表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.1 お嬢様、異世界転生致しました。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/81

<第48話> お嬢様、この世界の"完璧"とは。

当然と言えば、当然のこと。

的確な量の息を的確に吹き込み口に当ててやらなければ、フルートの音色は聞こえてこない。


「ノワゼットさま、へたっぴ。ぜんぜんできてないよ。これじゃウソつきだ」


アベルがカラカラと笑う。

しかしその言葉を受けたノワゼットは、あからさまな動揺を見せる。


「…あり得ない」


「…そうだよ、そんな。そんなわけがない!」


ノワゼットは俯き、腕をだらしなくぶら下げる。

そして、怒号にも近しい声を上げた。


「兄様に出来て、この僕に出来ない?そんなこと、あり得るはずがないんだ」


「だって僕は、魔法が出来て。大人と話せて。勉強も出来るし」


「それに、それに…」


彼は、膝から崩れ落ちる。


「次期王太子が、完璧じゃなくて、どうするんだ」


その声は消え入りそうで、切なく、悲鳴の様でもあった。




ノワゼットの側に座り、ローレンスは優しく語り掛ける。


「ノワゼット、楽器なんてって君が言ったんじゃないか。何の役にも立たないって。だから出来なくたって、そんな落ち込むことは…」


「…るさい」


「…ノワゼット?」


「うるさい!兄様は落ちこぼれで!何にも分かってないくせに!!」


そう声を上げ、ローレンスを見つめる彼の目からは、一筋の涙が溢れていた。


「僕は兄様と違うんだ!!王族で、第二王子で、次期王太子で。母様も『ノワゼットは何でも出来る』って。そうだよ、出来る。()()()()()()()()()


怒りに満ちた様だった表情が、悲しみの色に染まる。


「…兄様に分かるっていうの?この気持ちがさ」



正直な所、この反応は私には予想外だった。

『自慢げなその鼻をへし折ってやろう』みたいな、そんな気持ちだったから。


私は彼を、正しく理解も評価も出来ていなかったんだ。


ノワゼットは、単純に兄を見下していたのではない。

先程の言葉を受ければ、印象はまるで変わる。


『次期王太子として完璧でいなくてはならない』

その重圧が、6歳にも満たない彼の重圧だったのだろう。

何でも出来る、出来なければいけない。

それが己の責務だと、考えているのだ。


だからと言って、他者を見下して良い理由にはならない。

…ならない、ならないのだが。


彼の言動からは、

『この重圧が無いなんて羨ましい』

なんて意図を、感じた。


ローレンスも、ロベリアの様に両親から差別されていたのなら。

きっと兄弟でコミュニケーションを取る機会は少ない。


そうじゃなくとも、ずっと兄と弟で比べられてきたのだ。

王宮という、周囲に多くの人々が居る状況で。


そのせいで、2人はすれ違ってきたのかもしれない。

見下した様な態度という、良好ではないコミュニケーション。

それしか、無かったのかもしれない。


それはきっと、悲しいことだ。



ローレンスはそのまま、ノワゼットの隣に座る。


「…楽器が出来る意味なんて、本当に無いんだよ」


「違う。楽器とか、そういう問題じゃない。僕は、全部出来なきゃ」


「ならノワゼットは、僕の気持ちが分かるかい?」


「兄様の、気持ち?そんなの、分かるわけが…」


「そうだよ。他人の気持ちなんて、分からないよね。何でも出来るなら、これも出来ていなきゃいけないけど」


「…ッ! 兄様は、それすら僕に出来ないって言いたいの?あれも出来ない、これも出来ない!って!!」


「違うよ、ノワゼット。出来ないことは、あるんだよ。お互いの気持ちが完全には理解出来ないのと同じで」


「…そんな、簡単に言わないで」


「だって僕は、魔法はてんでダメなんだからね」


「…は?」


ノワゼットは顔を上げる。

ローレンスはそんな彼に、微笑みかける。



「ロベリア嬢も言っていたじゃないか。『()()()なんですね』って。出来ないとか以前に、人には、得意不得意があるんだよ」


「それでは、諦めろと…?」


「うん。完璧は諦めよう」


「…やっぱり兄様は分かってない。次期王太子にそんなこと、許されるわけが」


ローレンスは遮るように、言葉を放る。


「その代わりにさ、頑張ろうよ」


「…頑張る?そんな何を当然のことを?」


「ノワゼットはどうして、そんなにたくさんのことが出来るんだい?」


「それは、頑張って勉強したからで…」


「そうだね。僕のフルートの演奏だって、そうなんだよ」



ローレンスは、ノワゼットの手からフルートを取り上げる。

そしてそれを、構えて見せる。



「…持ち方だってね、勉強からだったよ。最初はノワゼットみたいに、持ち方も分からなかった。でも勉強したから分かる。知ろうとしたから、分かるようになったんだ」


「音も、ですか。魔法じゃ、なくて?」


「アハハ、僕が魔法が苦手なのはノワゼットがよく知ってるだろう?」


ノワゼットの頭を、くしゃりと撫でる。

そしてフルートに息を吹き込み、ゆっくりと指を運び、音階を奏でる。


「風魔法で音色を出すこと自体は可能だけどね。僕にはそれが出来ない。だから自分の出来る方法を探して、知って、努力したんだよ」


「……」


「ノワゼットも、風魔法は得意ではないだろう?それも出来なきゃダメ?」


「それは…でき、ません……」


「そうだよね。王国全土を探したって、全属性の適正持ちなんて、教皇聖下以外には居ないだろうね。もし他に見つかったら、それは聖女様か女神様かもしれない」


ローレンスの話を聞き、ノワゼットは少し落ち着いたようだ。

しかし、その表情は暗く沈んでいる。



ローレンスはニパッと弾けるように笑う。

そして言葉の続きを紡ぐ。


「でもね、ノワゼット。僕らには、"魔法"だけじゃなくて、"魔術"もあるよね」


()()()()()()()()()()()、正しい知識を持って、努力すれば、()()()()()()()()()()じゃないか。」


「…完璧じゃないけど、こういうのじゃダメなのかな?」


「僕はね、苦手なものを苦手だと諦めろって言ってるんじゃないんだよ。出来ないこと、苦手なことを、まず受け入れるんだ。そうしたらその先に、それを乗り越える方法があるかもしれない。"それが苦手でも出来る方法"を探すんだ。そうしたら出来るようになるかもしれない」


「ノワゼットは賢いから。さっきの魔法の話でさ、完璧は無理だって分かったでしょ?ならそれを受け入れること、出来るように頑張ろうとすることが、大切なんじゃないかな。僕はそう思うよ」



ノワゼットはしばらく押し黙りながらも、兄の言葉の意味を考えているようだった。

ローレンスは聡明で、弟に分かりやすいように、この世界の常識で例えてみせた。

完璧主義をどう説得したものか考えようとも思ったが、ローレンスの言葉を聞いた今なら分かる。

私の言葉は不要だと。



暫しの後、ノワゼットが口を開く。


「…では兄様は、魔術なら扱えるのですか?」


ローレンスは優しく微笑み、頷く。


「とは言っても、何の役にも立たないようなものだけど」


「見たいです、兄様の魔術」


「そうかい、それなら…」



ローレンスは、スッと指を立てる。

そして庭の芝生の方へ向け、印を切るように動かす。



「大地よ、草木よ、花よ、母なる自然よ」


そして水をカップに入れて片手に持ち、その水へともう片手の指を入れる。


「我は汝らに求る者也」


指から水を滴らせ、その水で小さな円を描いていく。


「母なる自然よ、どうか応えたまえ」


水で描かれた円は、より複雑になり、魔法陣のように描かれる。

そして次の一息と共に、円を描く動作は終わる。


「小さき命に祝福を。 花を。(ロウローヴィ)


すると、水で濡れた草木の中心。

たった一輪の、どこにでもあるような花が咲く。


ローレンスは、恥ずかしそうに笑う。


「以前、育てたい花があったんだ。僕には難しかったんだけどね。でも花を咲かせられたら素敵だなって、少しだけ魔術をね。これだけ、だけど。」


そう言って、その一輪の花に優しく触れる。




「…すごい」


「すごいです、兄様!!」


それまで沈んでいた様子はどこへやら。

ノワゼットは嬉々とした様子で声を上げる。


「えっと、どれくらい、お勉強を?」


「これだけでも、1ヶ月は掛かってしまったよ。こんな役に立たない、花も特別なんかじゃないけど」


「それでもすごい!」


キラキラとした目線を送る弟の様子に、ローレンスはどうやら驚いている。

しかし、次の瞬間には嬉しそうに笑う。


「そっか、ありがとう」


ノワゼットは立ち上がり、意気揚々といった様子で言葉を放つ。


「兄様、僕は完璧を諦めないです!」


「の、ノワゼット…」


「だけど、()()()()()()()という意味ではなくって。そうなれるように、目指します!頑張ります!苦手は練習するって意味です!!」


「魔法だって、魔術で全属性扱えるようになってみせるので!!」


「…そうだね。ノワゼットなら、きっと出来るよ」


言葉を交わす二人は、以前見たロベリア様の記憶に私が出会ってからも合わせて、

今までで最高の笑顔のように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ