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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.1 お嬢様、異世界転生致しました。

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<第49話> お嬢様、前世企業令嬢の腕前をお魅せします。

「でも兄様、僕がその…フルート?を演奏しようとするの、なんで止めなかったの?」


「だって、ノワゼットなら出来るかなって思ったから…」


「兄様が練習してやっと出来たものなのに!?」


「ノワゼットって大体なんでも出来たから、今回もそうなのかなって」


「いや無茶苦茶ですって兄様!僕を何だと思ってるの!?おかげで…そうだロベリア嬢とアベルの前で恥を!!」


「わ、悪かったよ…今度から気を付けるって…」


すっかり二人の様子は変わった。

雰囲気が軽く、明るいものになった。

このまま仲が良くなってくれるといいけれど。




…さて。

演奏をしろと吹っ掛けた私が、このまま黙っている訳にもいくまい。


「ノワゼット様。先程は無理強いをしたようで、申し訳ございませんでした」


私は挨拶よりも、深く礼をする。


「おま…ロベリア嬢。全く、君と兄様のおかげで、赤っ恥だよ」


「ウフフ。ノワゼット様が自信満々でしたもので、つい」


「それは…否定出来ないけど」


そう言って顔を逸らす彼は、ちょっと王子様っぽくない。

あくまで良い意味だ。年相応の子供らしい。

そうさせてくれたのは、その背に座る兄だろう。



「それでは宜しければ、私にも演奏させては頂けませんか?」


「「…へ?」」


私の言葉に、ノワゼットとローレンスは呆けた声を上げる。

その顔もまるで「何を言っているんだ」とでも言いたげ。

そんな中で喜ぶのは、アベルだけ。


「おねえさまが?やったぁ!!」


無邪気に嬉しそうな声を上げて、期待の目で私達を見ている。

それを受け、さらに王子2人は困惑する。


「その、ロベリア嬢は経験が?」


「いやですわノワゼット様。私のような者が、そのような代物、頂いたこともお借りしたこともありませんわ」


転生してからは、ね。


「ロ、ベリア嬢…確かに、君は、フルートを知ってはいた、けど…」


「夢によく出ますの。きっとご縁があるのでしょうね」


夢みたいな話、"私の前世"では縁があった。



「…ハッ。僕みたいに恥をかくだけだよ。やめておいたらどうかな?」


「お詫びになるかは分かりませんが、それに近いものとお考え頂ければと存じますわ」


「別に詫びろとまでは思ってないけど…レディに恥をかかせるのは紳士の恥でもあるからね」


「そう言わず、お願いしますわノワゼット様!我が家にもございませんし、今後触れられる機会があるかも分かりませんもの…」


「ふむ、確かに機会はないかもしれないな。どう思う、兄様?」


「えぇ!?僕かい!?」



突然話を振られたローレンスは、慌てふためく。


「その、特別高価ってほどじゃないけど…まだ、あまり流通はしてない、かな。これからするかも、分からないね…」


「…なるほど。これは考え方を変えれば、"貴重な経験"みたいだね」


「でしょう!?ローレンス様さえ宜しければ、お貸しくださりませんこと…?」


うるうるの目で、上目遣いに頼み込む。


「よし、お貸ししましょう」


「兄様!?判断早すぎないかな!??!?」


「持ち方は教えた方が良いかな?」


「問題ありませんわ、夢でよく見たから分かりますの!」


「兄様!!話が進むの早いって!!!ねえ!?」


「仕方ないだろうノワゼット、ロベリア嬢たってのお願いだ」


「いや…もう少し考え……なんかもういいです」


「そうかい。なら何も問題ないね」


「はぁ…?」



「それでは、どうぞ」


ローレンスは膝を地に着き、フルートを私へと差し出す。

まるで騎士の剣叙勲とか…そんなシーンみたい。

この世界に剣とかは無いみたいだけどね。


「ありがとうございます、ローレンス様」


私はそれを、優しく受け取る。

少しばかり冷たく、幼い体にはやや大きい横笛。

改めて自分の手にあるフルートを見て、少しばかり物思いに耽ってしまう。



…この世界でもまた会えるなんて。久しぶりね。

お稽古で何年続けたかしら。

たしか、ヴァイオリンの次には長かったと思う。

もう会えないと思っていたわ。

ちょっぴり古めかしいけれど、そんなアナタも好きよ。



そうしてフルートを見つめていると、背後から声が掛かった。


「こちらをどうぞ」


王宮勤めの使用人のようで、私にクロスを差し出していた。


…あぁ。ずっと見つめているばかりだったから、何か気にしているものだと思われたのね。

フルートは、吹き込み口に直接口を付けこそしないけれど、息と共に唾も飛ぶ。

この子のためにも、その辺りはちゃんとお手入れしてあげなくっちゃね。



差し出されたクロスを受け取る。

楽器には楽器専用の布を使ってあげないと傷んでしまう、この人は気が利く方みたいだ。


「どうもありがとう」


「恐縮です」


短く言葉を交わし、楽器を軽く磨いてあげる。

先程ノワゼットが持っていた箇所も、軽く拭いてあげた方が良いだろう。

手指の皮脂や汚れで傷んでしまっては可哀想だから。

…けしかけたのも私だし。そのくらいはしないとね。



そうしてある程度、磨き終えた所で3人に向き直る。


「お待たせ致しましたわ」


「全然待ってないさ、問題ないよ」


「そうだよ!ノワゼットさまより早かった!」


「なっ…!アベル…!?」


「そうですか?ウフフ」


「ロベリア嬢まで…!もう!!」


「ごめんってばノワゼット…」


「まぁ?これで僕のおかげで、ロベリア嬢が失敗してもさほど恥にはならないよね?」


「音も出なかったもんね〜」


「アベル!これ以上は言わないでやってくれないか…?」


「もう今更いいですよ兄様…」


「あはは〜」



何度か深呼吸をする。


背筋は伸ばしすぎず、リラックスさせ。

右手人差し指の付け根、右手親指で支え、吹き込み口を唇の辺りに寄せるように持ち上げる。

残りの指を軽く曲げて、キーの上に置く。


そうして私が構え終わった頃には、それまで騒がしかった3人は静かになっていた。


フルートの演奏には、それなりの肺活量がいる。

大丈夫だろうか。不足ないだろうか。


でもどうしてだろう。何故だろう。

()()()()()()()という異物感は感じない。

前世の私が、魂が、覚えてるのかな。

…なんてね。


少し、緊張がほぐれた。

コンクールとかでもない、ただのお遊びなんだ。

失敗に臆する必要なんてない。

私はただ、胸を張っていればいいだけ。



胸いっぱいに、お腹の底まで貯まるように、息を吸い込む。

そしてその息を、吹き込む。


フルートの音色が、その場に響き渡る。

それを聞いた者たちの反応は三者三様。

驚くもの、感激するもの、喜ぶもの。



私はそのまま、指を運ぶ。

折角音が出たなら、演奏したい。

前世で好きだった、あの曲とか。



私が奏でたのは、Amazing(アメイジング) Grace(グレイス)

イギリスの牧師による讃美歌だったと記憶している。


Amazing grace!

(how sweet the sound)

That saved a wretch like me!

I once was lost but now I am found

Was blind, but now I see.


『感動をもたらす恩寵』だとか『素晴らしき神の恵み』なんて意味だったか。


この世界では私以外、誰も知らない曲。

…そう、(前世)で見聞きした曲。

これはロベリア様ではない、私が持つ武器。



やがて、長くはない演奏を終える。


「…ご清聴ありがとうございました」


そう言うと、それまで呆然としていた3人がまばらに拍手を返してくれる。


「凄いよロベリア嬢!才能あるんじゃないかな!?」


「おねえさま、さっすがぁ〜!」


「まるで魅惑術のようだよ」


「本当にそうだ、つい聞き惚れちゃったからね…僕より上手いんじゃないかな…」




「買い被りすぎですわ、ローレンス様」


私はフルートをクロスで軽く拭いてから、彼に楽器を返す。


「少しはお詫びになりましたでしょうか?」


「…まぁ、いいんじゃないかな。知らない曲?だったけど、綺麗な調べだった。悔しいけど、文句の一つも浮かばないよ」


「うんうん!とっても綺麗!」


「ロベリア嬢、その、機会があったら…良かったら、なんだけど…先程の曲を教えてもらってもいいかな?僕もあの曲が好きみたいだ」


「あらまぁ。ではまた機会がございましたら、皆で練習などはいかがです?」


「たのしそ〜!!」


「む、僕も次は引けを取らないぞ…そのうち宮廷音楽家だって唸らせてやるさ」


「そうだね、良かったら教えるよ」


穏やかな昼下がり。

どうなるものかと怯えてもいた茶会の時間は、意外にも緩やかに過ぎていった。


…私の前世も、無駄じゃなかったんだわ。



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