<第60話> お嬢様、蔵書室を探索致します。
この蔵書室から、気になる本を探す…かぁ。
本が多すぎる上、読めそうなものをとなると、少し苦労するかもしれない。
まぁそんなことを思っていても仕方がない、探してみると致しましょう。
ーしかし、私は困っていた。
何故かって?そんなの簡単。
"魔法"というワードが付随する背表紙が多いから。
思わずそのワードを見つける度に心が躍ってしまうもので、どうにも難航中。
しかも大量の蔵書の背表紙をざっと見て、三分の一程度がそれに値するんだもの。
流石は"魔法"分野のエキスパートと謳われる名家。
"魔術"や"精霊"に関するものもあるけれど、それも魔法関連の延長線上らしかったり、魔法単体に関する蔵書が圧倒的に多い。
魔法の属性に関する本も、ここに置かれている。
魔法は奇跡の技と言われるが、先天的な才能に加え、後天的な技術が必要なのだと、蔵書の数からして伝わってくるものがある。
真に奇跡であり、才能だけで良いのであれば、技術を勉強する必要はない。
それを研究し、勉学の為の書物があるならば、それらから得るものが必要だということ。
正確に言えば、ちょっと違うか。
『より難解・高度な魔法発動には、必要な知識』
この認識の方が正しい。
例えば、魔法でフライパンを生成するとしよう。
ではその形状は?素材は?品質は?
魔法では発動時に、それらのより具体的なイメージが求められる。
鉄のフライパンがある、しかし持ち手は?
アルミのフライパンがある、しかしコーティングは?
適した形状、素材でなければ、日常生活ですら使い物にならない、欠陥品が生まれるだけ。
反対に発動イメージが最適なものであれば、高い品質のものが生まれるというわけだ。
但しそれを構築する物質自体はどこから来るのか?
それは主に、空気中や自然界に存在する物質だ。
だけどそんな知識は、元から持っているだろうか?
私たち日本人なら、理系科目で習うことがあるだろう。
同様にこの世界の人達にも、その教養が必要だということ。
まぁフライパンの生成を具体例に挙げはしたが、実際こんな使われ方は多くない。
よく漫画なんかでありがちだと聞く、『火炎球!!』みたいなのが多い。
まどプリで見たのも、物を作るより、攻撃魔法とか防御魔法とかが多かったかな?
物を作るには素材となる物質の調達が必要なので、魔術分野での活用の方が多い。
そもそも即席で使うものならまだしも、生活用品を奇跡の力で一瞬の合間に生み出す必要性が無いという点も挙げられる。
私の世界で言う錬金術の分野も、魔術の一部だと言ったのはこんな感じの理由。
より現代的な科学に近い研究もしていると聞いた。
…とまぁこんな感じで、魔法も一筋縄ではない。
攻撃魔法で火を生み出すにも、発火現象のイメージや理解が効果に直結するから。
それらの質を担保しよう、底上げしよう、というのがこの蔵書室の本達なのだろう。
よくよく見てみれば、魔法関連の蔵書はあまり埃を被っていない。
初版に近い辞典なんか、ズッシリ埃が乗っているのに。
もう少しお手入れしてあげたらいいのにとは思うけれど、全体的に新しくはなさそうだし…
下手な手入れは逆効果にもなってしまうかもしれない。
そういえば、ロベリア様のお父様は宮廷魔法長官。
彼がそのお役目の為に、魔法関連の書籍は度々読まれていらっしゃるのだろうか?
だとしたら真面目というか、大層マメなお方である。
見るからに古い文献が並んでいる場所もあるのに、それらも埃を被っていないのだから。
最新の文献から、古いものまで、蔵書の殆どを適宜確認しているということになる。
時に科学や歴史など、知識はその常識が覆ることも少なくない。
私の世界でいう、"天動説"と”地動説”だとか。
きっとこの世界でも、そういったことがあるのだろう。
だからこそ古い文献も確認するし、辞典も更新されていく。
この蔵書室には、本だけでなく、その本が抱える歴史も詰め込まれているのかもしれない。
そう思うと、殊更どんな本を選ぶべきか悩んでしまう。
魔法関連の本は、お父様がお読みになるかもしれない。
その上、今の私はこの世界の言語に慣れていないし、読む時間も掛かるだろう。
であれば今回は、魔法関連のものは諦めるべきだろう。
残念だけれど、また次の機会にと考えるしかない。
きっと本は逃げたりしない。大丈夫、きっと。
…ファンタジー世界の本なら、羽が生えて飛んでいってしまっても不思議じゃないけれど。
そうならないことを願いましょう。
何かないものかと、私は魔法以外の分野らしい書棚を見て歩く。
そして、傍に積まれている本の山…。
それらを見た印象としては、歴史関係の本は比較的読まれていなそうだ。
古い辞典程じゃないけれど、少し埃を被っていたり、山積みの下敷きになっているようだから。
今の私に読めそうなもの、かつ私に役立つ知識であれば尚良し。
私は考えた結果、その辺りから本を探し出すことに決めた。
「女神の伝承…」
これは概要は知っている。
「建国神話……」
これも同じく。
もうちょっと、新しい知識が欲しいところ。
何かないものか…。
そう視線を巡らせた末、とある本を見つける。
その本は部屋の隅、山積みの本に隠れるようにして置かれていた。
『闇属性と悪魔史』
なんとなく、違和感を感じる。
これまで見た中だと、属性に関連する蔵書は魔法分野の方に置かれていたのに…。
言うまでもなく、ロベリア様と悪魔は切っても切れない関係。
しかしこの本の題は、どうやら《《闇属性と悪魔》》を関連付けている。
この世界の歴史の中で、既に闇属性と悪魔に関連する何かがあった。
それをこの本は示唆している。
…これしかない。
そんな歴史があったのだとしたら、その情報は喉から手が出るほど欲しい。
他の本元探している場合じゃない、この本の内容をより深く知らなくては。
私はその本の埃を軽く払い、小脇に抱える。
「待たせてごめんなさい、カミラ。お借りする本は決めたわ、部屋で読むわね」
「かしこまりました。お嬢様が御本を見ていた場所から察しますに、そちらもお借りして問題のないものでしょう。読書のお供に、お茶でもご用意致しましょう」
「何から何まで助かるわ」
カミラと軽い会話をしつつ、私は蔵書室を後にする。
一体これには何が書かれているのか。
帰路につく私の頭の中は、本への興味が支配していた。




