表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/81

<第3話> お嬢様、推しに転生致します。

「あー、久しぶりにこんなに笑ったわ。まさかこんなことがあるなんてね」


ロベリアは、自身の額を拭いながら言う。


「こんなこと、ですか?」


「ええ、私の前でそんな冗談を言われたのも、ここに人が来たことも初めてよ」


「ここ?えっと…私の走馬灯ではないのですか?」


それを聞いた彼女は、より一層、おかしいと言うように笑う。


「走馬灯に私を見るなんて、本当に私が大好きみたいじゃない!あなたってば、お笑いの才能あるわよ」


腹を抱えてまたひとしきり笑うと、一呼吸置いて、彼女は語り始める。


「ここはね、きっと転生するのを待つ待合室みたいな…そんな感じよ。詳しいことは知らない。でも私が死んだ後は、気が付いたら、いつもここにいるの。だから私はそう考えてる。あなたが死んじゃったって言うなら、きっと魂か何かが迷い込んじゃったんでしょうね」


「転生を、待つ…?」


「そ。毎回すぐに5歳の頃に転生してを、繰り返してるわけじゃないの。遅かったり早かったりはあるけど、多少はここにいる時間があるってこと。長い時はゆっくり寝れちゃうくらい待つんだから」


その言葉にハッとする。

そういえば、ロベリアにはファンディスクがあった。

数え切れないほどプレイしたはずなのに、どうしてか内容はよく思い出せない。

でもあれは、ロベリア視点の物語で、彼女が5歳の頃から始まったはず。


「まさか、ゲームのプレイ回数分、転生を繰り返して…」


あまりに突飛な話だ。

しかし頭によぎった瞬間から、背中の冷や汗が止まない。

もしそんな恐ろしいことが、起こっていたとしたら…


「どうしたのよ、急に顔を真っ青にして」


「うわぁっ!?」


目の前に、いきなりロベリアが顔を出す。


「うわぁとは失礼ね、でも…」


先程までと違い、気付けば彼女の声のトーンは、最初の頃のように冷え切っていた。

無念そうに一呼吸置くと、短く言葉を紡いだ。


「もうお終いの時間よ」


そう言った彼女は、私ではない方向に向き直っていた。

そしてスッと指を差す。

その先を目で追うと、そこには空間が裂けたようにして、明るい光が差し込んできていた。


「あれはお迎え、あの中に入ると5歳の頃に戻るの。だから私は行かなきゃいけないわ」


「ロベリア様、行かないと言う選択肢は無いのでしょうか?その、お辛いのではと…」


ロベリアは溜息を吐く。


「私だって行かないで済むのならそうしたいわ。でもね、アレはあんまり待たせると、吸い込んででも私を連れて行こうとするのよ。あなたも居るんだし、行かないわけにいかないじゃない」


私には思うものがある、だから確認する。


「…あの中に入れば、5歳のロベリア様に転生するのは確かなんですよね?」


「だから、そう言ってるじゃない。だからここでお別れよ」


「そうですね、では私が行きましょう。お元気で、ロベリア様」


「ええ、さような…えっ?あなた今、何をするって…」


ロベリアは、今までで一番驚いた顔を向けてきた。

けれど今の私の心は、もう既に決まっていた。


「私が貴女に転生して、貴女の幸せな人生を掴んで見せます」


自信があるというわけじゃない。

それでも私は、彼女を幸せにしたかった。

この果てしなく長い負の連鎖から、彼女を救いたかったのだ。


「…それは冗談では済まないわよ」


「百も承知です。第一、ロベリア様の前で嘘なんて吐きませんよ」


私は光へ、歩を進める。

すると私の体を、腕を、ロベリアが掴む。


「馬鹿な真似はよしなさい、私はもう慣れているから問題ないわ。でも、あなたは…」


ロベリアはそう言い淀み、顔を背ける。

ああ、この人はなんて優しいのだろう。

少し前に出会ったばかりの私を、不幸にさせまいと、巻き込まないようにと、止めてくれているのだ。

そんな人だからこそ。


「私は貴女をお救いしたいのです、ロベリア様。どうかお許し下さい」


「そんな、私は幸せになんて」


「貴女も幸せになるべきだと思うんです。こんなお辛い目にあってばかりではなく。実は私も、これでも令嬢で…それなりにうまくやれると思いますよ」


掴んだ彼女の腕を、そっと優しく下ろす。

私を見上げる彼女の瞳は潤み、震えていた。

そして絞り出すように、彼女の口から言葉がこぼれる。


「私が、幸せになってもいいの…?」


「ええ、ですから…」


私が言葉の続きを紡ごうとした時だった、凄まじい風が吹き出したのだ。


「もう時間が…!?」


ロベリアのその言葉から、あの光が、彼女を吸い込もうとしているのだと理解した。

咄嗟に私は彼女へ腕を伸ばし、その華奢な体を抱きしめる。


「貴女を誰よりお慕いしています、ロベリア様」


そう耳元で告げる。

私は光を背にロベリアの肩を、突き飛ばした。


ロベリアは手を伸ばし、悲痛な声で叫ぶ。


「嫌っ、ひとりにしないで…!」




瞬く間に、光が空間を飲み込んだ。

彼女らの手が触れたか触れなかったか。

光に覆われた中では、それはもう誰にも分からない。


これより先にて、物語は本格始動。

Ep.1の開幕でございます。

宜しければ 評価や感想コメント、ブクマ等々、お寄せ下さいませ。

筆者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ