第三話
星野高校に入学した杉野凌也と、幼なじみの高橋篤弥と学園で出会った清水愛梨。入学式後、校庭に出ると校舎の上から井口ハルノが落下するのを目視した。救助をしたハルノの兄である井口来人と合流した。するとこれが四度目という事を聞く。そこから不穏な空気が漂ってきて…!?
「あの、そのベッドの下にある何かはなんですか?」
思わず反動的に聞いてしまった。すると寝込んでいるハルノさんの隣に座っている来人先輩は、低い声で聞いてきた。
「下の…もの?」
来人先輩が確認しようとした瞬間、保健室の先生が入ってきて「ほらっ、さっさと出ていきな!」と言い、閉め出されてしまった。する事も無く、その日は一旦家に帰ることにした。
次の日、俺は先に屋上に登ってきていた。一応今日も危険な可能性はあるので先回りしておいたのだ。
すると、やはりハルノさんは屋上に登ってきた。
「…っ!」
「昨日は全く話せなかったから、しっかり話そうと思って。」
「近づくな!!アンタの魔法ぐらい知ってる!!」
そう言うとハルノさんはナイフを出して脅してきた。魔法でナイフは地面にくっつけて聞いた。
「話に来ただけだよ。何でそんなことをするのか教えて欲しいだ。」
「フッ…フフフ、まぁ来人が聞いてないしいいわよね…」
「何がだ?」
「私の能力は『自傷報酬』。自分に攻撃すればするほど報酬…まぁ、金を貰える能力よ。」
それであんな事を…!?
フツフツと心の底で怒りが湧いてきた。怒りで低くなった声で聞いた。
「来人先輩が助けなかったらどうするつもりだったんだ?」
「最後まで聞きなさい。私の能力の肝はここからよ。自傷行為は絶対に成功しない。だから、痛みはあっても怪我はしないのよ。誰かが助けてくれたり、ナイフの刃が折れたりするのよ。あ〜あ、甘っちょろい世界よね〜?簡単だわ〜。」
数分、たったの数分で俺の怒りは限界に到達した。
「井口ハルノ。」
「ん?」
「お前は死者を見た事があるか。」
「急に何の話よ?」
「覚悟をしろ。死者への冒涜をした罰への。」
こいつは最早人間ではない。四回死んだ女。いや、悪魔だ。
俺が攻撃を構えると、井口ハルノは片手でナイフを拾い、もう片手ではピストルを出した。
「覚悟をすんのはアンタよ!!あたしの計画の邪魔者め!!」
都合が良かった。鉄で作られた武器を持ってくれるのは。
まず『磁石』の能力で武器と手をくっつけた。その後周りの壁をS極、井口ハルノの体をN極にした。
両端の壁から引っ張られ、井口ハルノの体は引きちぎれそうになっている。だが、武器を持っているのは井口ハルノ自身。なので痛みだけを感じるという、生き地獄なのだ。
「う…うああああああ!!やめなさい!!アンタこんな事してタダで済むと…」
「武器を握っているのはお前だろ?」
数分して、登校中だった来人先輩が屋上に登ってきた。
「おっ…お兄ちゃん!!助けて!!」
井口ハルノが被害者ぶって叫ぶが、来人先輩の反応は無い。
「お…お兄ちゃん!?おい、おい!聞こえねぇのか!!来人!!さっさと助けろ!!」
来人先輩が井口ハルノを見て口を開いた。
「今の会話な、電話で全部聞いてたんだよ。」
そう言うと、ポケットから電話の画面がついている携帯を取り出して、地面に落とした。
「なあ、ハルノ。」
井口ハルノの武器を剥がしてから、先程の怒りの含んだ声とは変わって、清々しい声で話し始めた。
「懐かしくないか?十年前の母さんと父さんが死んだ日。」
すると、来人先輩は昔の話を思い出すように話し始めた。
【十年前…】
来人、ハルノそしてその父母である、井口道郎と井口聡里は平和な生活を送っていた。魔法という存在が生まれてからこの国は、国家としての役割は果たせなくなった。その事により、犯罪が蔓延っていた。その中でも最も力を持った組織、『獣集団』は無差別に殺人を行っていた。
ある日井口家にビーストズの幹部が襲ってきた。道郎が、聡里に子供を任せて戦ったが、善戦したものの死んでしまった。その後追ってきた幹部に聡里は殺された。だが、道郎との戦いで体力を消耗した幹部は、基地に逃げていった。
おかげでハルノと来人は生きることが出来たのだ。
「あのビーストズの野郎のせいで俺らは自分で稼ぐしかなくなっちまった…なあ杉野凌也、殺すなら俺を殺してくれ…!俺があの時幹部と戦っていれば…もっとハルノに寄り添ってやっていれば…」
「…それぐらいいいですよ。悪いのは来人先輩やハルノさんじゃありません。ビーストズの幹部です。」
泣き出した来人先輩の説明のおかげでハッキリした。
来人先輩たち、井口家は両親を殺された影響で十分なお金がなかった。その為、ハルノさんは自分の体を犠牲にして、金を稼いだのだ。
普通の精神状態ならば、自殺未遂を連続なんてしないはずだ。だが、母親の死を目の当たりにしたこと、そしてその影響で十分な環境で育たなかったことが関係しているのだ。
頭の中で情報を整理していると、来人先輩が口を開いた。
「その事で一つ情報がある。」
「情報?」
「学校に一人ビーストズが潜んでいる。」
「何!?」
「お前たちの同級生の一年生の情報だ。明日聞きに行くといい。住所はここだ。」
こうして俺たち三人は、次は同級生の家に訪問することになったのだ。
第三話 終
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