<第46話> お嬢様、無礼だと思いましたので。つい。
「だ、大丈夫ですかローレンス様…!?」
「も、問題…ないよ…」
私が慌てて駆け寄ると、ローレンスはまだ少し赤い顔で起き上がる。
そしてちょっと不服そうな顔で、アベルに顔を向ける。
「…アベル?」
「え〜なんですかローレンスさまぁ〜」
「…何でもないよ」
「そっかぁ〜ふ〜ん?」
何故か上機嫌のアベル。
そんなアベルに、ローレンスは言葉を返せないでいる。
…本当に弱みを握っているんじゃなかろうか?一体どんな…?
「何してるんだい、3人とも」
そう言って、ノワゼットがローレンスの隣に座る。
「ごめんね、母様との話が長引いてしまったんだ。なんだか、いつになく楽しそうだったから気になってね」
そう爽やかに語る。
幼いながらも、まさに"王子様"といった出立ち。
ロベリア様の敵にさえ回らなければ、なぁ……。無念。
「おねえさまたち、およーふくのお話をしてたんだよ」
「そうだったのか。ロベリア嬢は…いつもと違う、見たことがない服だね?新調してもらえたのかな」
…いつもと違う、か。
どれだけお洒落しようとしても、ロベリア様のクローゼットから選べるものは、少なかったのだろうな。
好きな相手にお粧しして会いたいだろうに、かつてのクローゼットの中身では難しいことだろう。
しかし、今は違う。
私は自信を持って、笑顔で言葉を返す。
「えぇ。私のメイド達が見繕ってくれまして」
「良い服だね、とても綺麗だよ」
「ありがとうございます、ノワゼット様」
一瞬だけ、ノワゼットの眉間に皺が寄った気がする。
…気のせいかな。
私はずっと話題はないものかと、思考を巡らせていた。
その最中、あることを思い出す。
「そうですわ、ローレンス様!」
「…へっ?僕?」
彼はあからさまに、驚いた顔をしている。
惚けた表情で、自分を指差す。
「はい、ローレンス様。私…貴方にお願いごとがございまして…」
「お願い…?」
「フルート、また演奏を聴かせて頂けないかしら」
そう、彼が演奏していたフルート。
あの音色は実に美しかった。
聴けるものならもう一度、その音色を聴きたい。
あわよくば、話題も広げたい。
「そ、そんなことで良ければ」
彼はそう言って、その場から立ち上がろうとする。
が、その瞬間。
ノワゼットが口を開く。
「演奏…あぁ、あの横笛かい?そんなことで兄様にお願いを?」
「はい。とてもお上手でしたので」
私の言葉を聞き、ノワゼットは軽く笑う。
「横笛の演奏なんて、何の役にも立たないじゃないか!まあ演奏家になりたいのなら別だけど、わざわざ魔道具でもない横笛って。それに、誰にだって出来るだろう?」
面白おかしいことを聞いた。
そんな風に語って笑う。
「そんなものよりさぁ、この僕の話を」
「…そんなもの、ですか?」
フツフツと、自分の感情が湧き上がるのが分かる。
フルートを、フルートの演奏の鍛錬を、そんな風に笑うだなんてね。
それがどれだけ大変なことか、全く知らないから笑えるのでしょう。
音色一つ正しく奏でるのには、何時間と掛かる。
演奏ならば、更に数十時間、数百時間掛かっても、何ら不思議はない。
コツを知り、練習を反復しなければ、なかなかに難しい楽器だ。
その苦労をよく笑えるわね。
何が役に立たない、だ。
私にとっては癒しの音色であったし、今も話題として活躍しようとしたのだ。
遮ってまで自分の話がしたいとは、これは少々自己中心的過ぎやしないだろうか?
何故、そうまでして。
しかしノワゼットには、そんな想いは伝わっていない様だ。
「ん?どうかしたのかい、ロベリア嬢」
「では、ノワゼット様がご演奏くださいませ」
「…え?この僕が?」
「はい、ノワゼット様が」
「何だって僕がそんなことをしなきゃいけないんだい?」
「だって、何方にだって演奏出来るのでしょう?であれば、ノワゼット様の演奏こそ、お聞きしたいですわ」
「…フン。そうだよね、兄様より僕の方が良いよね?」
そう満足げな顔で言うと、彼はローレンスの方へと顔を向ける。
「兄様、あの横笛貸して」
「え、え〜と…」
「兄様に出来て、僕に出来ないわけないでしょ」
ローレンスは焦った様子で、私の方へ視線を向ける。
私はニッコリ笑顔で頷き、渡す様にと促した。
今に見てなさい。
フルートとローレンスの鍛錬への無礼、そう簡単には許さないんだから。




