<第22話> お嬢様、知らせを受け取ります。
「え…皆様どうしてお揃いに…?」
未だ眠気まなこのローラは、自分の目の周辺を軽く擦る。
そしてその視線の先に、目を覚ました私がいた。
「お嬢様!?もう、お目覚めならお声をかけてくだされば宜しかったのに!!」
そう素っ頓狂な声を上げて、跳ね起きる。
それを見て、また皆思い思いに笑い声を上げる。
「み、皆様も起こしてくださらなかったんですか!?」
それを聞いたカミラは、すかさず喝を入れる。
「あら、ローラ?私とジェシーは貴女にお嬢様のお側を任せて、外の仕事をしていたはずですよ。何故貴女がお嬢様のお目覚めに気付くのが、この中で一番遅かったのでしょうね?」
「そ、それは…お布団が暖かかったものですから…」
「冷たいお布団があるものですか!」
そのやり取りで、また笑う。
もう皆、元気を取り戻したようだ。
ローラには少し悪いとは思うものの、あの騒音の中起きなかったものだから、ついどうしたら起きるのかと注目を集めさせてしまった。
今度のティータイムでは、彼女の好きなお菓子を分けてあげることにしよう。
そう心の中で、ひっそりと決めておく。
「皆様ごめんなさいね、私が倒れたせいで苦労をかけたでしょう?」
そう言葉を投げると、真っ先にカミラが反応する。
「いえいえ、とんでもございません!私の不注意でお怪我をさせてしまい、大変申し訳なく…」
「あれは事故よ、仕方がないわ。それに倒れた私の面倒を見てくれていたのは、貴女たちでしょう?感謝こそすれ、責めることなんてないわ」
「このカミラ、お嬢様の寛大なお心に感謝致します」
「ローラとジェシーも、面倒かけてごめんなさいね。ありがとう」
「も、もったいなきお言葉です…」
「とんでもございませんわ、お目覚めになられてなによりですもの」
これでメイド三人衆にお礼は言えたわけだが、そういえばどうして…
「ところでアベル、貴方はどうしてガードナーに抱っこされていたの?」
「えーっと、それはね。おねーさまに、おみまいのお花をえらびたくて、ガードナーのところに行ったんだ。そうしたらカミラさんと、お仕事のお話し中だったから、じゅんばんまちでそこにいたの!」
「そこにジェシーが来たから、一緒に来たってことね」
「うん、そーだよ!ジェシーさんったら、すっごく早く走って来たんだから!!」
「そ、そんなことありません!」
アベルに名前を挙げられたジェシーは、即座に否定しようとする。
「キャー!!」と叫んで走っていったことは、みんな知らないようだ。
ジェシーにはお世話になっただろうし、そこは私の中での秘密にしておこう。
「ガードナーもありがとう、アベルを抱っこしてくるのも大変だったでしょう?」
「いンや、まだまだ坊ちゃまは仕事道具に比べりゃ軽々ですだよ」
そんな中で、カミラが私に言葉を投げかけてくる。
「お嬢様の方はご容体はいかがでしょうか?お医者様のお話では、特に異常はなく、すぐに目覚めるだろうと仰っていらしたのですが、それから1週間眠っておられましたもので…」
うーん、体を動かすのはまだキツそうだ。
メイドの三人にはそのことで面倒をかけるだろうし、先に行っておいた方が良さそうだ。
「正直なところ、まだ体がうまく動かないの。1週間も眠っていたのだから、体が怠けてしまったのだと思うわ」
「おねーさまのお体、なまけもの?」
「そうよ、たった1週間で…困ってしまうわ」
敢えて大袈裟に、冗談混じりに言っておいた。
カミラの方に目線をやれば、縦に小さく首を振ってくれた。
良かった、少なくともカミラは察してくれたようだ。
そうしていると、ドンドンドンと壁が叩かれる。
ずいぶん乱暴なノック。
誰か来たのかと扉に目を向けて見れば、なんと扉は開け放たれたままだった。
「コホン、皆様御喜びになるのは分かりますが、次からは扉は閉めて下さいますよう…」
そう言って姿を現したのは、セバスだった。
「なんでも他の使用人から、お客人がたが廊下を走って行かれたとお聞きしましたので、このセバスめも言伝と共にご挨拶に参りました」
そう前置きをしながら部屋に入り、しっかり扉を閉めてから、いつも通りの礼をしてみせる。
「ロベリアお嬢様、寛解とは行かぬようですが、まずはお目覚めになられて安心致しました。どうか今はご無理のないよう、ご自愛頂けますと幸いでございます」
「セバスまで来てくれるなんて思わなかったわ、お言葉は有り難く胸に刻んでおきます。流石はお屋敷の異変を見逃さない、一流の執事でいらっしゃるわ」
「フォッフォッ、お嬢様は人を煽てるのがお上手ですな」
「あら失礼ね、本心を伝えただけよ?」
「それはそれは、ご無礼を…このセバス、どうやらお嬢様にはしてやられてばかりですな」
そう言い、また柔らかく笑う。
しかしセバスの言葉は、そこでお終いではなかった。
「お嬢様、ご容体が優れぬ中大変申し訳ございませんが、至急こちらのご確認だけ頂いてよろしいでしょうか?」
セバスは先程までと打って変わり、厳格な声でそう言う。
するとどこから取り出したのか、銀のトレーの上に乗った封筒を見せる。
それはどこの家門から分かるように、ご丁寧に封蝋が表に向くように差し出された。
裁ち鋏に紬糸、ザクロの花の紋章。
これは…
「王族からのお手紙ね?」
「左様でございます。近日中に王妃殿下と奥様で茶会を開催する為、お子であるロベリアお嬢様にもご同席願いたい、との言伝を預かって参りました」
セバスはその表情を、少しばかり曇らせる。
「お嬢様はお体が回復した後のご参加かと思います。ですが王子殿下ご両名も参加されるとの事でしたので、お話があった時点でお伝えした方が宜しいのではないかと思い、こうして参った次第でございます」
「…そう、ありがとう。助かったわセバス」
まだ体が回復していないのは幸か、不幸か…
ローレンスはともかくとして、ノワゼットも同席する。
ロベリアとしては初対面ではないが、私ことミヤビとしては初対面だ。
あの暗闇の中でロベリア様から頂いたお言葉が、まだ小さな胸に響く。
転生して初めての茶会、さてどうするべきか…。




