<第40話> お嬢様、優秀な使用人がいるらしいですよ。
あれからまた幾日。
特に問題は起こらず、日々は過ぎている。
しかしそれは同時に、最大の問題である
『王族に招かれた茶会』
への日程が近付いていることを指している。
先日の一件もある。
今回は殊更慎重にことを運ばねばならない…。
「ー で。俺を呼んだってワケっすか?」
「そうよ、バトラー」
その日、私の部屋には、珍しく私から呼び出されたバトラーの姿があった。
体良く断るものかと思っていたが、意外にも応じてくれた。
その隣には、凛々しく佇むセバスの姿もある。彼のおかげ、もあるのだろうか?
さて、何故呼び出したかと言うと。
「確か貴方の御家って、それなりの名門よね?」
「そりゃあまぁ。さすがに三大公爵家には劣るんすけどね、そこそこは名があるんじゃないすか?他の家柄とは事情が違いますけど」
彼の『バトラー』の名は、彼の家名。
ファミリーネームだ。
一般的に、仕事から由来するとされている名前。
しかしそこで特別な点がある。
仕事由来の家名でありながら、名家とも呼ばれている点だ。
では何故、名家と謳われるのか。
「皆に聞いたわ。なんでも、優秀な使用人…延いては"補佐官"を輩出しているそうじゃない」
そう。バトラーの家門が輩出しているのは、優秀な補佐官。
それは我がクロートー公爵家においても、例外ではない。
「あ〜俺ってば、旦那様の右腕っすからね?そりゃ気付いちゃいますよねえ、この優秀さに?」
「いえ、セバスが貴方の先代に教えを受けたと聞いたの」
家令という立場であり、屋敷の主人の補佐官。
先代のバトラーは、それはそれは優秀な方だと使用人の中で噂される方だった。
今代は正直どうか?と思うところがあるが、こうして私の元に、足を運んでいる。
重要な役職でありながら、他に訪ねてくる者も居ないのだから、時間や仕事の配分はキチンと管理出来ているのだろう。
決して仕事が出来ない、という訳ではないだろう。
「あ、そっすか……チッ」
まぁこの態度が問題に思うのだが。
今はそれは置いておくとしよう。
それは今日の目的ではないのだから。ウンウン。
「それでね。貴方の御家や親族に、王族にも明るい方が居るのではないかと思って」
「…ふ〜ん。アク((お嬢にしては良い発想っすね」
「でしょう?」
この反応は…
「居るんすよねぇ、これが〜!」
心の中でガッツポーズをする。
よしよし、ここまでは計画通り…。
「どんな方なの?教えてくださる?」
「いいっすよ〜!いやぁあの人は昔っから優秀だったんでぇ、俺も鼻が高いってもんっすよねえ〜!」
彼は二つ返事でOKする。
さらに計画が進む。
ここまでスムーズとは、我ながら恐ろしい程だ。
私の作戦、とは何か?
それはバトラー、使用人の目線からの情報収集である。
しかし我が公爵家の中では、あまり王族関連の情報を口にしない者が多いのは数日前に知った。
そもそも神聖視さえされる血族であるからして、元の情報から少なそうだというのを知った。
ただそんな中で、バトラーは両王子のお茶の趣味を知っていたという。
この世界の王国、ニマ=ティオシス王国は洋風ファンタジー世界。
紅茶の類があり、聞いてみれば、その種類は膨大な数だった。
数十種類は軽くある上に、蒸し方といった工程一つでも味が変わるのだとか。
さらにそれに加えて、砂糖やミルクの分量まで、バトラーは把握していたと。
…そう話していたメイドに聞いた話だと、ローラから聞いた。
普通であれば、スタンダードな形で出すのが無難だ。
砂糖やミルクは別皿で出せば良い。
それをお茶の好みなんてプライベートな趣向を、わざわざ客人にカスタムしてお出しした。
それを家令が指示した。
これは確信めいた情報があるのでは。
…そう閃いた次第だ。
この際、お茶の趣味でも何でも構わない。
少しでも情報を拾いたい。
趣味趣向なんて仔細なことを知っている者からであれば、さらに有益な情報だって期待出来るというもの。
バトラーの家門なら、或いは。
「貴方が王子殿下のお茶を選んだのも、その方の影響かしら?」
「あ〜、しごできバレちゃいましたぁ?そうなんすよ、聞いてたんで覚えてたんすわ〜」
「そうね、貴方にしてはとても気が効くと思ったわ。でもそんな些細なこと、どうして知っていたの?」
「まあ俺ってばアレなんすよね、ヴァイオラ様と面識がないわけじゃないんすわ。その伝手って感じっすね」
「ヴァイオラ王妃殿下と…?お母様…夫人が姉妹仲が宜しいからかしら?」
「い〜え?姉さんがヴァイオラ様の側仕えなんすよぉ」
「王妃殿下の!?姉君が!??」
「…何すか急にデッカい声出して。そうっすけど」
いけないいけない。
このバトラーの姉がそれほど重要なお仕事だったとは、つい驚いてしまった。
急に声を荒げるだなんて、淑女として はしたない…。
「…コホン。でもそれは面識がある理由になるのかしら?」
「あ〜。姉さんと俺、そこそこ歳離れてるんすよ。姉さんはヴァイオラ様が嫁入りされる前から側仕えとして働いてて、俺が小っさい頃に気に掛けて下さったりしたんす」
「嫁入り前…大公家に居た頃から、今もってこと?」
「えぇまぁ。姉さんは優秀なんでね、弟の俺も鼻が高いんすよ」
これは…
「ふぅ〜ん…」
「あ?何すかお嬢、変な顔して」
「別に何も企んでなんかないわよ?」
「はぁ?」
あの大公家と王妃殿下に縁があるとは。
これは思わぬ収穫が得られるかもしれない。
…というか想定以上に良い御家じゃないの!!
バトラーのあの失礼極まりない口調は誰譲りなのよ? 全く!!!




