<第43話> お嬢様、"茶会"と書いて"合戦"と読みます。
話を一通り聞き終えた所で。
バトラーはセバスに廊下へ連行されて行き、扉越しに話し声が聞こえてくる。
たぶん叱られでもしているのだろう。
彼の居ない部屋の中は、すっかり静かになった。
さて… お茶会の支度を始めねばなるまい。
情報提供元・お叱りを受けているバトラーの為にも。ウンウン。
王族は異能を持つ。
最低でも、"天啓を聴く"という一つを持ち合わせている。
ともなれば、その話が上がるのも遠くはないだろう。
ロベリア様がノワゼットと婚約されるのは、『聖女再来』の天啓に起因する。
代々王家と聖女は、婚姻を結ぶ慣わしがあるという。
まどプリ本編では、ヒロイン:エレナがその聖女だとされ、物語が進行していた。
しかしそれは、魔導学院の高等部に彼女が入学してから。
それ以前は、聖女を輩出した歴史のあるクロートー公爵家の令嬢と婚約を結んでいた。
聖女が新たに見つかれば、歴史上でも数あった様に、『お国の為だ』と婚約破棄すれば良いだけ。
万が一、億が一にでも、ロベリア様が聖女ならばそれはそれで良し… という訳だ。
その婚約は割と早い時期だった記憶がある。
幼馴染で初恋、そしてその念願が叶い…。
それが7歳頃だっただろうか、今から2年有るか無いか。
今となっては、それにどの様な感情を向けたら良いやら。
そもそも何故、天啓で誰だか判別が付いていないのか。
少なくとも、神殿側ではそれを観るんでしょう?
見た目で直ぐ分かると思うんだけれど…
この世界では不名誉な名前、"災厄の悪魔"と呼ばれるくらいなんだから。
それでいてお可愛らしく、美しいロベリア様。
ヒロインのエレナだって、稀有な光属性の適性持ち。
そう簡単に居る様な外見でもない。
本当に天啓を観るのなら、聖女を間違えようがないでしょう!?
まぁこの考えは、憶測に過ぎないか。
一体全体どんな形で観ているのか、聴いているのかも分からないのだし、そこはこれ以上考えても仕方がなさそうだというか。
…王族は、他にも異能を持つ事が多いのだったか。
ノワゼットやローレンスも、それに該当するのだろうか?
女神:ニマの寵愛を最もその身に受ける血族。
寵愛とも加護とも呼ばれる、異能。
異能自体をあまり多くは知らないし、彼らにそんな設定があった記憶もない。
あったとして、続編まで隠されていた設定の可能性がある。
それでは今の私には、いよいよ以って知る術がないのだけれどね。
まっ、まさか嘘判別機みたいな…!?
そんな異能を持っていたら、何を考えているかあっという間にバレてしまう!!
……いや。流石に無いか。
それだったら、堂々と質問をして、返答させるだけで良い。
あんなに私の変化に注目し、ましてや詰め寄る必要性は、全くと言って良い程無い。
であれば全然違う?
そもそも異能を持っていないという可能性もあるか。
ただでさえここは、魔法のファンタジー世界。
現代日本を生きた私にとっては、未知数なものが大半だ。
うーむむ。悩んでも答えは出ない。
バトラーも王子殿下の異能は知らないと言っていたし、この件もこれ以上は期待出来なそう、か。
肘を付き、指を組み、顎に当てて考える。
今の私は、さながら作戦本部の最高幹部。
お茶会出撃に向けて、対王子様決戦作戦を講じねばならないのだ。
ロベリア様もとい私の未来がかかっている。
王族とのお茶会…
否。これはもはや、"お茶会" と書いて "合戦" と読むものだ。
ロベリア様の命運がかかっている。
慎重に事を運ばねばならない。
…ポーズだけそれっぽくしても駄目みたい。
見事に案は浮かばない。悲しきかな。
もしかして、「これぞまさに名案!!」
みたいな作戦を考えようとしているのが間違ってる?
よくよく考えてみれば、弱点を握ったわけでもないのに、そんな効果が抜群な作戦が思い浮かぶ訳もないか。
ちょっと高望みしていたかもしれない。
やっぱり、地道に人間関係を構築するしかないのかな。
ノワゼットにとって今の私は不自然でも、来年には自然かもしれないし。
ローレンスは…どうだろう。
まずは普通に話せる様になると良いのだけれど。
そもそも、前世から普通の人間関係すら難しかった私には、難題が過ぎるとも思うのだが。
小さい頃からお稽古で忙しくて、幼馴染なんて居なかった。
学校に行っても、胸を張って「友達だ」と言えるような仲の人も居ない。
婚約者様も浮気というかなんというか、あのまま結婚していてもどうだったか。
挙句、両親からも見て見ぬフリをされていた訳だし。
…ビックリするほど人間関係が虚無に近い。
いや私も最初は「前世の経験活かしてってやつ!?」とか思ったこともある。
しかし人間関係は…
先述の通り、壊滅的であった。
せめてゲームの知識が、記憶が欠けていなければなぁとも思う。
所々不鮮明で、活かせそうなものが無いのだ。
私からまどプリ最新続編のみならず、プレイした記憶まで取り上げるとは…
神様が居るならちょっと恨めしい。
この世界の女神:ニマ様の仕業ではないことだけ祈っておこう。一応。
友達…幼馴染……
どうやってその関係を構築するべきなのだろう。
私が知る限りでは、そうだなぁ、
私の内面を好きだという告白は嬉しかったなぁ。
…そっか。そうだったなぁ。
断るしかなかったけど、嘘かもしれないけど、嬉しかったんだっけ。
自分の存在が認められた、ここに居ていいんだって言われた気がして。
なら。ノワゼットとローレンスの内面を、為人を、まずは知りたい。
ほとんど何も知らないままで、こんなに警戒するのも失礼だったかな。
まずは彼がどんな人なのか、それを知ってからでも遅くはないかも。
そうだよ。知ろう、相手のことも。
ちょっと前に出来た目標は、『この世界のことを知る』こと。
であれば、この世界に生きる人達のことも、もっと知っているべきだ。
彼らの日常も、非日常も、いろいろなことを知ろう。
そうすればきっと、もう少し世界が拓けて見えるかもしれない。
きっとそこに、希望だってある。まだまだ始まったばかり。
一気にじゃなくて少しずつ、切り拓いていこう。
そうこう考えていると、扉が3度コンと鳴く。
「どうぞ、入って」
「失礼致します。お嬢様、只今戻りまして御座います」
「お帰りなさい、3人とも」
メイド三人衆が休憩から戻った様だ。
バトラーとの話で差し支えが出る可能性も考えて、午後のティータイムは彼女達に「自室外で休憩を」と伝えていた。
「えっと、お菓子、ありがとうございました…!」
「本日も美味でしたわ!お陰様で、いい休息になりましたもの」
「それは何よりだわ、これからもよろしくお願いね?」
「「「はい」」」




