<第66話> お嬢様、手紙の意図を紐解きましょう。
神殿から色良いお返事を頂いたのは良いのだけれど、何やら騒ぎになってしまった。
私は頂いた手紙を机に、椅子に座り直す。
廊下からは未だ、ジェシーの声が聞こえてくる。
「かっ、カミラ様ぁ〜!!どこですか〜!!!」
…もしかして一大事?
何事だか、全く見当は付かないのだけれど。
暫くして、ジェシーの声が聞こえなくなった。
かと思うと、ドタバタと忙しい足音が近付いてきている。
自室の扉の方へと目線を向けていれば、やがてジェシーが引っ張るようにしてカミラを連れてきた。
「た、大変なんですよ…!」
「ジェシー、分かりましたから。少々落ち着きなさいな。何が大変なのです」
連れてこられたカミラは、まだ事情の方は知らなそうだ。
この場合、私から話したほうが早そうだ。
「ごめんなさいね、カミラ。ジェシーと二人で、神殿からのご返信を読んでいたところだったの」
「左様でしたか、それはお早い返答で御座いますね…」
「ええ、そうらしいわね。えーっと…」
よくよく考えれば、説明するよりも見せたほうが早いかもしれない。
読み違いがあってもいけないし、見せてから疑問点を聞いた方が早い。
「一旦、返信のお手紙を読んでもらっても良いかしら」
「かしこまりました、拝見致しましょう」
私は机の上に置いた手紙、その便箋を差し出す。
カミラはそれを受け取り、眼を通す。
「…成程。よく出来たご返信です」
「そうそう、良いお返事が」
「いえ、あまり良いとも言い切れませんね」
え…?そうなの?
やっぱり何か、読み違えていたかしら。
「このご返信の内容としては、『聖都にお嬢様お一人を歓迎する』というものです」
「私一人!?その、同伴者もなく…?」
「はい。その意図までは測りかねますが…そちらは間違いないでしょう。このお便りからは、なんらかの意図を感じます」
「なんらかの、意図…?」
そんな内容あったかしら。
私一人を歓迎するなんて書いてなかったし、何かがそれを意味していたとしたら…
もしかして、一枚しか入っていなかった"聖都の鍵"のこと?
私は封筒の中から、チケットのようなものを引っ張り出す。
「カミラ、もしかしてこれが関係しているの?」
「少々拝借しても構いませんか?」
「構わないわ、これって何なの…?」
それを受け取った彼女は、顔を近づけ、凝視する。
かと思えば、振るってみたり、引っ張ってみたりする。
「どうやらこちらが"聖都の鍵"で間違いないでしょう、私も数度しか実物を見た事は御座いませんが」
「"聖都の鍵"…?」
な、長い。
名前からして、大層な感じは伝わってくるけれど…
待って。イエラス…
それって神聖詠唱と似た単語ではないかしら。
そう仮定するなら、神聖な…何か。
この場合、字面から想定するなら、『神聖な都=聖都』?
メタフォラ…も何か聞き覚えがあるような。
あっ。
「もしかして、聖都への転移魔道具…?」
確か先日、転移術式の施された門の話を聞いた。
私のこの推測が間違っていなければ…
「お嬢様の仰る通りで御座います。聖都の鍵は、神殿から必要時に与えられる特別な魔道具。使用者を聖都:時計街へ転移させる効果がある御品なのです」
あら、聖都にそんな素敵な名前が…ファンタジー世界っぽいお名前
…って、違う違う!
どんな魔道具なのか、もっとちゃんと聞かなくっちゃ。
「カミラも数度しか見たことがないって言ってたわね。貴重なものなの?」
「はい。聖都の鍵を渡される機会など、そうそう目に致しませんでした。急務を除けば、ですが。何よりこちらの製作は、神官様方にしか不可能な上、時間が掛かるのだそうです」
「そんな特別な…」
「そうなのです、言って仕舞えば特別待遇に他なりません。ただ訪ねるのみで、聖都の鍵を授けられるなど…訪問の条件も併せれば、破格の待遇であると言えるでしょう」
「は、破格!?えっと、どの辺りが…?」
「聖都の鍵は便利な転移魔道具ですが、それら個々に、事前に使用魔力が込められており、転移先も設定されているのです」
「それが、どうかしたの?」
「仮に同じ転移座標が指定されたものを、同時に使えばどうなりましょう?」
「…言われてみれば。ぶつかってしまうとか、そもそも発動しないとか?」
「発動はしますが、同じ座標に同時に人間が押し込められます。怪我は免れないでしょうね」
「それは…事故というかなんというか…」
同じ座標に押し込められる…
なんか、「融合しちゃいました!」とかまで起こりそうで怖い。
「簡潔に言えば、神殿側のVIPに使う御品で御座います。そのような事故はあってはなりません。それ故に異なる座標のものが授けられる上、時刻の指定もキッカリされているとお聞きします」
「それって、私の手紙とは違わない…?」
「はい。時刻の指定がない辺り、決して被らぬ座標が指定されたものなのでしょう。それがここまで早急に送られてきたのは、私には異例に感じるので御座います」
「聞けば聞くほど、何かありそうね…」
私が先触れの手紙を出してから4時間足らずで、そこまで手配出来るものだろうか。
いやでも、茶会でソリーナムからの言葉もあったし、事前に準備があったのか。
それにしても早いとは思うけれど。
「あ。それで、一人を歓迎するっていうのは…もしかして一枚で一人しか転移出来ないから?」
「左様で御座います。私共が後を追おうにも、馬車で時間が掛かってしまいます。このお便りから察するに、その必要もなく、お一人で参られよとの事かと」
「私はそれでも構わないのだけれど…このまま信じて大丈夫かしら」
この便りの真意は未だ測りきれない。
不安がないかと言われれば、それは嘘になる。
「お相手は神殿様で御座います。悪き事にはならないとは思いますが、心配は御座います」
「心配?他にも何かあるの?」
「大した事では御座いませんが…。時計街は神官しか住まぬ街、ご不便もあるでしょう」
「なんだ、そのくらいなら大丈夫よ!えーっと…ほら!いつも一人でなんとかしてきたし…?」
…ロベリア様が、だけど。
でも私だって前世で不便くらいあったし、その程度なら問題ないでしょう。
「そう仰られるのであれば、止める理由も御座いません」
「そう、ありがとう」
「くれぐれもお気をつけて下さいませね?」
「大丈夫よ、分かっているわ」
カミラは心配そうにするけれど、言葉の通り、無理に止めるつもりはないようだ。
一方その頃ジェシーは、私達の話に圧倒されながら「これが聖都の鍵…初めて見ました」とその珍しさに、息を呑んでいたのであった。
それでは、思い立ったら吉日というものです。
「折角だし、お言葉に甘えて、明日にお訪ねするわ」
明日以外に行って、転移事故?にでも遭ったら怖いし。
日付を匂わされているのは明日だけ、その日にしよう。
「皆んな、聖都…時計街への支度をしておいてもらって良いかしら?」
「は、はい…っ」
久方ぶりに声を掛けられたジェシーは、咄嗟にその視線を伸ばす。
「かしこまりました、ローラにも伝えておきましょう」
「えぇ、お願いね」
カミラはいつもと変わらず、頼もしい。
明日には聖都:時計街、か…。
出立の時間も早めにしましょう、直ぐに日が暮れてしまっても困るし。
お手紙の意図は汲みきれないけれど、初めての聖地巡礼が私を待っている。
ちょっとした旅行というか、この世界風にいうなら旅っぽいというか。
ゲーム本編でも旅はしたけれど、一人で聖都に向かうなんていうのはなかった。
今晩は満足に眠れるかしら。いや眠らないとルリに怒られてしまう。
このワクワク感には、どうやら抗いきれそうにないの。




