<第41話> お嬢様、大公家はほぼ初見だったもので。
この王国で、王族に続いて尊ばれる血族。
それは"エウノミア大公家"。
その始まりは、建国史上では始祖の補佐を務めたとされ、女神が創った2人目の人間でもあったとされている。
後に王の子と補佐の子が婚姻を結んだことで、大公の爵位を賜る御家となったという。
王家に次ぐ魔導適性を持ち、代々大公家当主が"魔導大臣"を勤めるのが慣習となっている。
"魔導大臣"とは、各魔導分野の"宮廷長官"の更に上で統括する地位らしい。
我がクロートー公爵家は、当主のお父様が現宮廷魔法長官であり、つまる所その上司に当たる。
魔導三部門に対する正しい知識・判断力などが求められる難しい役職であり、それを代々務め上げてきた大公家は、王家に次ぐ権力を持つとも言われる程だ。
現当主は、アルダー・リヒト・エウノミア様と仰ったはず。
その娘に当たるのが現王妃であるヴァイオラ様と、クロートー公爵家夫人のダリア様だ。
しかしアルダー閣下は奥方様が亡くなって久しく、それ以降は独り身を貫いている御方。
息子には恵まれず、娘も嫁いで行ってしまったが為に、まどプリのヒロイン"エレナ"の後見人でもあった。
但し後見人となったのは、エレナが魔導学院:高等部に入学した際であり、今現在の情報は無いに等しい。
それに加えてゲーム本編でも、公式行事で映り込みくらいの出演しかない、ご多忙な方だったと記憶している。
ゲームを周回した私でも、知り得る情報はこれだけ。
他の御家や人物に比べれば、ヒロインに関わる立場でありながら、かなり情報が少ない。
だからまさか、そんな御家と面識がある者がいるとは思わなかった。
「ねえバトラー、アルダー閣下とご家族はどんな御方なのかしら」
純粋に、とても気になる。
ヒロインの強い後ろ盾でありながら、謎に包まれた御方。
いや。確か…
「"氷土の主君"と謳われていたかしら」
「お嬢、よく知ってるんすね。社交界に出してもらえないご身分なのに」
そのフレーズが、何となく頭に浮かんだ。
私が忘れている、ゲームの記憶なのだろうか…?
「このニマ=ティオシス王国は、その領土に魔物が出没するのは稀じゃないんすよね。その脅威から民を守るのが、貴族のお務めっす。その魔物の群生地、最も活発だと言われているのが〜?」
「北方領土…だったかしら」
「またまた正解っすね〜!やっぱ悪魔だから魔物とか分かっちゃう感じなんすか?」
「またそんなこと言ってると、セバスにどやされても知らないわよ」
「ウッ…」
バトラーは周囲に目線を泳がせ、わざとらしい咳払いで場を凌ごうとする。
「え〜、それで、北方領土なんすけど。あの辺りは魔物が出るだけじゃなく、寒冷化も進んでるんすわ。王都と比べたら、そりゃもう寒いっていうか!とにかく、暮らしていくにはとても不便な土地なんすよ」
「今話に出たってことは、その厳しい土地を治めているのが、アルダー閣下なのかしら」
「そーいうことっすね。代々魔法適性も高く、魔術的技術にも長ける御家柄ですんで、それを引き継ぎ、その地を見事治めていらっしゃる。その上、絶世の美丈夫だと社交界ではその容姿も大人気!実際にかなりハンサムな方なんすよね。
「…故に"氷土の君主"と呼ばれてるってなわけなんすよ」
「へぇ…お若くはないであろう御方なのに、そんな人気があるなんてね」
「やっぱ血筋なんすかね?他のお方よりもお若い印象はあったっすよ。奥方様が亡くなってからというもの、その人気が再燃しているとかなんとか」
「あら、奥様が…再婚はされてないのね」
「あ〜。アルダー様は奥方様をそりゃもう愛してらっしゃいましてね。亡くなった今でもその愛は変わらないんだとか。他の方が押し寄せるわけなんすけど、ま〜ぁご興味がないらしいっすね。皆さん玉砕したってよく聞きますし」
「純愛って感じ…」
「貴族としては、後継がいないもんで困ってるって話もあるんすけどねぇ」
未亡人純愛ハンサムイケメン…属性つっよ…
これは何故ゲームに出なかったのか、という疑問を考えるまである。
出てたら絶対人気出たでしょ…!?
それとも覚えてない? いずれにしても勿体無いって…
「お嬢、どうかしたんすか?あ〜そういう恋愛に憧れちゃう的な?いやまぁそれは分かりますよ、俺も閣下みたいにモテたいなって思ったり…」
「なんでもないわ」
「ウッス…」
「それで、そんなアルダー閣下の娘であるヴァイオラ殿下とお知り合いだったの?」
「あーはい、そうなんすよ。姉さんの仕事を見て学ぶ〜みたいな機会があったんで」
「へぇ、そんな機会があったのね」
「ま〜アルダー様とヴァイオラ様のご好意あってっすけど。特に奥方様が好意的で、迎え入れてくれたんすよ。『良い使用人になるなら、より良く多い経験を』ってねぇ」
「…まだご存命だった頃、なのね」
「えぇまぁ。既に床に伏せってらっしゃいましたけどね。俺もまだ小さかったんで、仕事見て覚えるのに必死で、あんまりお会いしたこともなかったんすけど」
「そう…」
「まぁそんな感じで、ヴァイオラ様にはよくして頂いたんすよね。今でも茶会にたまには顔を出したらどうだって、ダリア様からも言われてますけど」
「あぁ、夫人…ダリア様とも仲が良いの?」
「そういやそっすね。仲の良い姉妹でしたし、妹君のダリア様とも元々ご縁があったっていうか。まぁ俺はクロートー家に仕えるのは決まってたんで、今もってのは偶然なんすけど」
「なるほどねぇ」
「…お嬢様」
「はい?どうしたの、セバス?」
「バトラーめに、他に聞きたい事があったのではありませんか?」
「あっ…えっと…」
いけないいけない、私としたことが。
ついエウノミア家に興味が出てしまって…話がやや脱線…
王子殿下のことを失念……
…大丈夫。まだ巻き返せる。
というかむしろ、拾える情報は全部拾っておきたいというか。
「これから聞こうと思ってたの!!」
…ね? 大丈夫よ。うん。




