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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.1 お嬢様、異世界転生致しました。

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<第29.5話> 閑話休題、給仕です。紙切れを見つけたのですが。

初めまして、こんにちは。

私はこのクロートー公爵家の専属使用人です。

お仕事は給仕。それも、食卓専門です。

楽なようで大変な仕事でして、今日もどうなることかと思いましたよ。



私達は朝早くに起きて、まず朝食の準備をします。

今日もそうでした。

しかしながら、ご出席されたアベル様が、一向にお食事を召し上がらないのです。


他の使用人の顔を見て、我々一同緊張したものです。

ご主人様方のご健康を考えて、滞りなくお食事を提供するのが、我々の仕事です。

その上で、好き嫌いの類も考慮せねばなりません。

今朝のお食事は特に変わったものではなく、普段よくお出しするメニューでした。

ですがお嫌いなものがあり、ご立腹なのかと、肝が冷えました。

人間…特に幼子は食の好みがよく変わるものです、

今日はご気分ではない、とか。

我々の行いが癇に障った可能性もあります、本っっっ当に冷や汗ものでした。


しかし、そういった意味合いはなかったようで。

アベル様は姉君とご一緒でないとお食事なさらないと、泣いて仰いました。

これには皆様タジタジ。

普段は怖そうなご主人様、ダリア奥様も、どうしたものかと困り果てておられました。


「本を読んであげよう」と言えば、「姉君に読んでほしい」と。

「好きなものを買ってあげよう」と言えば、「姉君とお揃いの品がいい」と。

挙げ句の果てには「お父様お母様が困ってしまう」と言えば、「困ってしまえ」と。


あの時のご主人様方は、顔に青筋を立てておられ、大層ご立腹のご様子でした。

私共の肝は、さらに冷えてしまいました。


その末、呼び出されたのがバトラー様でございました。

この公爵家に代々仕え、その仕事の腕もご立派な方です。

今回の件も、見事その手腕で解決させるべく、姉君であるロベリアお嬢様をお連れしろとの命を受けておられました。

あの命を受けられる者は、他に居なかったでしょう。


それも当然。

お嬢様は大変気性が荒いと、使用人の間でも有名な話なのです。

中には、闇魔法で足元を攻撃された者も居たと言います。

怪我が無かったのは幸いだが、近付くべきでない。

まるで悪魔のような暴君だ。

 皆そのように申しておりました。



…しかし私は不幸にも、今回そんなお嬢様の給仕を任せられてしまったのです!!

なんたることでしょう!!!

くじ引きで決めたのですが、私はその結果に食い下がりました。

私のような若造に務まるのか!?と。

すると、「何事も経験だ」と皆綺麗に丸め込まれてしまいました。


そうして私は、初めてお嬢様にお会いする場で、給仕をすることになったのです。



しかし、いらっしゃったお嬢様は、噂と何やら違ったご様子で。

暴れるどころか、静かなご様子でいらっしゃったのです。

扉をキッカリ3回ノックし、部屋からの応答を待っておられました。

自ら開けることもなく、ご主人様方も返事をされないものですから、私共がご主人様を伺いつつ、その扉を開いて差し上げました。

6歳にも未だ満たないお子様です。

それも癇癪持ちの暴れん坊ともなれば、そのご様子がいささか不思議でございました。

…ご両親の前だからでしょうか?



私は不安ながらも、お嬢様担当の給仕を務めることに致しました。

食事の場ですから、我々は影に徹し、それでいて滞りなく食事を勧められるようにせねばなりません。


しかしながら、お嬢様。


え? 所作美しすぎません?


いやもう、本当に。

脱帽という言葉は、こういった時に使うのでしょう。

私も料理人のように帽子を被っていれば、それを脱ぎ去っていたかもしれません。

それほどまでに、美しい所作をなさっていたのです。


ランチとはいえ、料理が数品出る卓。

それ故に、カトラリーもディナーよりは少ないばかりの数が並んでおりました。

まずマナーとして、そのどれをどの順で使うか…という作法がございます。

しかし幼年でありながら、お嬢様はそれが完璧。

迷う様子もなく、ごく自然的な動きで、マナーとして正解のものを選び取っていたのです。

これが粗雑な幼児のすることでしょうか!?

思わず向かいの給仕を見れば、息を呑んでいることに気が付きました。

ええ、ええ。私も大概同じような反応はしておりました。


そしてです。

お嬢様はお食事の際、《《一切の音を立てずに》》召し上がられていたのです。

陶器や銀食器がぶつかり合う音。

その一切がありませんでした。

これはマナーの基本ではありますが、とても難しいことでございます。

かくいう私も、何度も音を立てては叱られ、これを食事の間、常になど無理に決まっていると思いさえしました。

それを食卓にも招かれない幼児が。

お、恐ろしい子…!!!



そんなわけで、私はしばらくお嬢様の所作に見惚れておりました。

弟君のアベル様はまだ年相応、ご主人様でも完璧とまでは言えません。

ダリア奥様が殆ど完璧と言えるでしょうが、教わってもいないであろう幼子が母に並ぶとは。

驚きもしますよ。ええ。


ああ、ここで私としたことが。

少々己の仕事を忘れておりました。


というのも、お嬢様が、空になったパンの皿を見つめていらっしゃいます。

パンが恋しいのでしょうか?

未だ幼いところもあるということでしょうか、しかしお可愛らしいことです。

ここは存分に食べて頂かねば。


そう思い、私は新たなパンをそっと置きました。

お嬢様はしばらく気が付かなかったご様子。

しかし気が付いた途端、キョロキョロとしていらっしゃいました。

そんなに嬉しいのでしょうか?

あっ、ダリア奥様が悲鳴を上げてしまわれた…これはどやされかねない…

 …?

あ、お嬢様はまた落ち着いた様子に戻られました。

奥様も気に掛けるのをやめたようです。

怒られずに済みそうでなによりです…。


おや、今度はお嬢様のお飲み物が減ってしまっていますね。

足して差し上げねば…


今度はお嬢様、飲み物が足されている事に気付くのがお早かったです。

それだけ喉が渇いていたのでしょうか?


…おや。

今度は向かいの給仕を見つめていらっしゃいます。

私共の存在を失念されていたのでしょうか?


そして私を振り返…



なんと、いうことでしょう。

私、思わず悲鳴を上げそうになりました。

そうならなかったことを褒めてください。


というのも、紫紺の髪を垂れ、真っ黒な瞳でこちらを見ていたのです。

そうです。

まるで伝承に聞く、災厄の悪魔のようでございました。


一瞬のことでしたが、私は心臓が止まる思いで。

はあ。ドキッと致しましたよ。恐ろしいという意味で。

おかげさまで、その後はその場に立っているだけで精一杯でございました。



それからしばらくして。

アベル様が「ご馳走様」とご挨拶されました。

ということは、です。


ふぅ、私のこのお役目も無事に終了し…


?????

お嬢様が、何かコソコソされている。


あれは…紙切れ…?

それを、食器の隙間に…


あ、(くだん)のイタズラですか?

これだからお嬢様は…

全く、私ってばツイてない…




「というのが、本日の昼食ですよ」


「へぇ、その紙切れは見てみたのかい?」


「それが、まだ… 一応ここにありますが」


「折角だし開けてみろよ、紙切れだし大丈夫だろ」


「ま、まぁそうですね」


「魔法でも仕込まれてたら、どうなるか知らないが。爆発でもする?」


「そんな!爆発オチなんてサイテーですよ!?」



しかし、紙切れは爆発も何もしませんでした。

そこにはただ静かに、文字が並んでいただけ。



『給仕の方へ

 今日は美味しい食事とお気遣いをありがとう

 機会がありましたら、料理人さんにも

 "美味しかったです" とお伝えくださると嬉しいです』



私、ポカーンとしてしまいました。

これが、悪魔のような暴君…?

なんだか、イメージと少し違いますね…。

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