第2話 剣士と魔術師
魔術師になることを決意した翌日、俺はあまりにもデカすぎる壁にぶつかった。
その壁とは───
「やっべー。どうやってあの二人を説得しよう⋯⋯」
両親の説得である。
「いや、ゼレーナはそこまで問題じゃないな。問題はハイゼンの方だ」
ハイゼンは現役冒険者の剣士職。その実力も確かなようで、ギルドからもかなり信頼をされているらしい。
実際、剣の指南で一度模擬戦をしたことあるがなぜこんな片田舎で活動しているのか不思議に思うほど強い。
前世の俺と比べても見劣りしない実力者だ。
そして、父親というものは自分と同じ道を子供に歩ませようとする。
息子なら尚更だ。
つまり、ハイゼンは俺に剣士になって欲しいと考えている可能性が高い。
そんなハイゼンを説得するのは至難の業だ。
「⋯⋯⋯⋯考えても仕方ない。単刀直入に打ち明けるしかないな」
俺の頭で説得方法を考えたところで時間の無駄でしかない。
早いこと本音を打ち明けるのが最適解だろう。
──────
翌日、ハイゼンの剣の指南が朝早くから行われた。
「相手の動きを見てそこに合わせるんだ!」
「はい!」
今やっているのは『流し』の練習だ。
相手が振ってきた剣に自身の剣を添えるようにあてて受け流す。これを剣士達は『流し』と呼んでいる。
例えば相手が袈裟斬りをしてきたとしよう。
その場合、自身の肩付近に剣を持ってきて相手の剣を受ける。
そのまま受けた剣を真横などに流すことで剣先を思わぬ方向に持ってこられた相手は体制を崩しやすくなる。
この戦法が『流し』だ。
この戦法を上手く扱えば対人はもちろんモンスターとの戦闘でも立ち回りやすくなる。
もちろん、相手が龍みたいな規格外のバケモンじゃなければの話だが。
しかし、これほど万能な『流し』も簡単に狙えるものじゃない。
タイミングがかなりがシビアなのだ。
『流し』の構えが早すぎると相手は別の部分を狙い、遅すぎれば斬撃が致命傷になりかねない。
だから今の剣士たちは回避からのカウンターが主流になっている⋯はずなのに、ハイゼンは回避をせずに『流し』をほぼ百発百中で決めてくる。
少し前の指南で行った模擬戦でも俺の攻撃をすべて受け流され、負けてしまったのである。
(ま、まあ、俺子供だし、ね?)
いくら『若き剣聖』といえど子供の体で前世と同じ動きをしろと言われても無理だ。
せいぜい半分ぐらい再現できたらいいところだろう。
──────
「よし、今日はここまでにしよう」
「はい。ありがとうございました」
いつもより長めの指南が終わり、挨拶をする。
「かなり『流し』が上手くなったな。これなら俺を超える剣士になる日も近いかもな」
ハイゼンの大きな手が俺の頭をワシャワシャと豪快に撫でる。
(俺を超える剣士、てことはやっぱり⋯)
当たっても嬉しくない予想が当たってしまった。
「どうした?お前にしては元気ないな?」
顔に出ていたのだろう。親というのは子供に関しては色々敏感だ。
(今言うしかない)
ここまでのチャンスはなかなかない。
今言わなければ、後悔する。
「父さん。もし、俺が魔術師になりたいって言ったらどうする?」
不意をつかれたであろうハイゼンが一瞬驚いたような表情を見せた⋯⋯が、すぐに消え去り、意外な言葉を発した。
「俺はお前に剣士になることを強制させるつもりは無い。俺が剣の指南をしているのはあくまでお前の道を広げるためだ」
「道⋯?」
「ああ。剣を扱えれば、俺みたいに冒険者として活動できるし、国の試験に受かれば騎士としても働けるだろう。それに、剣士にならなくても剣の指南を通して得た体力と技術は応用の効くものばかりだ」
「でも、さっき俺を超える剣士になれるかもって⋯⋯」
「それは、お前が剣士を目指した場合の話だ。さっきも言ったが俺はお前の将来を縛るつもりはない。お前はお前の道を歩めばいいんだ」
ハイゼンはまた俺の頭を撫でる。
先程の豪快な撫で方とは違い、慈愛に満ちた優しい手だった。
───ハイゼン───
「あなた、よかったの?あれだけ剣を教えてあげていたのに」
夜も深けて、飲み物を持ったゼレーナが俺に話しかけながらイスに座る。
「いいんだよ。バルトが自分から目標を掲げて頑張ろうとしてんだ。それを邪魔するなんて親のすることじゃないさ。それに、バルトには俺と同じような思いをさせたくない」
俺は別に剣が好きだから剣士になった訳では無い。
剣士として活動していた父からの圧で俺は剣士の道を選ぶしかなかったのだ。
だが、それでも俺は父に感謝している。
父が俺を剣士として、冒険者として育ててくれなかったら、今の可愛い妻を迎えることができなかった。
だからどちらかというと感謝してるぐらいだ。
「そうね。あなたらしい。じゃあ魔導書を買ってあげるの?」
「うーん。正直ちょっと俺の小遣いじゃなー」
魔導書だって安くない。
入門書のようなものでもそれなりの額はするだろう。
「でしょ?だからバルトのために貯めていた貯金を使っていいから」
「え、いいのか?でもあれはバルトが学校に行くため貯めたお金だろ?魔導書に使って⋯」
「つべこべ言わないの。学校に行くにしても魔導書を買うにしてもあの子のためになるんだから。その代わりちゃんとした魔導書をかってきてね」
「わかった。じゃあ明日の朝にでも買いに行くよ」
近くの本屋だと品揃えが悪いから、都市の方まで馬車に乗っていくか。
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