<第蜊∝屁話> 螟「縺ッ、漆黒。
ーどこだろう、ここは。
薄暗い、石畳の広間の中。
何かいるのに、何もいない。出てこない。
ー誰だろう、私は。
真っ黒い服、背中が重たい。
長くて、紫に反射する黒い髪。
ずっと、ずっと、ずっと、ひとりなの。
何回も、何度も、何でも、ひとりなの。
何分?何時間?何日?何週間?何ヶ月?何年?
もっと過ぎたかも?
わからない。
終わらせるのは、いつもアナタたち。
大切なものを、何度でも壊しにくるんだ。
大切に隠していたものも、奪いにくるんだ。
わたしはなにもしてないのに。
わたしが、アナタたちからなにを奪ったっていうのだろう。
ほら、今回も来たね。
エレナ、あなたになれたらよかった。
お友達になれたら楽しかったかもしれない。
ローレンス、どうしていつも苦しそうなの。
なんでかは分からないけれど、あなたの涙は見たくないの。
ノワゼット、いつだって話を聞いてくれなかったね。
知ってるよ、私の気持ちはあなたにとって不快なんだろうってことくらい。
ベンジャミン、今は何を目指しているの。
お兄様、それとも恋を追いかけているのかな、どちらも素敵。
ライラック、友達として信用してたよ。
案外性格の相性は悪くなかったよね、もっとバカな話をしたかった。
アベル、あの姉を慕ってはいけないんだよ。
あなたが不幸になるのは姉のせい、あなたまで不幸にならないで。
ああ。ノワゼット。
いつもあなたが、私を殺そうとする。
でも、それは。
私を庇った**が。また。死んでしまって。
どうして、**まで殺してしまうの。
私は悪魔でも、この子は関係ないのにさ。
それならもういっそ、世界ごと、壊してしまえば。
いつもそう思ってしまうの。
でもね、エレナがそうさせてはくれないのよ。
そう。いつも私を殺すのは、エレナ。あなた。
あのね、でも、死んだ後ってね、石畳が硬くないの。
倒れ込んだのにね。柔らかいの。
それと、死ぬ前だけは、この石畳は暖かいのよ。
でもね、私が死ぬ直前、ここは雨漏りするの。
水色の天井から、ぼたぼた。って。
私はそれを、もう止める力もないの。
誰も分からなくて、色くらいしか見えなくなって、最後に残るのは
【漆黒】
ー刹那、飛び起きる。
背中は水だらけで、体が寒い。
布団は、ある。
嗚呼、大丈夫。
ここは…ベッド。そう、自室の中のベッドよ。
私は転生者で、ロベリア。
大丈夫、あれは悪い夢…。
今日は良いことがたくさんあったから、悪い夢を見ただけ。
でもどうして、胸が苦しい。
頭が痛い。頬が暖かくて、水っぽい感触がある。
私は、本当に、夢を見ただけ?
ベッドの縁に手を付き、部屋に立つ。
自分の体を見渡して、異変がないことを確認する。
手をグー、パーと握って開いてを繰り返す。
感覚も確かにある、何もおかしいことはない。
それにしても、喉が渇いた。
確かテーブルに、水を置いたんだった。
私はテーブルの方へ視線を動かす。
真っ暗い、月の光も満足に届かない部屋の中。
そんな中で、テーブルの上に光り輝くものがあった。
それは、アベルが育て、ローレンスから渡された、青いニマ・ローゼ。
花瓶に挿されたその一輪は、光原も無いのに、ハッキリと姿形が見える。
いや、きっとこの花自体が光を放っているのだろう。
だってテーブルには、薔薇の青い光が反射していたから。
ニマ・ローゼが持つ、意味。
『渡した人と受け取った人との縁が繋がりますように』
そんな願いが込められる花だと、アベルは言っていた。
きっとこれは、縁結びの花だ。
国の名を冠している、育てることも難しいもの。
和訳は『糸の花』辺りになるのだろう。
それならば、『人と人とを繋ぐ』という意味にも納得できるものがある。
意訳すれば、小指の赤い糸を結ぶようなものではないだろうか。
ふと何気なく、手に取ってみる。
茎には荊こそある。
だけれど、よく見てみれば、葉も緑色に煌めいている。
この青薔薇は、どこまでも鮮やかだ。
〝魔力〟という多くの愛を受けて、立派な花を咲かせるまでになった。
なんと美しい花だろうか。
どうしてアベルは、この青薔薇をローレンスに渡させたんだろうか。
どうしてローレンスは、この青薔薇を渡してくれたのだろうか。
その場のノリ?流れ?
いや、それは違うと思う。
二人と過ごした時間はいうほど長くない私だけれど、それだけは分かる。
きっと誠実な人間だ。
では、どんな意味だろう。
この先、仲良く…?
この、私と?
悪魔のような女と?
アハハ、そんなのお笑い種じゃないか。
あんなに良い子達が、私と?
…悪い冗談でしょ。
そんなのナシ、だって私は悪役なんだから。
身分相応に生きていくの。
幸せになるなんてそんなこと…今更恐ろしいんだから。
あれ、ワタシ… 何処の誰だっけ。




