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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.1 お嬢様、異世界転生致しました。

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32/81

<第30話> お嬢様、不埒者が居たそうです。

『わかりました、カッカ』


そう、声がした。

そんな気がした。


私は布団を押し退け、跳ね起きる。

思いの丈を吐き出し、いつしか眠っていたようだった。


額に涙はない。

汗だけが、冷たく流れていく。

硬く握っていたのか、手は強張っている。


何を。何かを、見た…

 そんな気がする。しかし、不明瞭にしか思い出せない。


悪い夢、だろうか。

こんなになるなんて、一体どんな夢を…


そう思いながら、額に手を当てようとする。


と、視界の端で影が揺れた気がした。

それを追ってみれば、


「お、お目覚めですかお嬢様…」


そこに居たのは、ジェシーだった。




私はどうやら、昼寝をしてしまったようだった。

ジェシー達、メイド三人衆は、その間に帰ってきたらしい。

私が起きたのを確認したジェシーは、足早に残りの二人を呼びに行った。


夢について、思考を回そうとした私だったが、どうにも思い出せない。

聞こえた気がする言葉も、一体なんだったのか、分からない。


それに加えて、自室の変化に驚いてしまったというのもある。


起き上がって部屋を見渡してみれば、床に箱がいくつもあったのだ。

眠る前、そこには何も無かったはず。

小箱…というには、少々大きいくらい。

そんな箱が軽く10個は床にあり、普段より部屋が散らかって見えた。


何の箱だろう。

ジェシーが居たということは、買ってきた品々だろうか。

洋服なら入るだろうが、ドレスを入れるには小さい箱に思う。


私が箱に触れようとした時、パタパタと足音が聞こえてくる。

ジェシー達が戻ってきたのかもしれない。

彼女達に無断で開けるのも、あまり宜しくないか。

そう考えた私は、ベッドに腰掛け、メイド達が部屋に来るのを待つ。



コンコンコン、扉が鳴く。


「どうぞ、入って頂戴」


その言葉を受け、扉は開かれる。

そこからカミラを先頭に、続けてジェシーとローラが入ってきた。

彼女達は、まだ多くの荷物を抱えていた。

部屋に入ると、それらを思い思いの場所へと置く。


「お嬢様。急にお留守にしてしまい、申し訳ございませんでした」


カミラは荷物を整理したところで、そう言って頭を下げる。


「事情はセバスから聞いているから、そうせずとも構わないわ。特に問題も無かったもの」


「左様でしたか」


そう言い、カミラは頭を上げる。

何か言葉を続けようとした様子だったが、被さる様にローラが口を開く。


「お嬢様、きっとお似合いになる品々を見繕って参りましたのよ!」


そう言う彼女は、満面の笑みを浮かべている。

…そういえば初めての湯浴みでも、彼女は『お嬢様のお髪を〜』と言い、この中で誰より張り切っていた覚えがある。

この様子だと、洋服選びも大層楽しんだことだろう。


「ありがとう。貴女達が選んだものなら、さぞ素敵なものでしょうね」


だが、少しばかり気になることがある。


「あの、予算は不足なかったかしら」


…そう。被服の予算。

この部屋のクローゼットを初めて見た時、その中の衣服には違和感を感じた。

ロベリア様に似合うデザインのものが少ない上、()()()()()()()()質素なものが多いと思った。

そんなロベリア様に、余り有る様な被服費があるとは思えなかったのだ。

ましてや、軽く10個を超える箱の分など…


私がそう考え込みながら、返事を待っていると、カミラが穏やかな笑みを見せる。


「お嬢様がお気になされる様な事は、ございませんでしたよ」


「そう…」


「少しばかり、この婆がバトラー殿にお話ししただけにございます」


「…バトラー?」


意外な人物の名前に、驚く。

上司であるセバスではなく、さらにその上司のバトラーとは。

それにこの口振り…


「ええ。バトラー殿とは、お祖父様からご縁が続いているものでして」


「お、お祖父様ですか…!?」


「ええ、古馴染みでございます。執事見習いの頃から、仕事を共にしたものですよ」


バトラーはパッと見、三十路くらい。

この世界の人間は長寿であることを考えると、さらに年齢が高いかもしれない。

そんな彼のお祖父様の古馴染みだとは。

精々直接教えたことがあるとか、それが小さい頃から程度だと考えていた。

カミラはこのお屋敷、この公爵家の生き字引に近いかもしれない…。

バトラーを尻に敷けるのも、彼女くらいだろう。


「バトラー殿は物分かりが良い方ですからね、お茶会の件をお話ししたのですよ」


物分かりが良い…?

そんな風には感じなかったけれど…?


「お茶会に()()()()()ドレスコードも守らずに、参加するのは如何なものかと。ましてやお相手は王族でいらっしゃる。今後のことも踏まえ、一度しっかり揃えた方が良いと申し上げたまでですよ」


確かにその通りなのだが、一通り揃えるとなると、それなりの金額がかかるのでは…?

幼な子であれば、サイズもすぐに変わってしまう。

それを一々揃えるのは、苦労もすることだろう。

そうして話していると、またもやローラが割り込んでくる。


「お嬢様のお洋服は、お似合いになるものも少なく、普段着から少ないのですよ!おかしいと思い調べてみれば…とんだ不埒者がいたものです!!」


「えっと、不埒者…ですか?」


「そうですわ。私、許せませんもの!」


何のことだろう、服に関係しているのだろうかその話は。

何を指しているのか、言葉の意味がよく分からない。

しかしローラは、どうやらご立腹の様子。

プンスコと効果音が付きそうな、可愛らしいお怒り具合。

その様子に、隣のジェシーはタジタジだ。

戸惑う私を見かねてか、カミラは言葉を再開する。


「過去の帳簿を確認致しました所、どうやらお嬢様のお洋服の費用を横領した者がいた様なのです」


「横領、ですか?」


「はい。本来与えられていた費用に対し、質素なものを購入していた様です。そしてその差額を懐に入れていた、不埒者…という訳にございます」


「なるほど…」


元々ある程度の被服費は与えられていた訳か。

両親も、仮にも"公爵家の娘"に相応しい品を買い与える様にはしていたのだろう。。

しかし、それを第三者に任せきりにしていたが為に、その費用を一部着服された。

必要最低限は買い与えられていたから、大して気にもされなかったのだろう。

昼食の様子だと、そもそも私は両親の視界にも余り入っていなかった。

たとえ気付いていたとしても、見過ごしていた可能性まである。

ロベリア様にしても、まだ幼い。

横領に気付くことが出来なかったとして、不自然な話ではない。


「と、いうことで。過去の帳簿の確認が杜撰であり、お嬢様が被害を被っていたのだからと、バトラー殿に進言致しまして。今回はその件を鑑み、少々多めに費用を頂けましたのですよ」


「使用人のした事です。それを上の者が一切責任を取らないとは、出来ませんからね」


そう語り終えたカミラは、フワフワと笑う。


…これは、なかなかに遣り手だ。

見事に言いくるめ、正当に費用を出させたのだろう。

過去の補填も含め。

バトラーはちょっとプライドが高そうでもあったし、案外効いたのかもしれない。


「さすがはカミラ様でしたわ」


「フッフ。ご安心下さいませ、その使用人には既に処罰が下っております。お暇を出され、お屋敷におりません」


「それなら今後は問題無さそうね」


「勿論ですわ!このローラがキッカリ眼を見張らせますもの!!そしてその費用で、お嬢様をしっかり着飾り…ウフフ……」


楽しみが隠せていませんよ、ローラ。

言うのも野暮なので、口には出さないけれど。


「けれどおかげさまで、普段着からドレスまで私共で見繕えましたのよ。この機会を頂けたこと()()は感謝ですわね!償っては頂きますが!」


いやはや、隠す気もない様です。

悪い気はしないので構わないけれど。


「…ああ、こうしてはいられませんわね。ジェシー、早速見繕った品をお見せしましょう!!」


「は、はぃ…直ぐにっ!」


再び張り切るローラ。

ジェシーは、そんな彼女に振り回されている様子。

カミラも存外楽しそうだ。




この後の流れは何となく分かる…

自分だってそうする…


私を、ロベリア様を、

 "着せ替え人形"にするに決まってる!!!


…と、思ったのだが。

何だか少し、思っていたのと違ったらしい。

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