<第33話> お嬢様、夜分に秘密の考え事です。
今日は怒涛の1日だった、と思う。
アベルが訪ねて来た時もそう思った気がするけれど、今日はより多くの人が訪ねて来て。多くの出来事があって。
やっぱり、静寂が哀しく思えてくるくらいには。
セバスに忠告を受けた私達は、そりゃもう急いでやり残していたことを片付けた。
とは言ってもメイド三人衆は真面目で、手を抜いたりはしなかった。
湯浴みでもしっかりマッサージまでされたくらいだ。
しばらく寝込んでいたからと、念入りに手入れしてくれた。
おかげで気分もスッキリさっぱり
…とまではいかないけれど、軽くなったのは確かだ。
その後も4人で夕食を食べて。
同じ4人なのにね、食堂での昼食よりもずっと充実していた。
お互いにくだらない話をして、美味しい食事を取って。
やはり食卓は、明るいに限る。
そんなこんなでメイド達が仕事を終え、夜も更けたところで。
3人は当然ながら「また明日」と言って、去っていった。
良くも悪くも話の尽きることがない人達だから、居ないと少し、もの寂しさがある。
私が転生してから日は浅い。
そもそも彼女達に出会ってからも日が浅いのだが、既に彼女達が居ることが、自分の中で前提になりつつあるのかもしれない。
今度買い物に行く時は、私も一緒に行けたらいいな。
そんな風にすら、考えてしまう。
だってきっと、楽しいから。
布団に潜りながら、1人で考えを巡らせる。
今日はもうすっかり遅くなってしまったから、ルリと話そうにも、また「早く寝なさい」と怒られかねない。
無理に話そうとして「もうあなたと話さない」と言われても寂しいし。
今晩は諦めるしかないだろう。
今日はこうして、1人で色々考えるのも悪くない。
ちょっとした目標が出来たから。
この世界のことを、もっと知りたいんだ。
ロベリア様のことだけじゃない。
魔法や魔道具だけじゃない。
もっと広い世界のことを、知りたいんだ。
…折角大好きだった世界に転生したんだ。
楽しまなきゃ、損だよ。うんうん。
それでね、ロベリア様が幸せになれる道を切り拓くんだ。
前世で死んじゃったの、今は少し残念で。
両親を思い出したからかもしれない。
やっぱり恵まれてるとは思えなかったけれど、死にたいわけじゃ、なかったから。
なら、さ。
まどプリの最新作、続編の世界までは生きなきゃ。
プレイ出来ないまま死んじゃったんだから、この世界で生きて、この世界でそれを見よう。
続編の世界に、きっとロベリア様は居ない。
主人公や攻略対象達に、悪魔として討伐されるから、未来には居ない。
そういう運命にある、ゲームキャラクターだと、私は知っている。
けれどロベリア様は、少なくとも私の前では、確かに生きていた。
だから、ロベリア様…
ルリには『あなたはゲームのキャラだ』なんて言わない。
ましてや『殺される役回り』だなんて、以ての外。
私だけの、秘密にしよう。
この先は私だけの、内緒のお話。
でも、黙って殺されてなんかやらないんだから。
そうよ私。
しぶと〜く生きて、幸せになるの。
ロベリア様にも誓ったんだもの、幸せにならないなんて手はないわ!!
でもそれを実現するには、現実的に考えて、どうするか…。
やはりその鍵になるのは、攻略対象達
ー 特に『ノワゼット・エクラ・ニマ=ティオシス 第二王子』だろう。
彼は、ロベリア様の婚約者だった。
今からそう遠くない未来に、同様に婚約が果たされるだろう。
えっと、時期は…
記憶が確かなら、7歳くらいだったと思う。
となると、今から2年経つか経たないかの時期になる。
それまでに、どう立ち回るべきかを考えておく必要がありそうだ。
何故かと言うと、
ロベリア様の悪魔堕ちの発端は、ノワゼット王子に起因するから。
ノワゼットはどのルートでも共通で、ロベリア様を『悪魔だ』と糾弾する。
え、と。どんなシーンだったっけ。
ヒロインのエレナの前で、他の攻略対象も居たのは覚えてる。
あとは…銀髪の人、も居た気がする。誰だっけ。
まあ簡単に言えば、ゲームの重要人物の前で、
「〜〜しているのが証拠だ!悪魔め!!」
…みたいな感じだったと思う。
何十回とプレイしたのに、なんでこんなに曖昧なんだろう。
その糾弾がきっかけで、ロベリア様は失意に暮れてしまう。
そうして、皆の前から姿を消す。
それがキッカケになって、悪魔だと断定されて、指名手配されちゃうんだ。
なんというか、たとえ悪魔じゃなくても、傷付くよね。こんなの。
しかも幼馴染で、初恋の人に言われるなんて。
乙女心とかそういう問題じゃない、人間としてって感じ。
そりゃ、逃げたくもなるよね。
私も、婚約者が別の人を愛していると知った時、都合のいい存在でしかなかったと知った時、ショックだったもの。
彼を特別愛していなくても、だよ?
それが愛していた人なら、尚更思うものはある。
えっと、それでその後。
人気のない場所で1人で過ごしていたんだっけ。
そこが元々お屋敷だったこともあって、ゲーム的には『魔王城』みたいな扱いだったかな。
悪魔になったロベリア様は、ゲーム本編のラスボスだったから。
…悪魔になった?
どうして? いつだ。それは。
ノワゼットに糾弾された時点では、ロベリア様のスチルに変化は無かった。
その時点ではまだ悪魔と呼べる存在になってはいなかった。
なら、どこで?
なにが、原因で?
そ、うだ。
ロベリア様視点のファンディスクがあったはず。
全てのセリフを丸暗記するくらい、プレイしたはず。
そこには全てが描かれていたはずだ。
6歳になる少し前から、悪魔になるまでの、彼女の全て。
ヒロインも知らない、王子様も知らない、悪役令嬢の舞台裏。
…なのに。 なのに、さ。
チリっと、頭の節が痛む。
私はそれを知っていた。
しかし、今は。
…それを、思い出せない。
あれ、どうしてだろう。いつから忘れていた?
ただただ、頭が、痛むだけ。
どうしてこんな大切なことを忘れていたのか。
忘れていたことに、今になって気が付いた?
どうして、だろう。
私は何十回とプレイしたはずのゲームの内容を、
本編を、鮮明に思い出せない。
それどころか。
ロベリア様の輪廻の輪、その元であろう"ロベリア視点ファンディスク"に関しては、そのほとんどを思い出すことが出来ない。
これは、ゲームの知識だけでは、
太刀打ち出来るとは、最早思えない。
だってその知識が欠けていると、今になって気が付いたから。
生きて、いけるだろうか。
唐突な不安から逃げるべく、私はその夜を、もう終えることにしたのだった。




