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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.2 お嬢様、"聖女再来"の天啓が降りました。

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<第67話> お嬢様、聖都でおデェト致します…!?

明くる日の朝。

私は朝食を早々に済ませ、聖都:時計街(ロィローイ)へ向かう準備を進めていた。


皆んなは私が一人で行くと思っているけれど、厳密に言えばちょっとだけ違う。

私には普段はバレッタに姿を変えている、契約精霊:瑠璃蝶々(ロベリア)が居ますもの!


もちろん私はバレッタを身に付けて聖都へ向かいます。

昨晩ルリに聞いたけれど、契約精霊と契約者の転移は同一対象の者として処理されるらしい。

なので今回は二人旅なのです。


推し様とご一緒する旅、行き先も聖都…

なんて素敵な響きなのでしょう、胸が高鳴りすぎて夜しか眠れ(もう喋らないと脅され)ませんで(てしまい気合いで寝ま)した。




「お嬢様、準備が整いましてよ」


「ありがとう、ローラ」


今日はローラに、大変気合を入れて(めか)し込まれた。

私が聖都に向かうと聞くやいなや、流行りの髪型を列挙されたくらいだ。

最終的には、"ツインお団子"なる髪型に。

低めの位置に二つのシニヨン(おだんごヘア)を作り、リボンまで編み込んでくれた。

リボンの色は青を、とお願いした。

お母様の髪の色、アベルとお父様の瞳の色だ。

少しでも一緒だと、嬉しいかなって思ったの。

いつも通り、ルリは何も言わなかったけれどね。


服装は月白(げっぱく)のやや簡素なワンピース。

フリルは控えめながら、レースの細かな意匠が美しい品。

これは以前メイド達が見立ててくれたものの1着で、魔導布(マギア・メタクスィ)で仕立てられた品。

控えめなデザイン且つ素材面で考えても、丁度聖都に合うだろうと、この装いになったのだ。


仕上げに私は、襟首に家紋の入ったバッジを付ける。

糸車に、ウィンティーの花々が象られている。

簡素ながらも、カスミソウのように可憐に咲くウィンティーの花が可愛らしい。

カミラ曰く、いざという時はこのバッジが身分証明になってくれるとのこと。

小さいながらも心強い。


「お嬢様、お鞄もお忘れなく」


「か、帰りの路銀も入れておいたので…!」


「カミラとジェシーも、ありがとう」


小さなショルダーバッグを肩から下げて。

ガードナーから受け取ったニマ・ローゼを紙袋で持てば、もう完璧。

これで聖都向けお出掛けコーディネイトの完成だ。



「それでは、行ってきます」


「「「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」」」



私は、聖都(ティリメタフォラ)の鍵(・イエラスポリス)を二つに千切る。

それはカミラが触っていた時とは違い、最も簡単に分断される。


途端、私の視界が薄く光る。

その光は徐々に輝度を増していき、視界を完全に白へと染め上げる。

眩さに目を瞑る直前、旅立つ私を笑顔で見送るメイド達の姿が見えた。






ー チュンチュンと、鳥が囀る音が聞こえる。

風が吹き抜けていくのを、肌で感じる。


数秒と経たないうちに、瞼の先からは眩しさを感じなくなっていた。


恐る恐る瞼を開けば、そこには王都と違った作りの街並みが広がっていた。



王都の街並みは、バロック様式に近かった。

豪華さと劇的な表現が特徴で、複雑な形状や曲線、装飾的な要素が用いられた建物。

加えて街全体が、色鮮やかだった。


私の目の前に広がっているのは、ゴシック様式に近い。

尖頭アーチに薄い壁、広い窓。 窓には豪奢なステンドグラス。

外壁や柱には、豊富な彫刻が施されている。

ただ町全体は白が基調の建物が多い様で、ステンドグラス以外は真白い街。



「…ここが、時計街」


私はポツリ、そう言葉を溢していた。

統一された街並みの荘厳さに、圧倒されていたのだ。

宗教の中心都市と謳われるだけある、見事な景色だ。



(わたしもここに来るのは初めてね、圧巻だわ)


「ルリ!その、今私と話していてもいいんですか?」


唐突に掛けられた声に、私はつい驚いてしまう。

ルリと二人旅ではあるが、ここは街中。

行き交う人々も少なくない。


(今のアナタは観光客みたいなものだもの、少しくらい構わないかと思って)


「それは確かにそうです」


(観光客が舞い上がって独り言を言っていても、誰も気に留めなくってよ)


「…ルリさん?」


私が少し訝しげに言うと、彼女はさもおかしいと言いたげに笑う。


(フフ、冗談よ。わたしも少し話したくなったっていうのもあるけれど、ここは聖都:時計街。精霊と縁のある者も少なくないでしょう)


「なるほど、それなら問題ありませんね!」


()()()()()()()()()()()()()()()()だけど、この街ならいるでしょう)


「も、問題ありませんね…」


す、少しくらいは妥協しましょう、私。

だって憧れの推し様と二人旅…


二人…



…ふたりきり!?!??


こ、これは巷で言う"デェト"というものではありませんか!?

お好きな方と二人きりでお出かけするという、あの、そうです"デート"!!!


(あらミヤビ、どうかしたの?)


「いえっ!?なんでもありませんよ!!!」


つい声が大きくなってしまった挙句、声が裏返りまでしてしまった。

おまけにルリの声と反対側を向いて、咄嗟に屈んでしまった。

しっかりなさい私、落ち着くのよ。

周囲の人が一斉に私を見た気がするけれど、それは一旦置いておきましょう。

何をしているとまで聞こえた気がする、それは私も自分にそう問いたいところです。



ロベリア様とおデート…

なんということに気が付いてしまったのでしょう。

というか、何故今まで気付かなかったのですか私のおバカさん!!

まどプリでもイケてるメンズの方々とのデートはあったというのに…


…というか。 これですよ、これ!!

私はまさにロベリア様とおデートしたかったのです!!!

ゲームの制作者様は終ぞ叶えてくれなかった願いが、今ここで実現しています。

人生何が起こるか分からないとはよく言ったものです。本当に。


どうしましょう、私デートなんてしたことないもので、お作法が分かりません…

レディを殿方がエスコートするのだったかしら?

いやそもそもレディと殿方が二人で行くのがデート…?

何を言うのです時代は多様性、女性同士でもいいはずです!

好きに男女の壁などございませんわ!!

でも私はロベリア様をお慕いしてはいますが、恋愛的なものではなく、憧れとかそういうもので…


「まるで百面相なのじゃ」


(そうよ、なにを顔芸なんてしてるの)


「なっ、なんでもありませんからっ!!!」


思わず顔が真っ赤になってしまう。

ああ〜穴があったら入りたいとは、このこと…

なんなら今すぐ私が掘って入りたい!誰か埋めて下さらないかしら!?


はぁ〜…

好きなお方との二人きりお出掛けが、こんなにも心が跳ね回るものだなんて。

嬉しかったり、恥ずかしかったりと、感情が飛び跳ねて捕まりそうにもない。

そう思うと、「彼氏とデートした」と言っていた同級生の豪胆さたるや。

こんな状況に動じないだなんて、豪胆以外になんと表現するの!?

私は百面相だの顔芸だの言われているのに。


そんなのロベリア様らしくない、もっと毅然としていなきゃ…

だけど…



「まるで熟れた果実じゃのぉ」


(収穫目前ね)


「トマトじゃないんですからぁ!!」


無理そう…今の私には…。

そういえばロベリア様もノワゼットの前ではお顔が赤かったし、少しくらい許してもらえないかしら。

種類は違くとも、好意には違いないのです。


というか、おデートは好きあう者同士でするのではなかったかしら?

ロベリア様、ルリは…私をおデートする程に好きではないだろうし。

…もしかして私の早とちり?


あらやだ私ったら。


また違った恥ずかしさが、自分の中に込み上げてくるのを感じる。

もう一度言います、穴があったら入りたいです。



「こんな所で何をしてるのじゃ」


(そうよ、何のためにここに来たのよ)


「そ、そうでした…」


今日私がこの聖都:時計街を訪れたのは、神殿を訪ねる為。

そしてあの歴史書から消されたであろう、()()()に関する情報を得る為だ。

その情報があるかないかで、今後のロベリア様が悪魔と成る運命も防げるかもしれない。



こんな所で、トマトみたいになってる場合じゃない。

気持ちを切り替えて…と。


「それでは早速、神殿に向かいましょう」


私は振り向き、一歩を踏み出す。

すると。


「のじゃっ!?」


私は誰かとぶつかってしまった。

…そういえば、ずっと誰か「のじゃのじゃ」言ってた気がする。

ずっと聞かれてた、見られてたってこと?

ルリは見えないだろうから、私の一人芝居を一部始終??

挙句ぶつかるだなんて、なんと恥ずかしい。

いやそれよりも、先ずはぶつかったことを謝罪しなければ。


「ごめんなさい、お怪我はありませんか」


恥ずかしさを噛み殺しつつ、そちらに手を差し伸ばして見れば、歳は10歳程であろう少女が尻餅をついていた。

全身白の装い、髪までもが透き通る様な白で、瞳はベールの様なもので見えない。


「全く、酷い目に遭ったのじゃ…」


「そちらについては、言い逃れのしようもなく…」


少女は私の手を取らず、一人でのそのそ立ち上がる。


表情さえ窺い知れぬその少女は、大きく溜め息を吐く。

そして私の向かおうとした先へ、くるりと方向転換しながら言葉を投げる。


「瑣末な事は良い。ワシは神殿の者じゃ、行くぞ娘っ子」


「神殿の…?」


こんな幼い子が?

いや、今の私よりは年上か…?


「…何を見ておるのじゃ、そうじゃと言っておろう」


ああ、見かけで人を判断しようなんて、失礼極まりないわよね。

…この世界では特にそうだと思い知ったのは、私のはず。

私ったら舞い上がりすぎてる、冷静にならなくちゃ。

この子が神殿の使いで、迎えに来たのなら、公爵令嬢ロベリアとして失礼のない様にしなければいけない。

私の為にわざわざ足を運んでもらったんだ、そこに年齢も何も関係ない。

それに仮に悪戯だったとしても、付き合うくらいの時間もある。


「その、失礼な返しをして申し訳ありませんでした」


私は頭を下げる。

しかし彼女は、何でもないことのように言う。


「まぁ少なくない事じゃからの、気にしとらんよ。坊に比べりゃ億倍マシじゃしの」


「寛大なお心遣い、感謝致します」


「良い良い、頭を上げよ。時間は有限と言うらしいしのぉ」


言われた通り、頭を上げる。

すると彼女は、そのまま体を向けていた方へ歩き出す。


それに着いて行こうとしたところで、彼女はピタリと足を止めた。




「そうじゃったそうじゃった。ワシとした事が、()()がまだじゃったのぉ…」


…アレとは?


そんな私の思いとは裏腹に、彼女はこちらをパッと振り返る。

そして大仰な所作で、街に向かう様にして、両手を広げる。


()()()()()()()()()時計街(ロィローイ)へようこそ」


「へ…?」


「歓迎するのじゃ、娘っ子よ」


その顔の中で唯一見える口は、さも愉快そうに笑っていた。

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