第12話 偉大な魔術師
ハイゼンの元へと駆け寄った俺はハイゼンの出血を止めようと必死に傷口を抑えた。
「止まれ!止まれ!」
そんな頑張りも虚しく、出血量は減るどころか増えていき、次第にハイゼンの呼吸も浅くなっていった。
(このままじゃ死ぬ!)
冒険者として活動してきたからわかる。
この深傷と出血量は命に関わる。
前世の仲間も同じような傷を負って死んでいった。
その時のトラウマが鮮明に思い出されていけばいくほど、ハイゼンの傷口を抑える力が強くなっていった。
「なんで!なんで止まんないんだよ!!」
冷静に考えれば圧迫出血で止まるような出血量ではないのは明らかだった。
だが、親を殺してしまうことの罪悪感と止血を急ごうとする焦燥感に駆られて、俺は冷静さを欠いていたのだ。
「それ以上はダメ。傷が悪化する」
血で汚れた手で止血しようとする俺を一人の女性が制止した。
この場にいる女性は一人しかいない。そう、バーゼルが連れてきた若い魔術師だった。
「でも⋯血が⋯⋯!」
「大丈夫。後は任せて」
彼女はそう言うと右手をハイゼンの傷口へと近づけ、魔法の詠唱を始めた。
「傷負うもの誉れを称え、女神から大いなる祝福を。神涙の治癒」
そう唱え終わるとハイゼンの傷口がみるみる塞がっていき、詠唱を終える頃には完全に傷が塞がっていた。
「傷が⋯治った!」
「この程度の傷で良かったです。これ以上酷ければ私の治癒魔法では治せませんから」
この程度と言っているが傷の規模からして普通の治癒魔法なら傷が塞がるのにあと10分以上かかっていただろう。
それをものの数秒で治してしまったのだ。
彼女は自分を底辺と揶揄していたが、実力を見るに治癒魔法を扱える魔術師の中でもかなり上位の魔術師なのかもしれない。
「ハイゼンさん。大丈夫ですか?」
「すまない⋯⋯助かった」
「意識もしっかりしてますね。傷は塞がりましたが、倒れた際の衝撃と出血で全身を痛めていると思いますのでもう少しの間治癒魔法を続けますね」
彼女はそういうと手のひらををハイゼンの身体へと向け、治癒魔法を再開した。
「あと、バルトくん。これ」
不意に名を呼ばれ顔を上げてみれば、彼女がハンカチを渡してくれた。
「涙と血で顔が汚れてるからそれで拭いて」
「⋯ありがとう⋯ございます」
彼女の言った通り、顔を拭ったハンカチには血と涙がついていた。
恐らくハイゼンの出血を止めようとした手で涙を拭ったからだろう。
深傷を治療し、周りに気を配れる。
もし、前世で彼女と出会っていれば自チームへと勧誘していたかもしれないな。
「よし、これで大丈夫です。ハイゼンさんまだ痛むところはありますか?」
「いや問題ない。助かった」
治療を終えたハイゼンは上体を起こし彼女に対して礼を述べた。
「良かったです。では先にバーゼルさんと共に村へとお戻りください」
「いや息子を残して先に帰る訳には行かない。俺も残らせてもらうよ」
「ダメです。治癒魔法をかけたとはいえ、元々重症だったことに変わりありません。早く家に帰ってお体を休ませてください」
反論するもキッパリ正論で返されたハイゼンは少し不服そうな顔をしながらバーゼルに肩を借りて村へと戻って行った。
「じゃあバルトくんも治療を」
彼女はそういうと俺の腕を手に取り治癒魔法をかけてくれた。
治癒魔法を当てられた部分は少しだけ熱を帯び、傷や疲労を少しづつ着実に回復していく。
「そういえば、さっきバルトくんが使った魔法。あれは闇魔法かな?」
「そうです。でも、扱える闇魔法は『黒影の一閃』だけですが」
「それでもすごいよ。闇魔法はそもそも扱える人が少ないからね」
「⋯⋯すごい?」
「あれ?私何か変なこと言った?」
「い、いえ。なんでもないです」
初めて闇魔法を褒められたことに驚き、聞き返してしまった。
ハイゼンを筆頭にバーゼルやセレナ家族も闇魔法にあまりいい印象を持っているように見えなかったが、どうやら彼女は違うらしい。
「私、実は魔術学校の卒業生なんだけどその学校の生徒や先生達でも闇魔法を扱える人は居なかったの。でも、バルトくんはその歳で闇魔法を扱えてる。もしかしたら将来偉大な魔術師になってるかもね」
「偉大な魔術師⋯」
彼女の言い草は冗談混じりのものでは無い。
本当に俺が偉大な魔術師になれると思っているのだ。
「よし。治療は終わり。じゃあ村に戻ろっか」
「はい。治療ありがとうございました」
彼女に礼を述べたあと一緒に村へと戻った。
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