<第42話> お嬢様、本題に戻ります。コホン。
「え〜っと、そうね。聞きたいことがあったのよ」
危うく話が脱線したままになってしまうところだった。
セバスが居てくれて助かった…。
「それで?聞きたいことってなんすか?」
「…王子殿下について」
息を呑む。
ゴクリと、その音が聞こえる気さえした。
ほとんど禁忌的なこの質問、彼はどう出るのか…。
バトラーは一瞬顔を逸らしたかと思うと
「…ハハッ!そんなことかよ、早く言ってくれりゃいいじゃないっすか〜!」
そう言って、腹を抱えて笑う。
まるで、おかしくてたまらないとでも言う様に。
「そんな、ことって…」
え?王家について話せって言われて…この反応…??
思わず呆気に取られてしまう。
「いや〜、お嬢さ、悪魔のくせして王子様好きだったもんな?そりゃ知りたいっすよね?あっはは、こりゃ傑作っすね!」
「そ、そうなの…!」
…そっか。
彼の中では、ロベリアはノワゼットを好いているのか。
私が見た記憶の中でも、ロベリア様はかなり幼い頃からノワゼットを好いていた。
キッカケこそ分からなかったけれど、側から見ても好いているのは明白だった。
その印象が強いから、その恋慕から来るものだと思われているんだろう。
私はちょっと違うけれど…
今回は好都合! ヨシ!!
その体で話を進めるとしよう!!
「バトラーはお茶の好みも知ってるって聞いたから…せっかくだし、お茶会までにもっと知りたくて…」
上目遣いでバトラーを見上げる。
嘘ではないので許せバトラー。
「そんな乙女みたいな笑 アッハハハ!笑い死ぬっすよ俺ぇ?」
「そ、そんなぁ…」
上目遣いでさらに見つめる。
が。 流石に失礼すぎない?ねえ?
本当に、笑い過ぎで過呼吸になりそうな勢いじゃないの。
そんなに笑う?そんなだからモテないんじゃない?
こういうの、ノンデリって言うんだと思うんだけど。
「あ〜笑った笑った!いいっすよ、まぁそんなには知らないんすけど」
「そ、そう!ありがとう!」
「でも話せるものってなると…割と有名な話とかになるんすかねぇ」
「…有名なお話?」
「そうそう、お貴族様特有の体質だとかっす」
「体質?魔法適性みたいな?」
「それとはちょっと違うんすけど、似てはいるんですかねぇ?」
「異能っすよ、王族特有の」
…異能。
私ロベリアも、五感で魔力を感じ取れる異能持ちだ。
始祖の血が濃い高位貴族には、様々な異能を持つ者が居るとされていた。
他の例としては、精霊を目視出来るというものもあったはず。
しかし、王族特有とは?
それは覚えにない。
「…異能って、どんな?」
「なんでも、女神様の力の一部を賜るらしいっすね」
「女神様の力?」
「んまぁ、女神様のご加護については、貴族なら例外じゃないんすけど」
「それは、確かに…」
我がクロートー公爵家は、"魔法に優れた家門"として有名だ。
それは女神の寵愛とも言える、魔法の素質の高さ抜きには語れない。
長い王国史の中で、代々宮廷魔法長官として務め、他の公爵家同様に家門が降格されたことはない。
そして同格であるラケシス公爵家、アトロポス公爵家とは、一括りに"三大公爵家"と呼ばれている。
そしてこの三大公爵家にも、特徴的な異能に近しいものが伝わっている。
王国史上での三代公爵家。
クロートー公爵家とラケシス公爵家は、歴史上数名の聖女を輩出してきた。
アトロポス公爵家にはそれがない一方で、天啓を受け、高位神官になる者が居る。
異能と呼べるかは解釈次第だが、これらは女神の寵愛と考えられている。
「王族の異能は、数だったり幅だったり個人差があるらしいんすけど、1つだけは共通して伝わっていると聞いたんすよね。なんでも、嫁入りしたヴァイオラ様もその異能はお持ちなんだとか」
「それって、後天的にってこと?」
「そーなりますねぇ。いや〜女神様は我々をちゃんと見てるってことなんでしょうよ」
後天的な異能、それも王族に代々伝わるものと同一。
これは偶然ではないだろう。
何かしらの因果関係があって、そうなっていると考える方が通りだ。
「ところで、どんなものなの?」
「王族は、天啓を聴くのだそうっす」
「天啓って…それはアトロポス家じゃなくって?」
「そうなんすけど、そうじゃないってか。」
「…? どういうことよ?」
「お嬢は天啓の真偽はどう判断されるのか、知らない感じっすか?まぁ知らなくても無理ないっすけどね」
「真偽…知らないわね」
確かに、言われてみればその真偽はどう確かめるのだろう。
そういうものなのだと思って、深く考えたことがなかった。
その事態、予言が的中するまで待つ?
…いや、それでは判断が遅い。
その事態が起こる以前に、対策を講じることだろう。
しかし申告された天啓が虚偽であれば?
その内容が深刻だった場合、対処をせざるを得ず、結果的に政に支障をきたす可能性もある。
であれば早急に真偽が判明していた方が何かと都合が良い。
「アトロポス家を始めとして、天啓を授かる者はしばしば現れるんす。その者は天啓を観る。王族とはちょ〜っと違うんすよね」
「聴くと、観る?」
「あーはい。多くの場合は、満月の夜に観て、その次に日が最も高く昇った昼に聴くと。だから王族なら、天啓の真偽も分かるんすよね」
「でも観るのと聴くのとでは、勝手が違うのではなくって?」
「そーらしいっすね。なんで、天啓を最終的に判断するのは"神殿"になるんす。なんでも教皇聖下は両方の異能をお持ちだそうで、天啓を観た者の話を聞き、真偽を確かめ、最終的に王族に伝わるってな流れだそうで。何百年以上、この流れは変わんないと聞くっすね」
「神殿を挟むなんて、手間を掛けるのね」
「まぁ真偽は国の今後にも関わりますし、聴くのだけでは情報が少ないというのもあるんだとか」
「なるほど…詳しいわね」
「そりゃまあ高貴なお家に仕えるのがウチの家門っすからね。そのくらいは知ってて当然というか常識というか…あ、もしかして俺のこと見直しました?」
「ええ、そうね。評価が少し上がっ…」
「まあ見直すも何もないっすよね、元々高評価でしょうし?当然と言いますか?でも悪魔に高評価されたところで別に嬉しくもなんともないんすけど、妥当な評価を求めるのは人間の性なんすよ悪魔には分かんないかも知んないっすけど」
うわぁ。前言撤回。
これはプラマイマイナスかもしれない。
「これバトラー、少しはその無駄に多弁な口を慎むことを覚えなさい」
「このジジ…いや、なんでもないっす。うっす。」
セバスはバトラーの部下に当たるはずなんだけどなぁ。
どうもセバスの一喝には弱いらしい。
「そんな感じで、王族は天啓を聴く他にも、異能を持つ方が多いのだとは聞くっすね。王子殿下の異能がどうかまでは知らないんすけど、まあ天啓については例に漏れないんじゃないんすかね?」
「まだ幼い子供だと、それがごく普通。当然のこと。ってな感じで、異能を異能として認識していない場合が多い上、空想もままあるんで、判断が難しいんすよ」
「確かに、それはそうね」
「この話は割と一般的な教養にも当たるんで話しましたけど、これ以上は難しいっすかね?貴人のプライベートな話はあんまり出来ないって〜か?そうじゃなくてもプライバシーの侵害っすから」
「それも尤もだわ。マトモなこと言うじゃない」
「まあ?出来る人間なんで?あ〜お嬢のことは、誰が観ても悪魔だって分かりますけどねぇ!悪魔にプライベート探られるなんてそんな恐ろしいこと、俺はとてもとても加担なんてできたもんじゃあ…」
「これバトラー!!お嬢様、誠に申し訳御座いません…セバスめが言って聞かせます故…」
「ええ、構わないわ。ガツンとお願い」
「あれ?上司は俺なんすけど…」
「所詮は若輩者でして…」
「全く以ってそうね」
「所詮!?ジジッ…おまっ…!!」
「これ以上は品位が落ちるだけですよ。お止めなさい…お嬢様の寛大な御心に感謝するのですよ」
「…フンッ!!」
…ふむ、なるほど。
多少は異能の存在を知っていたけれど、王族共通のものがあるとは。
それに加えて、他の異能を併せ持つ事も多いのか。
当初の目的だった趣味嗜好こそ聞き出せなかったけれど…きっと何かの役に立つ。
そんな気がする。たぶん。




