<第32話> お嬢様、はしゃぐのは程々に。
柄にもなく、暫くはしゃいでしまった。
…だって生活の中にある魔道具なんて、興味しかなくって!!
前世では存在自体あり得ないことだし、ロマンというか、なんというか。
"まどプリ"のプレイヤーとしては、仕方のないことというか。
目の前に魔道具があるなんてそんな状況、楽しむしかないでしょう!
…と心の中でそっと言い訳をしておく。
誰しも心が躍るはず。仕方がないことなのだ。
ー これはいわば不可抗力!!!
さて。ひとしきり魔導靴を堪能したところで、
ようやっと、疑問に思っていたことを尋ねることにした。
「今日買ってきたのは、魔導靴だけなの?」
メイド三人衆が部屋に来た時、紙袋も荷物の中にあったはず。
まだそちらの中は知らないし、洋服は買わなかったのだろうか。
箱の中身は確かに良い靴だったのだが、足元だけ着飾っても仕方がない。
逆に不自然まである。
「他にもございますが、手元に届くのは後日となる品が多いのです」
「そうですわ!まだまだたくさんございましてよ!!」
「そのっ、3人でいっぱい選んだので…!」
そんなに多く…?
「荷物が多かったから、届けて貰うってこと?」
「いえ、オーダーメイドでございます」
ヒェ。思わず息が口から溢れそうになる。
本当に費用が心配になってくる。
バトラーったら、一体どれだけ工面したの…!?
「お茶会へのご招待は、当初2週間後にとのご指定でした。ですがお嬢様がお目覚めにならなくなり、1ヶ月後に延期されました。なのでお仕立てに当てられる時間が生じたのです」
「折角ですもの、その時間を活用しないのも損ですわ!」
「お、お嬢様は、その間お休み下さいね…?」
あ、すっかり忘れていた。
私ってば、数日眠り続けていたんだっけ…。
時間の感覚が無かったばかりに、頭から抜け落ちていた。
「セバス殿は大変ご心配との事で、今朝早くからお嬢様のお部屋と仕事場とを行き来しておりましたね」
「そうですわ!それなのに3人揃って急にお留守に…私ったらオシャレに浮かれておりましたわ… お嬢様、ご不便などありましたか?」
ローラは今までご機嫌だった顔を、途端曇らせる。
それだけ心配してくれているのだろう。
「差し障りないわ、私も寝込んでいたことを忘れていたくらいだもの」
実際、体を動かすことに不便していない。
なので余計に失念していたわけだ。
「そうでしたのね、問題ないようで何よりですわ」
そう言い、ローラは胸を撫で下ろす。
するとその隣から、カミラが言葉を投げ込む。
「お嬢様の事はセバス殿が付いていて下さるとの事でしたから、そのお言葉を信じてお任せしました。しかしこの婆には、浮き足立つローラと、連れられるジェシーの方が心配でございました故…申し訳ございません」
その言葉に、2人はドキッとした様子を見せる。
「お、お嬢様のお役に立たなければとの一心でしたのよ…?」
「グイグイ、引っ張るものだったので…」
「これは私は付いて行かねばと思いましたよ」
そう言って、カミラは薄く笑う。
これは相当乗り気だったのだろうなと、密かに思った。
カミラが付いていなかったら…
もっととんでもない数を買われていた可能性まである…。
「それで、何をオーダーメイドしてきたの?」
そう話を戻すと、またローラは輝かんばかりの笑顔になる。
季節の変わり目のように、表情が移り変わる人だ。
しかし見ていて悪い気はしない。
本当に、心底楽しそうな顔を浮かべるものだから。
「ドレスと普段着を数着ずつですわ!本日お持ち帰りしたのは、魔道靴と肌着類だけですわね」
「肌着類?」
「ええ、直ぐにお召しになれるように紙袋で頂きましたの」
なるほど。
紙袋の中身はそれだったのか。
確かに直ぐにあった方が助かる。
「そちらに加えて、装飾品は安全面から考慮して、お屋敷に届けて貰う事に致しましたわ」
「アクセサリーも購入したの?」
「何点か見繕いましたわ!ですが王都とはいえ、城下の民のお賃金よりは高価ですから、後程お屋敷に届けて貰うのが一般的ですの」
「と、届いたらぜひ見てください!わっ、私も一緒に選んだので…!」
「あら、ジェシーが?それは楽しみね」
発端こそ半ば強引ではあったが、連れて行かれた買い物先を、ジェシーもそれなりに楽しんだらしい。
その証拠のように、彼女は照れくさそうに笑っている。
ローラほど興味が強いわけではないが、彼女も女性。
それなりにオシャレが好きなのだろう。
ローラの話を聞くのも楽しそうだし、選んだのだと笑う彼女の笑顔は素敵だ。
てっきり勢いのまま、ほとんどローラが選んだのではないかと思っていたから、ジェシーが選んだ品は純粋に興味もある。
「装飾品は流石に時間が足りず、既成のお品ですが…お洋服はこれまた逸品ですのよ!生地のお取り寄せからお願い致しましたから!!」
「き、生地からですか!?」
「ええ。お嬢様の事も考えて、"魔導布"のお洋服に致しましたのよ」
「ま、まぎあ…」
また知らない単語だ。
また魔道具だろうか?
しかし生地だと言っていたはず、またサイズがフィットするのか…?
コホン、とカミラが咳払いをする。
「お嬢様、魔道布はほとんどシルクと同じと考えて頂いて構いません。魔道具の様な扱いは殆どございません」
「へぇ…そうなのね」
なんだ、魔道具じゃないのか。
ちょっとだけガッカリしたかも。
「で、でも、魔導布ってかなり大切なお品ですよね…?」
「大切?」
「はい、えっと。高価である以前に、貴重で、お貴族様には特に、重要な役割もするって、聞きました」
ふむ、やはり"魔導"と名前に付くだけはある品なのだろうか。
しかし、貴重な上、貴族に役立つ…?
この世界で平民と貴族の差があるとしたら、強いて上げるとしたら、
「魔力保有量に関係あるのかしら?」
「そうでございますね。直接的ではございませんが、無関係ではございません」
ふむ?
「魔導布は、その制作工程がやや特殊なお品です。それそのものはシルクの材質なのですが、魔力が織り込まれている、制作に手間が掛かるお品でございます」
「その作業行程は、女神様の伝承に起因されると言われている、歴史ある品、神聖な品でもあります。王家や神殿の方々のお召し物は、殆どが魔導布で作られたものだともお聞きします」
えっと…伝承と言うと、『女神:ニマは糸を紡ぎ、原初の人を造った』と言う逸話だろうか。
王家の名前も、『糸紡ぎ』と意訳出来たはず。
それが由来なら大したものだ。
女神信仰が根強い土地らしい品の上、この世界における、伝統工芸品の様にも思う。
「貴族の方もお召しになるのは、その機能性故です」
「機能性?でも魔道具ではないんでしょう?」
「魔道具の様に、魔術的行使は出来ません。しかし魔導布に干渉したものは、織り込まれた魔力に対して、魔力的防御力が上がり、魔力制御力にも長けるのでございます」
それって、まさか
「魔法の暴発も、抑制出来る…?」
「流石はお嬢様。仰る通りでございます」
「幼い子供が起こす魔法の暴発は、魔法と言うより、魔力の暴走ですものね。それを防ぐには一番の策ですわ」
「魔法の暴走…ではないの?」
「ええ。魔力暴走と呼ばれる現象ですわね。多くの場合、魔法を具現化させるに至る技術が足りず、魔力だけが暴走する力として具現化してしまうのですわ」
「ローラの言った通りでございます。故に魔導布で魔力制御力をあげれば、自ずと魔力暴走のリスクは減ります。もし仮に起こったとしても、魔導布がお嬢様の身を守ってくれる事でしょう」
「対応する魔力が織り込まれていないと、シルクと同質ですから、今回は布はお取り寄せになりましたわ。闇属性が織り込まれている魔導布は、そう多くはないお品ですの」
「これで、闇魔法も怖くない…です…!」
「これでお嬢様も、ご自身の魔法にご懸念されずに済む事でしょう」
「3人とも…」
ジェシー、ローラ、カミラは、私に笑って見せる。
つい、涙が溢れそうになる。
そっか。私の為に、ロベリア様の為に、それを探してきてくれたんだ。
私は知っている。
ゲームの作中で、闇属性適正は非常に稀有だと言われていたことを。
きっと話から察するに、そんな稀有な力を持った人にしか、闇属性に適性のある魔導布は作れない。
買い手も多くないだろうから、さらにその数は少ないとも思う。
本当に、貴重な品だろう。
それをわざわざ、選んで探してきてくれた。
とてもありがたいことだし、それ以上に嬉しい。
そんなにも、想ってくれていたんだなって。
「私の為に…。嬉しいわ、ありがとう。ジェシー、ローラ、カミラ」
素直にお礼の言葉を口にすると、3人はニッコリと穏やかに笑う。
彼女達は、思い思いに口を開こうとする。
が、その次の瞬間、扉がノックされた。
カミラが扉を開けてみれば、セバスがそこには立っていた。
そしてセバスは言う。
「皆様、お楽しみの所申し訳ありませんが…お時間は把握されておりますかな?お嬢様の湯浴みとお夕食は?お済みの上でお楽しみなら何とは言いませぬが…」
たぶん、この時の私達4人の気持ちは同じ。
『あ、はしゃぎすぎた。忘れてた』
そんなことを思った。
…ごめんなさいセバス!!
今度からは気を付けます!!!




