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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.2 お嬢様、"聖女再来"の天啓が降りました。

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<第63話> お嬢様、文をしたためます。

食事の片付けと寝支度を一通り済ませ、私はメイド三人衆と別れを告げる。

私の手元には、ジェシーが持ってきてくれた、レターセットだという小箱がある。

どうやらペンや封蝋(ふうろう)用のロウソク等も入っているものだそうで、ちょっとした工具箱程の大きさをしているのだ。


さ〜て、書きましょうお手紙を!!




というわけで、ルリに聞いたまでは良いのだが。


「ルリってば、本当に言ってる…?」


(何よ、わたしが悪いことしたみたいに言うじゃない)


「だって、手伝ってくれないなんて…」


私はルリにこの世界の作法を聴きながら、神殿に先触れのお手紙を書こうとした。

だけれど、どうにも彼女は協力的ではないご様子なのだ。

ゲームでも教養あるご令嬢だったから、問題ないとばかり思っていたのに…。


「私だって、前世ではお手紙の作法も知っていましたけれど…。今回はその作法も知らない上に、慣れない言語なんだもの」


(その作法でいいんじゃないの?そもそも幼児からの手紙なんだし、書けてるだけ十分よ)


「もし仮に失礼を働いたらと思うと不安で。そちらをどうにか、手伝っては頂けませんか?」


相手は神殿だ、失礼は絶対に避けたい。

女神信仰の厚い土地で、その最たる場所に失礼だなんて、考えただけで恐ろしい。


しかし私の言葉に、今日の彼女は従ってはくれない。


(嫌よ)


「そんなにお嫌だなんて、どうしてですか?」


(…手紙って、良い思い出がないのよ)


「それはまた、何故…?」


(だってお返事が来た記憶なんてないもの。ノワゼット様ってばお忙しい上に人気があるんだから、わたしのあんな手紙じゃ、お返事を下さらなかったのも道理だわ)



きっとこのご様子から察するに、ノワゼット相手に多くの文を出したのだろう。


ロベリア様からのお手紙に、お返事を出さないですって!?

え?不敬では?有り得なすぎる…真実かも疑う。

というか、ロベリア様はノワゼットに対して甘すぎるんですよ!!!

年頃の女の子からのお手紙を?無視?

なんならご自身の婚約者様ですよ?

は? 許せませんけれど???

お許しになった上で、ご自分の手紙が悪いみたいな、そんなのってないです!!


…これがきっと、友人達の言っていた『激おこ』という状態なのね。

それはもう怒っていますとも。ええ。本当に。

ロベリア様の前ですから、口には出してはいません。

それを褒めて欲しいくらいの憤りですよ?

人間ここまで憤りを覚えるものかと、驚いてもいます。



「ルリ、きっと貴女の書き方の問題ではないと思うのだけれど」


(でもお返事は来なかったのよ?)


「ほら、先程お忙しい方だと言っていたではないですか。きっとそういう理由ですよ」


(じゃあミヤビ、アナタがお手紙を出す相手は?)


「…神殿ね?」


(それも過去の歴史を知っている方、きっと忙しいわよねぇ)


「それは、たぶんそうですね?」


(なら()()()()()()()()()()()()()()()()()わたしじゃあ、お役に立てないわね)


「そ、そんなことは…!」



どうにか食い下がりたい、しかしノワゼットの過去が邪魔をする。

もどかしいったらありゃしない。

見てなさいよ、今世ではロベリア様宛てにお返事書かせてやりますからね!?



うーんうーん、と頭を抱える私。

一向に手紙の筆も話も進まず、まさに膠着(こうちゃく)状態。



…そうしていても仕方がないので、私は自分で筆を進めてみることにした。

先触れのお手紙、つまりアポイントを取るお手紙なわけだから、何を書くべきかしら。


まずはご挨拶からよね。基本だわ。

突然じゃ困るだろうから、複数に日程の指定をして。

向こうが会いたいと思ってくれそうな内容…聖女の天啓だとか、その辺に触れておこうかしら?

聖女様の歴史を知りたい、とか。

そちらと一応、返信期限を。

書かないと、こちらがいつまで神殿に来る心づもりなのかも分からないものね。


え〜っと正しい言葉遣い、は難しいけれど善処しましょ…



(ミヤビ?)


突然私に声が掛かる。

どうしたんだろう、もしかして手伝う方向へ心変わりしてくれたのだろうか。


「どうしたのですか、ルリ」


(それって、文章なの?すっごく複雑な形をたくさん書いてるけど)


「えっ?」


…どうしたことだろう。

私が書いたお手紙の内容は、漏れなく()()()だった。


「前世の母国語、ですね。クセでしょうか…書き直しますね…」


(そうだったのね、それが良いわ)


細やかなお手伝いではありましたが、助かりました。

こんな初歩的なミスをするとは。

言葉遣いじゃなくて言語を間違えるだなんて、疲れてるかもしれない。



それから私は便箋を変え、全て書き直した。

言語こそ変わったけれど、内容的にはあまり差はない。

ただ慣れない言語で書くっていうのは、精神をすり減らすようで、とても疲れた。

便箋と重たい辞典とで反復横跳びもして、腕もしっかり疲れているようだ。


私は椅子に座ったまま、ほとんど机に突っ伏した状態になる。

ペンはしまったけれど、封蝋を取り出して封をする…までの気力はない。



そんな中で、ルリは私へ言葉を投げ掛けてきた。


(ミヤビ。手紙以外ならってことで、1つアドバイスしてあげても良いわよ)


「手紙以外、ですか…?」


(そうよ、ぴったりの手土産を思い付いたのよ)


「そうよ、手土産…!!」



私ってば、色々と忘れすぎじゃないかしら?

前世のしがらみがなくなって気が抜けてる?

もっとちゃんとしなくっちゃ、ただでさえゲーム通りの展開でもないんだから…。


こちらからのお願いで訪ねるのだもの、用意しなくちゃいけないわ。

でも神殿に持っていくものよね、何が手土産として最適かしら?

魔導布(マギア・メタクスィ)は…

いや、貴重な上に、消え物じゃないから手土産には向かなそう。


だとしたら、何が…。




(ミヤビ、明日お庭に行くのよ)


「へ?それが手土産のアドバイス…ですか?」


(そうよ。ガードナーに会ってらっしゃいな)


「庭師の彼、ですよね」


(きっと問題ないと思うわ)


彼はその手のものに詳しいのだろうか?

ロベリア様よりも?


(そう悩まないで、彼に『神殿への手土産を』と言えば良いだけよ)


「そうなんですか…?」


(そうよ。やっぱりわたしの言葉は信じられない?)


「そっ、そんなことは断じて!!あり得ません!!!」


私はつい、勢い任せに椅子を立ってしまう。

…お恥ずかしい。

私は誤魔化せないとも知りつつ、咳払いをして座り直す。


(では決まりね、明日はお庭よ。そのためにも早く寝なさい?)


「は、はい…」


そうして、何が何だかも分からぬまま。

私はルリに押し切られる形で、明日に向けて眠りにつくのでした。

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