<第31話> お嬢様、これは"着せ替え人形"でしょうか…?
私は今、メイド達が買ってきた品々を着せ替えられている。
いやしかし、これは着せ替えに入るのだろうか…?
と、言いますのも。
あれから、彼女達が買ってきたものを見せてもらうことになった。
多くの箱や紙袋もあった。
一体メイド達はどんなものを選んで来たのかと、少々ワクワクしていた。
「ご覧くださいまし、素敵でしょう!?」
迫真の勢いでそう言ったローラだったが、彼女が見せた品々は、ある意味でどれも同じだった。
「全部、靴なのね」
そう。
10を超える数の箱から出てきたのは、全て靴だったのだ。
「ええ!普段使いから社交の場まで、たっくさん選んで参りましたの!!」
ローラが楽しそうでなにより。
…しかし靴だけでこの数!?
服も合わせたら、どれだけの数を買ってきたのやら。
そんなわけで、私は靴を、あれよあれよと着せ替え…
いや、履き替えているに至る。
これでは着せ替え人形というよりは、履き替え人形だ。
靴だけとは、こんなマニアックなお人形は多くはないことだろう。
「どうですお嬢様?素敵なお靴でしょう?」
ローラは、そんな履き替え人形でもご満悦らしい。
しかし私もまた、案外乗り気ではある。
「そうね。動きやすそうだし…それでいて、デザインが見事だわ」
「ええ、選ぶのに苦労致しましたわ。だってどれもオシャレでしたもの!」
見事だという言葉に、嘘偽りはない。
レースやリボンがふんだんにあしらわれており、留め具の細工といった細部まで凝っている。
繊細な刺繍が各所にあり、ベースの生地も光沢が美しい。
どの角度から見ても、眼を喜ばせてくれる品だ。
これを大量生産するには、それはそれで苦労するだろう。
「靴職人の一点モノかしら」
「流石はお嬢様ですわ!お目が高い!その通り、どれも王都で人気の工房による一点モノですわ」
「それならきっと手製よね。こんなに細部まで凝っているのだもの」
「よくお分かりで!今回ご用意したお靴はどれも、靴職人の逸品、"魔導靴"ですのよ」
「魔導靴…?」
聞いたことのない単語だ。
"魔導"と名に付く物なのだから、"魔道具"の類だろうか。
「あら、そちらはご存知ありませんでしたか。魔導靴は、腕の優れた一部の職人しか製作出来ない、憧れのお品ですものね」
よく分からないが、高価そうだということだけは分かる…。
それをこんなにたくさん…?
開けた箱全てが靴だったのに、全て…???
私がそうしていると、カミラから声が掛かる。
「お嬢様、実際に歩かれてみては如何でしょう?」
私はカミラの言葉を受け、数十分ぶりに席を立った。
実際に歩いてみると、少々靴が大きい様だ。
若干ブカブカとした、フィットしきっていない感覚がある。
そうして靴を見やる私に、カミラは言葉を投げかける。
「お嬢様、歩かれてみてどう思われましたか」
「えっと…残念だけれど、少しサイズが合っていないようね」
素直にそう答えると、ローラが自信に満ちた顔で語り始める。
「そう!お靴のサイズは、非常に大切な要素ですわお嬢様。しかしそれを解決してくれるのが、魔導靴ですのよ!!」
「と、言うと…?」
「そちらのお靴で、1度床を踏み鳴らしてくださいませ!」
「こ、こう…?」
私は片足を持ち上げ、そのまま床を踏み付ける。
靴はカツンと、靴裏が打ち鳴らされる。
すると、どうだろう。
硬かった靴の内面がスルッと、その形を滑らせ始める。
インソールを始めとして、内部のクッション材が動いているのだ。
足の表面を這う様に、確かめる様に。
実際に履いていなければ分からないであろう、小さな動きを見せる。
そして丁度居心地が良くなった所で、その動きを止めた。
「これって…!」
知らない、こんなもの、見たことも聞いたこともない。
まるで魔法のような、そんな動きだった。
「魔導靴は、いわば生活魔道具の一種ですわ。靴職人の技量が問われるものなので、憧れのお品になっているのですが、貴族の方であれば一般的ですわね」
「わ、わぁ…!ちょっと、モコって、した気がします…!」
「魔導靴は織り込まれた術式によって、履いているお方に合う様になっています。内部のクッション材が、術式によりその形を変える仕組みなのです。成長の早い幼い子供には、少しばかり大きいサイズで買い与え、術式で微調整する事もままございます」
「これが"魔導靴"…素敵だわ!」
そうだ、この世界は『魔法ファンタジー』なんだ。
プレイヤーとしてこの世界を見ていた時は、靴の機能性まで考えたりなんてしなかった。
こんな身近な場所にも、魔法的要素があるんだ…!!
この世界のことは、設定資料で大抵知っているものだと思っていた。
しかしこんな些細なところにも、知らないことがあるなんて。
ー 私、本当にまどプリの世界に居るんだ!
知らない魔道の存在に、思わず胸が高鳴る。
物語に出てきた魔術の詠唱は、ほとんどを覚えている。
けれど、魔道具の類はほとんど知らない。
世界観も好きだった私にとって、これは嬉しい発見だ。
「とっても気に入ったわ、素敵ねこの靴!」
「でも…」
懸念点が、少しだけあったりした。
「ど、どうしたんですか?お嬢様…」
「いえ。とっても素敵なお品なのだけれど、これでは公の場には向かないかと思って…」
そう言いながら、私は靴の踵を持ち上げる。
メイド三人衆が買ってきてくれた、多くの魔導靴。
そのどれを見ても、1つ外見的な共通点があった。
それは、高いヒールの靴が一切無いこと。
どれもぺたんこ靴、と言っても過言ではない。
直近は茶会だが、パーティなんかに参加することになったら?
当然服装は洋装、ドレスになることは想像に易い。
ドレスに合わせるのであれば、多少はヒールの高さがある靴を合わせた方が良いだろう。
ぺたんこ靴では、少々違和感が出てしまいそうだ。
「だから、残念だけれど普段使いになるかなって…」
「ー 甘いですわ、お嬢様!」
声の方を見れば、ローラはさらに自信満々。
腕まで組んでいる。
「魔導靴の術式は、主に2つ備わっておりますのよ!」
「術式が、2つ…?」
「ええ。1つ目は先程の床を踏み鳴らす動作による、サイズの微調整」
「今度は踵だけを、2回鳴らしてみてくださいまし」
そう言って、彼女は笑う。
2つ目の術式…いったい今度はどんな風だろう。
この胸に、ワクワクが収まらなそうになる。
私は靴の踵を、2度打ち鳴らす。
…が、何も変化は感じられない。
どういうことだろう、今回は魔術が成立していないのだろうか…?
そう思いながら、足を地に下ろす。
すると少しばかり、踵の位置が高い場所で止まった。
確かに地を踏んでいる感覚はある。
どういうことか、私は靴を見る。
すると、ヒールが少しばかり、その背を伸ばしていた。
「これが…2つ目の魔術?」
ローラはフフンと鼻を鳴らしながら、口を開く。
「そうですわ!貴族のご婦人方にも重宝されるのは、この術式の存在が大きいのです!」
「踵のみを打ち鳴らす動作は、ヒールの高さを変える術式が組み込まれていますわ。ですのでパーティに出席した際に、足が疲れた場合や休憩の時間に、フラットなお靴に出来ますの。何足と持ち込む必要もありませんし、気に入ったお靴で、より楽に出席できるのですわ!」
凄い。まるで童話のお姫様の様だ。
声高らかに話すローラの言葉に、ジェシーも目を輝かせて聞き入っている。
「詳しいのね、ローラ」
「ええ。辺境貴族ですが、これでも子爵家の娘ですの。オシャレに憧れて王都に参りましたから、その辺りは詳しい自信がございますの」
「す、すごいです。ローラさん…」
「えっへん」
そう言って胸を張るローラは、この場の誰より楽しそうで、生き生きとしていた。
彼女に教わるオシャレは、きっと楽しいだろう。そう思った。
「ですのでお嬢様。お気に召したお靴がありましたら、そちらで社交の場に出れば良いのですわ!」
「お靴のご予定を伺えましたら、私共で丁度になる様にお手入れも致しますよ」
「お、お任せください…!」
この3人は、このクロートー公爵家の使用人。
成程。これは頼りになりそうだ。
買い物で選ぶ品も確か。知識もある。
これからの生活で、彼女達から多くを教わることになるだろう。
「よろしく頼むわね、3人共」
「「「はい」」」




