<第55話> お嬢様へ、道化な枢機卿のご提案。
「ロベリア嬢ちゃんには、王族と婚約する意思がある」
「そんで、王子2人にもその意思がある」
「なら、嬢ちゃんに選んで貰いな。これがボクからの提案だぜ」
ソリーナムは再確認するように、丁寧に言葉を並べる。
「王宮的にも神殿的にも、聖女の問題を些末に扱われては困るんでね」
「この意味、分かるよなぁ?」
そう言って彼は、またケタケタと笑うのだった。
「あーそうそう、アベル坊だったか?」
彼は思い出したかのように、アベルの方へと向き直る。
「坊もこれなら文句無いだろ?だって選ぶのはお姉様だもんなぁ?」
アベルは首を縦に振り、コクコクと頷く。
「うんうん!おねえさまが選んだなら、きっとどんな人でも王子様だもん。イヤな人じゃないよ、イヤって言わないよ!!」
「それがノワゼットでも、ローレンスでもだな?」
「おねえさまが選んだ人なら、ぼく怒ったりしないよ!ノワゼットさまでも仲良くする!だっておねえさまが決めたんだもんね!!」
「そりゃあいいお返事だぜ」
ソリーナムは機嫌良さげに、アベルの頭を撫で回す。
アベルも彼の言葉に納得した様子で、エヘヘと言いながら笑っている。
「嬢ちゃんは良い弟を持ったもんだな」
えぇ。もう、本当に。
お母様の手前、何も言えないけれど、その言葉には頷くばかりだ。
駄々を捏ね出した時はどうなることかと思ったけれど、私の意思であれば、それに従うと言う。
たぶんアベルは、義兄に「悪魔の弟」だと言われるのが嫌だったんじゃない。
単純に、姉を「悪魔」と呼ぶ相手が嫌だったんだ。
それでも姉が選んだ相手であるならば、文句は言わない、と。
本当に姉のことを、ロベリア様のことを慕っているのだろう…。
心底良い子だと思う。
ロベリア様ご自身は、こんなにも慕われていたことをご存知なのだろうか。
…伝わっていたら、いいな。
「ヴァイオラ、ダリア。意義はあるか?ボクは優しいから聞いてやるぜ?」
「じゃあソリーナム。それは宮廷道化師、枢機卿としての神殿側からのご意向とも捉えて宜しいのねぇ?」
「そうだぜ?彼の教皇聖下にも確認済みさ」
「…そぉねえ。それなら従うしかないわねぇ」
「そうは言うが猊下、それはいつ決めるというのです」
「あー、期限てのも必要だな?ダリアの言う通りだぜ」
「そうです、本来は今日のうちに決めるつもりでしたのに…」
「はーん、そうかそうか…そうだな…」
ソリーナムは暫し、考え込む。
そして誰かに言うではなく、何かを1人で呟いている。
そして顔を上げ、その場の全員に言葉を向ける。
「期限はローレンスの10歳になる歳、魔力測定の式だ」
「その間に嬢ちゃんがどう思うかは自由、正式決定はその日とする」
「婚約者選定の口実は『当人らが幼い故、事を慎重に運べ』との神殿側からの要求とせよ、と聖下は仰せだ」
「…さて、質疑応答を受け付けようか?」
彼は椅子に座し、足を組む。
彼の言葉を受け取るなら、今日この日に婚約は決まらない。
それどころか、ノワゼットに決まらない可能性すらある。
そもそも教皇聖下のお言葉?
それが本当ならば、この王国で最も尊ばれる御方からの言葉。
…事前にその話をまとめて、ここに訪れたと言うのだろうか。
それならば母達と違い、神殿側は聖女の問題にかなり慎重そうだ。
私が聖女であるか否かも、神殿側は把握している可能性すら感じる慎重さ。
これは今後、神殿についても、情報を集めたいかもしれない。
「それが神殿側の要求なのね」
「そうだぜダリア。呑むも呑まないも自由だけど…分かってるよなぁ?」
「それは…まぁ婚約発表の日が変わるだけね」
「そうねぇ、そうよねぇ」
ソリーナムはまたも笑う。
しかし何も言葉にはしない。
母達の態度からして、この要求を呑みつつも、裏では今日の案を押し通すつもりなのだろう。
私も問題さえ改善されれば、特に問題ではない。
それよりも…
「嬢ちゃんが選ぶ王子様は誰だろうなぁ?」
…黙っていると思ったら、そんな言葉を投げ掛けられた。
私は適当に微笑みだけ浮かべておく。
それよそれ、問題はそこなの。
私が婚約者を選ばなきゃいけないなんて、一体全体どうなっているやら。
前世の知識で言うなら、ロベリア様にはそんな選択権が与えられそうにもなかった。
というかそもそも論として、ノワゼット様一筋。
何も悩むことも拒否することもない。
しかし今回は私の意見に加え、神殿からの要求で、そうもいかなくなった。
わざわざ神殿の名を出して関与してくるなんて、何が目的なのだろう。
さらにそれに加えて、だ。
また王子2人について、考え直さなきゃいけないじゃない!
今日のお茶会への対策も全然だったのに、また…!?
考えることが多すぎる。
変わったことが、大きすぎるから。
このままで大丈夫だろうか、問題ないだろうか。
私は、ロベリア様を、お幸せに出来るだろうか。
私が誰かを、どちらかを選んで。
問題は…無いのだろうか。
ソリーナムは黙り込む私達を気にするでもなく、言葉を投げ掛けてくる。
「さぁさぁ、そろそろお開きにしようじゃねえの。もう日も暮れてくるぜ?」
考え込んでいた私達は、その言葉に空を見やれば、日はかなり傾いていた。
それから軽い挨拶を交わし、本日は解散する運びとなった。
その間も、彼ソリーナムは1人で愉快そうに笑っていた。
「これからが楽しみだぜ。なぁ?」




