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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.1 お嬢様、異世界転生致しました。

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23/81

<第23話> お嬢様、問題が山積みです。

鋏と糸といえば、連想されるのは”女神:ニマ”。

そしてザクロの花。

ザクロの花の名前を持つ神は、神々の女王として存在し、母性を司り、貴婦人の名を持っているという。

そんな紋章を扱えるのは、この王国内でたった一つの一族しか思い浮かばない。


"ニマ=ティオシス王家"


始祖の血を色濃く受け継いだ血統、女神の祝福を受ける者ともされる。

女神信仰の厚いこの地では、教皇聖下に次いで、尊ぶべき存在だとも言われている。

長きに渡る王国史の紡ぎ手であり、その歴史の中には、王族への反乱の類は一度も無い。


その優れた統治は、建国神話でもあるように、『無の土地』から国を発展させ、多大な功績をもたらした。

魔導に長け、枯れた土地を肥沃な土地へと変え。

数十人だった小国を、数十万人以上の大国へとのし上げ。

やがては、領土を大陸中へと拡大した。果ては海まで。

しかし領土拡大の際も、原住民との和解を重ね、戦をすることはなかったのだという。


そんな王家への忠誠心は、当然の如く厚い。

神殿が"女神:ニマの代弁者"であるならば、

王族は"女神:ニマの代行者"とも呼ばれる程に。

信仰の厚い国で、王族がそれだけの支持を得ているのは、異様とさえ言える。

だがそれだけの支持があるからこそ、女神を象徴した紋章を扱うことが出来るのだ。


そんな紋章入りの手紙が…ねぇ…




(そんなに大きな溜め息を吐く程のことかしら?)


頭上から、唐突に声が掛かる。


「あぁ、その声は…ルリ!!」


久しぶりの声、私の憧れの声に、つい咄嗟に歓喜の声を上げてしまう。


「そこに居たんですね。てっきりもう話せないものかと、寂しかったんですよ?」


(そんなことはないわよ。今のわたしは、ミヤビの契約精霊 "瑠璃蝶々(ロベリア)"だもの)


「そ、そういえばそんなこと、しましたね…最近静かだなって…あはは…」


(あのねぇ。普通精霊は、姿さえ見えない存在なのよ?それと話したいみたいな口振り…。契約精霊は目視出来る場合もあるけど、それでも精霊と話そうなんて奴は、大抵頭がお花畑の変わり者なんだから)


「お花畑…それって私のことでしょうか…」


(それにわたしは"精霊契約魔術(イポースチェシ)"なんて扱えないし。加えて精霊に嫌われる体質だっていうのに、急に「精霊と契約しました!」なんて、ほんっとうにおかしな話じゃない)


「えっ、無視ですか…?ん?おかしい???」


(ともかく、わたしは居るには居るけど、人前で話したりはしないってことよ)


「ああ、そういえばここ最近はずっと、周囲に人が居る時間ばかりでしたからね。流石は推し様です、ご配慮まで完璧とは恐れ入ります」


(おし…?ま、まぁ伝わってそうだから良いわ)


なんだか随分な言われ様だった気がするけれど…

日常的な態度として、周囲や私への配慮を、さも当然のことの様に行なっていただけで十分、ルリは5億点満点です。尊い。なので問題ない。

むしろちょっと減点されるのが、愛嬌まである。う〜ん素晴らしい。



今は深夜。ベッドの上。

メイド達も立ち去り、私とルリしかこの場には居ない。


「ねぇルリ、お茶会はどうしたらいいのかしら…」


(そんなことで…悩む程のことでもないでしょ、行けばいいだけよ)


「相手は王妃様と王子様二人なんですよ!?」


(わたし…いや、あなただって”公爵令嬢"なんだから、堂々としてなさいな。)


「でも」


(まぁ王族に呼ばれたら、行くしかないけどね)


「ですよね…」


私はまた、大きな溜め息を吐き、諦めることにする。

ルリの言う通りだ。

行く他ないのだし、招かれた側なのだから堂々としていればいい。


ただ私にその度胸があるのか、それは別問題で…。

やはりロベリア様は、度胸をお持ちで格好良い。そこに憧れるというもの。

憧れに届く様、最善を尽くす他ないか。



(ま、妙なことに巻き込まれた後だものね。あなたでも動揺ぐらいするのかしら。)


そうだ。妙なこと…茶会に招かれた以前に、あの花瓶の件があった。

あまりに怒濤の連続だったから、その発端の存在を失念していた。


「その、ルリはあの花瓶のことはご存知だったのでしょうか?」


私は、夜の闇の中でも淡く輝く、真白い花瓶を指し示しながら尋ねる。


(その()()花瓶?そんなのがあるなんて知らなかったわ。あの日は変な声まで上げてたものね、随分と珍しそうだけど)


「えっ、黒…ですか…?」


(そうよ?真っ黒じゃない。デザインとしても、珍しさがあるのかしら)


口振りから、嘘らしいとは感じない。

しかし()()とは、どういうことだ?

私の目には、白く見える。

何度見直しても、どう見ても、その色が変わることもない。


(妙な気配までするのよね。その花瓶)


「気配…ですか?」


(ええ、魔法的な…そんな気配がするわ)


魔法的な気配…

ロベリアの異能、〝魔力察知(マナ・サーチ)〟によるものだろうか。

彼女は魔力を五感で感知出来たはず。

確かに私も、あの花瓶の周囲に変なものを見たし、今も輝きを纏っている様に見える。

色は違う様だが、何かを感じるのは同じ。

しかし冷静に考えてみると… 花瓶から、無機物から、魔力が?


「ルリは以前、似たものを見たことはありましたか?魔力を纏う物品、みたいな…」


(少なくとも、生活家具の中では見たことないわね。魔道具でも、発動する時以外は魔力を感じないし。あるとしたら、秘宝級品(アーティファクト)くらいしか心当たりもないわよ。実際に目にしたことはないから、あれがそうなのかは分からないけど)


「そう、ですか…」


やはり、あの花瓶は()()()()だ。

一体なんだというのか…皆目見当も付かない。



(それよりも、あなたが使った魔法よ。妙なことしてたじゃない)


「魔法?」


(ええ、花瓶を見つけた時に使っていたアレよ。私はそれを知らないわ)


「ああ、あの時の」


花瓶に纏わり付くものを取ろうとした、花瓶を注視した時だったか。


「不思議なものでした。頭にスッと浮かんできたんですよ。それで気が付いたら、口から言葉が勝手に…」


そこまで口に出して、ハッとする。

"あの魔術(神聖魔術)"について、ルリは知っているのだろうか。

もし、知っていたら。


(聞いたことのない詠唱だったわ。精霊契約魔術の時と同じで、私は知らないけど、あなたなら知ってて使ったのかと思ったのよ)


「ルリが聞いたことがない…。あまり一般的なものではない、ということでしょうか」


(まぁわたしの認識ではそうね。一般的でないものも、それなりに勉強したんだから。それでも知らなかったものだから、驚いたのよ)


(言葉の意味はまるで分からなかったけれど、詠唱の後、魔術として確かに発動していた。だから、なんらかの魔術的詠唱なことだけは確かね)



ゲームの作中でも、ロベリア様は魔導的知識について、博識だった覚えがある。

そんな彼女が知らない。そう言っている。

特殊な詠唱であったことは明らかだ。


ちなみに私も、ゲームで登場した詠唱の殆どは記憶している。

故に精霊契約魔術も詠唱が出来た。

そして彼女と同様、あの時の詠唱文には覚えがない。

まどプリのヒロイン、エレナの詠唱にも、近しいものすらなかった。

強いて言うなら、詠唱に「ニマ」の言葉が含まれた、海外の言語の様だったことが気に掛かる程度。

そして現れたのが、裁ち鋏だった事も気掛かりだ。


あの刹那の間の眩い輝きと、女神の代名詞の一つである裁ち鋏の顕現。

…憶測の域は出ないものの、やはりあれは、"神聖魔術"だったのではないだろうか。

基本的にその魔導系統は、聖女を除いてしまえば、神殿外には伝わらないものだったはず。

詠唱文も例に漏れない。

それがどうして頭に浮かんだのか、という点は原因不明だが。



(あれ、とっても闇属性ぽかったのよね。少し違うんじゃないかって印象はあったけど)


「……へ?」


自分の想定の外の言葉、意外な言葉に、思わず口から素っ頓狂な音が出てしまう。


「闇属性魔術、ですか?」


(何よ、変?)


「いえ、変と言いますか、意外なご意見だなと思いまして…」


(そう?だって魔術発動の瞬間、一瞬だったけど、部屋が真っ暗くて何も見えなくなるくらい…そんな真っ黒いオーラが出てたじゃない)


??????????

真っ黒???

私には眩い輝きに見えたのだけれど…どういうこと?


「その、こういう言い方は失礼ですが…ルリはちゃんと見ていたのですよね?」


(本当に失礼ね!ちゃんと見てたわ!!)


彼女はほとんど金切り声の様な声を上げた。

そしてコホンと息を吐く。


(でもそうね、闇属性って紫色に近い色で見えるのよ。あんな真っ黒じゃないわ。だから妙な魔術を扱うものだって思ったわけ)


「なるほど、その様に見え、感じたと。」


(ミヤビは違うの?)


「その、どちらかというと、白い光の様なものは感じましたけど」


(あなたこそ、何言ってるの?そんなもの見えなかったわよ)


「う〜ん???」


私とルリは、同様に魔力(マナ)に起因する事象に対する、異能があるようだ。

普通であれば、見えないものを見て、聞こえないものを聞いている。

しかし、見えている色が、まるで違う。


「一体どういうことなんでしょう…?」


(わたしには、ミヤビにも見えていた方が驚きだけどね。まぁ私の体だもの、同じ異能くらいは持つのかしら)


「異能…ですかぁ…」


思っていたより、どうやらこの世界は複雑そうだ。

考えても考えても、一向に答えが出ないことがその例だと言える。


ともかく、ルリはあの魔術を神聖魔術だとは、1ミリも考えている様子はない。

さらに言えば、彼女が()()()()()()()()()()だなんて、考えている様子は全く無いと言える。

不快な思いをさせるかもしれない、というか私は絶望的に感じたその予想を、わざわざ伝える必要は…

 少なくとも今は無いだろう。


私の思い違いである可能性も出てきたのだ。

悪役令嬢ロベリアは悪魔堕ちするという、ゲーム内での運命もあるし、その素養的な術の可能性だってある。

『闇属性でもなさそう』という言葉が、属性魔術ではない可能性は示唆している。

属性に関わらない、何かしらの術。この正体は何か?

彼女の言葉から推測するのであれば、他の属性であれば、そうと分かっていそうだし…



(何やら考え込んでいる様だけれど、ミヤビ?)


「はい?どうしたんですか、ルリ」


(その調子だと、考えている間に日が昇るわよ)


「…ち、ちなみに今は何時くらいで」


(もう日付は跨いだわ)


私の言葉が終わらぬうちに、食い気味に時間を告げられる。

なんだろう。早く寝ろという圧を感じる。


(分からないことに何時までも悩んでいたって、仕方がないじゃない。早く寝ないと朝が辛くなるだけよ)


「はい…寝ます…」


私はしおしおと、小さな声で決意表明をする。

もう少し考えたかった、例えば王子対策についても考えておきたかった。

しかし、ここまで言われて寝ないというわけにもいかない。

推しに逆らえないのは、推す者の性質なのだ…。



「おやすみなさい、ルリ」


(ええ、おやすみ)


「あ、そうでした」


(…まだ寝ないで続けるつもり?)


「いえ、そうではなくって…」


「もしルリさえ良ければなのですが、きっとまた、こうして私とお話しして下さいませんか」


(そういえばミヤビは、初めて会った時から変わり者だったわ)


(……はぁ。全く、仕方ないわね。あなたが一人きりの時だけよ。だから今日はもう寝なさい)


「はい!!」


嬉しい返事に、つい胸が高鳴る。

どうしよう。嬉しくて眠れないかもしれな…




(ちなみに。あなたが寝なかったら、もう口を聞いてあげないからね)


「え”っ”」


私は一刻も早く、眠りにつかなければならなかった。

早く。数秒も惜しいくらいに。

考え事は二の次だ。

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