<第26.5話> 閑話休題、執事と家令が話す様です。
フツフツと、湯を沸かす音がする。
ここは使用人用の給湯室 兼 休憩室。
今そこにいるのは、
ハツラツな雰囲気の執事と厳格そうな印象の執事の二人。
「やれやれ、言動をもう少々何とか出来ないものですか。バトラー」
「そっちこそ、昔から口うるさいなセバスは」
「私共は由緒正しき御家の使用人なのですよ。使用人が粗雑では、御家の品位を問われかねません」
「わーってるよ。俺だって由緒正しい家柄なんだからさ」
「そちらは否定しませんが」
沸かされたお湯が、ピィと鳴く。
厳格な執事は席を立ち、その湯をティーポットに注ぎ、蓋をする。
「貴方の御家は、長らくクロートー公爵家にお仕えしてきた家系ですからね。家令が先代から貴方に代わり、何年経った事か」
「さあ?40年くらい経つんじゃね?」
「そんなに前になりましたか、時の流れは早いものですね」
「セバスが老いちまったもんで、そう思うんじゃねーの」
「いえ、バトラーから成長が見られないものですから。幼い頃の方が、可愛げがあってまだ幾分かマシでしたが」
「なんだと!?」
「ほら、貴方はそう短気なんです。40年も短気が直らないとは、驚いたものですよ」
「……チッ」
舌を打ちながら、ハツラツな執事は席を立つ。
ティーカップとポットを手に取り、ポットの中身を移していく。
1杯目は捨て、2杯目を2つ、休憩室唯一のテーブルに運ぶ。
「ほら。アンタの分の砂糖は自分で持ってこいよ」
「バトラーはミルクが入り用でしたね。両方共に、既に机にありますよ」
テーブルには、紅茶用の砂糖瓶とミルクが置かれていた。
「はー。先回り済みってわけか」
「フォッフォッ、貴方が紅茶を注いでいる間でしたよ」
厳格な執事は、柔らかく笑い。
ハツラツな執事は、苦虫を噛み潰した様な顔をする。
紅茶にトポトポと音を立て、砂糖とミルクが投げ入れられる。
徐々にその輪郭を失い、やがてカップの中に染み渡っていく。
「セバスよぉ、なんであんな悪魔に構うんだよ。もう点数稼ぎにもなんねーぜ?」
「点数等、気にしていませんとも」
「じゃあなんでまた、悪魔なんかに」
「悪魔ではありませんよ、バトラー」
「でも、アンタだって分かってんだろ。王国民なら、ガキでも分かる。アイツは言い伝えの"災厄の悪魔"とそりゃもう似てる。なんならご本人かってくらいにさ」
「…確かに、お姿はそうですね」
「旦那様と奥様だって、大層嫌ってらっしゃる。名前すら禁句扱いだ。不吉なんだよ。たかが6歳手前だっつのに、この俺相手に圧まで掛けてきやがって。小賢しい。気味まで悪ぃってもんだ。婆様はあんなんのせいで死んだのかよ」
「バトラー、貴方はお嬢様の事を知らないだけなのですよ。あの方は聡明で、非常にお優しくておられる」
「それも、悪魔が人間を誑かそうとしてるのかもしんねーだろ」
「だとしたら、もっと効果的な方法があったはずですよ。屋敷内を悪評で満たしておいて、誑かすなど」
「知らねえ。悪魔の考えなんか、知りたくもねーわ」
「…そう理解しようともせず、頭ごなしに悪魔だと言っても、それは再び"悪魔狩り"を招くだけですよ」
「ハッ。悪魔なんて狩られて当然だろ」
「皆がそう思ったから、貴方のお祖母様は、その渦中で亡くなったのでしょうに」
「婆様は、別に、悪魔じゃねーよ。髪は俺とおんなじ茶髪だ。ちょっとばっか闇属性魔法が使えたってだけで、冤罪だろ、あんなのはよ…」
「ロベリアお嬢様も、同じく冤罪かもしれないのですよ。にも関わらず、貴方は思考停止していて、それで良いのですか」
「…うるっせーよ。良いよ。構わねえさ。俺の主人は旦那様だ。旦那様はアイツに仕えろなんて、仰ってねえ。だから良いんだっつーの!」
「バトラー…貴方は…」
「俺は、旦那様に従うだけだ。それが仕事だ。奥様と坊ちゃんも、旦那様がそうしろっつたから。旦那様が大切にされてっからだ。アイツとは違う。俺は、それで良いんだよ」
「…」
「セバス、お前こそ自分の心配してろよ。アイツに関わってりゃ、そのクビ飛ばされても不思議じゃねえんだ」
「何を言うかと思えば、そんな事ですか。承知の上ですよ。それでも私は、あの方をこの屋敷の主人であると認めたまで」
「フン。じゃあ勝手にしろ。俺は手伝わねえけどな」
「おや、私が貴方に助けを乞うと?それにはまだ、頼り甲斐がありませんな」
「そうかよ。そいつは悪かったな」
ハツラツな執事は、ティーカップとポットを手に、立ち上がる。
厳格な執事もまた、砂糖瓶とミルクを片付けに立つ。
「そういやセバスこそ、この屋敷に仕えて何十年目なんだよ」
「はて…先代が辞める以前、52年程 教えて頂きましたね」
「90年は経つのか。そろそろ隠居すればどうなワケ?」
「いえいえ、まだ隠居には早いですよ」
「どんだけしぶとく働く気なんだっての、アンタってヤツは」
「そうですね。それではバトラーが一人前になってから、隠居を考えますよ。未だ安心出来ませんから、休もうにも休めません」
「チッ、すぐに隠居させてやっからな」
「それはそれは。余暇を楽しみに待っていますよ」
愉快そうに笑う、厳格な執事。
悔しそうに笑う、ハツラツな執事。
彼らはジャケットに袖を通し、身嗜みを整える。
そうして、休憩室は無人になった。




