<第34話> お嬢様、策を講じたいのは山々ですが。
あれから数日。
私はある程度、一定の毎日を送っていた。
食事、ティータイム、湯浴み、就寝。
それらをメイド達と共にする。
購入したものが届くタイミングはまちまちで、届いてはその度に、試着したりした。
とは言っても、まだ数日。
大半はアクセサリー類で、洋服はドレスが1着だけ届いたのみ。
依頼先は仕事の早い仕立て職人ではあるものの、その店の在庫にあった魔導布では、1着が限界だったのだとか。
茶会用のドレスも、1ヶ月後には間に合わせると言われているが、全てが揃うには時間が掛かるだろうとのことだった。
ある程度、充足した日々であると言える。
しかし私は知っている。
このまま無策では、破滅が待っていることを。
充足した日々を過ごすのは悪くない。
勿論楽しい。
このまま平和なら、それがなによりだ。
だがそもそも論として、私ことロベリア様は、両親から疎まれている。
正直に言うと、手の付け方も分からない程度には。
そんな私が、ずっとこのお屋敷で悠々と過ごせるとも思えない。
魔導学院は記憶によれば、全寮制。
卒業するまでは、衣食住に困ることはないだろう
…いや。途中で学費その他諸々を、払ってもらえなくなったら?
それは、事実上の破門宣言。
たちまち学院やこの家にも居られなくなる上、路頭に迷うことにもなりかねない。
別の形の破滅でしかない、か…。
困ったことに。
今は良くとも、その先に待つ問題が思いの外多い様だ。
私は知ったようなことを言って、理解出来ていなかったのだろう。
ロベリア様の人生に、どれだけの困難があるのかを。
自分の至らなさに、反吐が出そうになる。
まぁ。そんなふうに思ったところで、何も変わってくれやしない。
なので自己嫌悪していようにも、時間の無駄なだけである。
そうしているくらいなら、何か手を考えねば。
…とまぁ。考え始めて、はや数日が経過している。
あの日の晩から、ずっと考えてはいる。
何か出来ることは無いものか、と。
だが有効な策が浮かぶのかどうかは、全くの別問題であった。
現状、有効的な具体策はない。
食卓押し掛け作戦も、図書室占拠作戦も、見事に失敗している。
食卓からは「邪魔だ」とバトラーに追い出され。
図書室…というか、図書室がある2階からは「悪魔が来ていい場所じゃない」とバトラーに摘み出され。
ここ数日、何か事を起こしては、気が付いた頃にはバトラーが居る。
お屋敷使用人ネットワークでもあるのか、少し何かしようとしただけでも、その場に居るのがすぐにバレてしまうのだ。
正直、バトラーに舐めてかかっていた感は否めない。
その情報と行動の速さから、伊達に家令として勤めているわけでは無さそうだ。
そんなわけで、綺麗に妨害されては作戦は失敗している。無念。
この世界のことを知るためにも、図書室で本くらい読みたかったんだけどな。
我が家にはそれなりの蔵書数があるようで、何部屋か本が多い部屋があったのだが、どこも追い出されてしまった。
まぁ使用人視点から考えれば、突然私が来ても怖いだけだし、仕事に支障も出かねないか。
そう考えれば、致し方のないことか。
いや。それでは困るのだが。何も出来なくなる。
う〜ん、二進も三進もいかないとはこういうこと?
周囲の人達に
「このままじゃ私は破滅する!!」
…なんて、言う訳にもいかないし。
少なくとも、メイド達には『好奇心旺盛な幼子』に見えているらしい。
5歳児が将来を憂いているとも思うまい。
変に心配を掛けるよりは、その認識のままでいいかと、特に訂正もしていない。
微笑ましいと見守ってくれる分には、むしろありがたいことだし。
しかし、どうしたものか…。
現状の打破は、どうやら案外難しいらしい。
破滅展開も打破しなければいけないというのに、こんな直ぐつまづくとは。
不甲斐ないやら、なんとやらだ。
まずは最低限、バトラーの目を掻い潜る方法が必要だろうか…?
そんなことを考えながら、お茶を嗜む昼下がり。
何か妙案はないものかと聞いてしまいたい。
先に言った通り、出来ないのだけれど。
せめて王室のお話でも聞けたら、ノワゼット対策も進められるのだが、それも難航中。
メイド達にそれとなく聞いてみたのだが、建国神話だったり、『始祖の血を引く天上人』みたいな話しかなかった。
それだけ重んじられている血筋というのもあるが、下手なことを話せば不敬罪にもなりかねない。
そのせいか、第一王子と第二王子の関係性や立場といった話は聞かなかった。
日本育ちの私にはしっくり来ない罪状。
前世風に言えば、誹謗中傷による名誉毀損が近しいだろうか。
それをお国の尊い方に…と考えれば、なんとなく納得出来るものはある。
ゲームの作中ではバチバチに描写されていたのは、やや例外的な気がする。
たぶん「いざ現実!」となってみれば、こういうものなのだろう。うん。
ネットではその手の書き込みをするけど、現実社会ではしない…とか、なのかな。
まぁ私個人としては、そんな風に感じた。
実際この認識が正しいのかは、ネットも無いであろう世界では分からないけれど。
ともかくそんな感じで、王族の話題には、皆慎重なところがある様子なのだ。
これでは情報収集もままならない、ということだけは分かっている。
ノワゼット王子の弱みの1つでも、握れたならば或いは…!
そんな望みは儚く砕け散ったのである。
そんなことを考えていたと、私が不敬罪に処されては元も子もない。
この手は諦めるとしよう。
「はぁ…」
思わず、大きな溜め息が溢れる。
気を張らねば、頬杖までついてしまいそうだ。
流石にお行儀が悪すぎるので、少々堪えねばならない。
「お嬢様、どうかされましたの?」
部屋にいたローラに声を掛けられる。
うっ。返す言葉が、差し障りのない言葉が思い付かない…!!
せめて溜め息が小さければ、気付かれなかったかもしれないものを。
私が返す言葉に困っていると。
部屋の扉が、ノックとほぼ同時に開かれる。
「お嬢〜お利口にしてるっすか〜?」
はい、また出ました。
この部屋にこんな乱暴に訪れ、こんな口調で話しかけてくるのは彼しかいない。
そう。
バトラーである。
お利口にしてますか、とはまた不敬な物言いである。
私が王族だったら引っ捕らえていたところだ。
「なんですかバトラー。今日はお部屋からも、湯浴みくらいでしか出ていないんですが」
「いやぁ、最近は毎日のようにその顔拝んでたんすもん。やれ何処かに押しかけただの。そりゃ懸念もしますって」
「そうね、それは手間取らせて悪かったわね」
「そうっすよ〜」
「で、何しに来たのよ?」
この男は、どうやら無駄話が好きらしい。
ことあるごとに話が脱線しては、長くなる。
さっさと本題に戻さねばと、焦る瞬間すらあるものだ。
「これまた言葉に棘があるんすねえ。まあ悪魔ってそういうもんなんすかね?知りたくもないすけど」
「じゃあ話を進めてくださる…?」
何かにつけては、私を"悪魔"呼ばわりする所は変わらない。
何故そこまでその呼び方にこだわるのか…
まだ必要最低限は「お嬢」と呼ぶようになっただけ、マシなのか。どうだか。
「あ!そうそう、お客人がお見えなんすよ!さっさと準備してもらえます?」
「へ?客人?私が行くの???」
「旦那様は居ませんしぃ、奥様はご準備に時間が掛かるそうなんで。じゃあ伝えたんで、早めに頼むっすよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
え?お客人の応対に、私???
悪魔と呼ばれる5歳児が?????
それって本当に問題ないのだろうか。
こういう大事なことは話さない。
一体誰が来たのかくらいは…
「あ、お見えになってるのは王子殿下なんで。そこんとこ公爵令嬢らしく、お願いしますわ」
「は?????」
呆然としている、いや、もはや半ギレの私を置いて、バトラーは足早に帰って行く。
そりゃあお母様も準備に時間を掛けるでしょうよ。ええ。
それで???
王子のどちらなの?????




