!)
とか考えていたらまさかの一刀両断。
なんとも恐ろしい限りだ。
「使うだけなら詠唱すればできるから難しくないよ。使うだけならね」
さっきの魔法を見ればわかる通り、この魔法は威力が高すぎる。
魔法の威力を下げれないと周りを巻き込むし、必要以上に魔力を消費する可能性もある。
それに、前世で話す機会があった魔術師も
「魔法使いにとって魔力量の調整は命の次に大事!」
みたいなことを言っていた。
しかし、魔導書に書いてあったのは魔力量と威力が比例するってことだけで威力制御については書いていなかった。
おそらく入門書ような魔導書には書かれていないのだろう。
それほど、難しいという裏付けにもなりえるが。
「ま、まあとりあえず、魔法の使いすぎには注意すること。いいな?」
「はーい」
思考に没頭していた俺に対し、ハイゼンはそう言うと、再び家の中へと戻って行った。
魔法の使える息子に魔法が使えない自分がどう声をかけるべきか迷った結果、あの注意にとどまったんだろう。
さて、ハイゼンのことは置いておき、思考を問題解決へと向けよう。
問題となるのは魔法の威力制御。
さっき魔法を使った際は何も意識せずに使ったので今回は最初のステップとして全身に意識を向けて、魔法を使う際になにか違いがないかを探ってみる。
もちろん何もない空に向かってだ。
「暗黒を操りし闇の帝王よ。かの者を漆黒の斬撃で切り裂け!黒影の一閃!」
先程と同じような黒い斬撃が空へと飛ぶ。
そして、早速収穫があった。
どうやら体の中心から流れた"何か"が右手に流れ着くことで魔法が発動するようだ。
「なんだ今の?」
俺の感覚としては右手にその何かが集まり終わると魔法が発動した。
これは今即興で立てた俺の仮説だが、その何かの正体は魔力そのもので、魔導書に書いてあることが正しいなら魔力量を調整すれば威力も調整できるはず。
よし、思い立ったが吉日。早速実践だ。
再度右手を構えておなじみの詠唱を唱える。
そして、右手に集まる魔力量を減らす。
イメージとしては魔力の流れを緩やかにして量を調整するかんじ。
「暗黒を操りし闇の帝王よ。かの者を漆黒の斬撃で切り裂け!黒影の一閃」
またもや黒い斬撃が空へと舞う。
だが、今までダース・フィンズとは違い、斬撃の大きさが一回りほど小さくなった。
「よっしゃ!成功!」
これでダース・フィンズの威力を下げることには成功した。
じゃあそこからの発展ということで次は威力を上げれないかを試す。
やることはさっきの逆、右手に集まる魔力量を増やす。魔力量を減らすよりも調整が難しいだろうがやるだけやってみよう。
「暗黒を操りし闇の帝王よ。(以下略)」
四度目の黒影の一閃はまたもや空へと舞う。そして斬撃の大きさはというと⋯
「うーん。最初と変わらないか」
やはり流れる魔力量を増やすというのは難しいのだろうか。
魔力量を減らすだけなら途中で塞き止める感覚を掴めればできる。
これは意外と簡単。
しかし、流れる魔力量を増やすとなると元々の魔力総量が多くないと無理だ。
となると、魔力総量を増やすことができればいいのだが、実際のところ本当に増やせるのかは今の俺にはわからない。
前世の魔術師たちとの会話を掘り返してみても核心をつくような発言は思い出せない。
「やばい、早速難題にぶつかってしまった」
──────
魔力総量を増やす方法がわからないという難題にぶつかってから約一ヶ月。
問題解決のために試行錯誤しながら毎日のように魔法を使い続けていると、とあることに気がついた。
「なんか大きくなってる?」
一番最初に放った黒影の一閃よりも明らかにサイズが大きくなっている。
威力を上げようと意識せずに魔法を使っても元の1.5倍ほどのサイズになっているのだ。
「⋯待てよ?魔法の威力と消費する魔力量は比例するんだよな?」
手元に持っている魔導書をペラペラとめくり
記憶を頼りに該当のページを探す。
「あった、えーっと⋯『魔法の威力や効果が高くなるにつれ、消費する魔力も多くなる』」
これが正しければ俺の黒影の一閃の威力が上がった分、消費する魔力量が増えたと考えるのが一番しっくりくる答えだ。
だが、先程述べたように、威力を上げようとせずとも黒影の一閃の威力が勝手に上がっていた。つまり、俺が意図せずとも勝手に流れる魔力量が増えていたことになる。
うん。ここまで証拠が出れば流石に俺でもわかる。
俺は魔法を使い続けたことで意図せずに魔力総量を増やしていたのだ。
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