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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.1 お嬢様、異世界転生致しました。

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<第11話> お嬢様、第一王子殿下にご挨拶申し上げます。

私の前に現れたのは、煌めくような金髪に、鮮烈な赤い瞳ではない。

周囲の緑を反射して、淡く輝く銀髪に、ベビーブルーの瞳だった。


しかし私は、彼が誰であるかを知っていた。




「ご機嫌麗しゅう、ローレンス・リュウール・ニマ=ティオシス 第一王子殿下。王国の紡ぎて足るご慧眼に映ること、光栄の限りでございます」


私は、スカートの裾を摘み、膝を交差させ、礼をする。



ーそう、彼はこの王国の第一王子。ローレンス王子殿下だった。


長男でありながら、弟が生まれてすぐに継承権を下げられた不遇の王子。

王族でありながら、魔法の資質が低いとされる、淡い瞳を持って生まれた少年。

そして私たち姉弟の、幼馴染みの一人。



正直意外な相手だったと言わざるを得ない。

まさか『お茶会のおにーさん』が『兄王子』だったとは。

ロベリア様、ノワゼット王子の2歳歳上。

つまりアベルからすれば、王子は二人とも歳上になる。

しかしローレンス王子が、私的にこの屋敷を訪ねる理由が見当たらず、可能性から除外していたのだ。

ノワゼット王子であれば、婚約関係を結ぶために足を運ぶかもしれない。

だが彼は、ローレンス王子には、わざわざ私を訪ねてくる理由とは…?


しかし、礼をする前に王族の方から声をかけられてしまうとは。

つい彼のフルートに聞き入っていたとはいえ、不敬には当たらないだろうか…。



頭を下げたまま、思考を巡らせた。

そんな私に、これまたイントネーションが踊った素っ頓狂な声がかけられる。


「ろ、ろっロベリア嬢!今日はお日柄も良く…じゃない!あっと、えっとその、あっ、あ、頭を上げてよ!!」


そう言われ、私は素直に頭を上げ、礼の姿勢を崩す。

ローレンスに向き直るが、彼は顔を林檎のように真っ赤にしていた。

フルートを大切に抱えながらも、こちらから逃げようとせんばかりの姿勢だった。


彼はやがて、視線を野に落として、言葉を絞り出す。


「そ、そのっ…その挨拶は、い、要らないから。うん!えっと、あの、ろ、ロベリア嬢なら分かると思う…けど…僕、には要らないっ…から…」


真っ赤な顔に、少し陰りが映った瞬間を、私の目は捉えていた。

その理由も、今は自分の胸さえ痛むほどに、分かるものだった。


「…ではローレンス様、とお呼びしますね」


そう言って微笑むと、彼はまたさらに顔を真っ赤に染め上げた。


「う、うん…ありがとう、ろっ、ろロベリア嬢」


また声をひっくり返す彼に、私はクスッと笑いながら、冗談を言ってみせる。


「あら?私の名前はロベリアと申しますの。殿下の中での私は『ロロベリア』というお名前だったのでしょうか」


「あ!いや、ロ…ベリア嬢です、誓って間違えて覚えてなどいません!」


突然声を張り上げながら、彼はそう言う。

その姿は姿勢をピシッと正しているものの、その視線は私からだいぶ離れているように見える。


「それにしてもローレンス様、私驚きました。まさかフルートの演奏がお上手だっただなんて…演奏が難しい楽器ではございませんか」


私がそう言うと、アベルが不思議そうに口を挟んでくる。


「おねーさま、あれはリコーダーだよ?」


それを聞いていたローレンスは、驚きの表情を、アベルではなく私に向けてきた。


「お、驚いたのは僕だよ、ロベリ、ア嬢…!」


「確かにこれの元の楽器はり、リコーダーだよ。けど、その、最近になって、えっと形とかが変わって…これはフルートって名前の、横笛として、進歩した楽器になった、んだ…難しいってこと、も、知ってる人はそんなに、いなくって…」


「まだ、新しいものなのに、ロベ…リア嬢は、聡明なんだ、なって…」


彼はオドオドした様子もあるが、それよりも自分の楽器について知っていたことに驚いているようだ。

どうやらまだこの世界では、新しい楽器だったようだ。

よく見てみれば、少し違う場所があるような、ないような…

少なくとも、私が使っていたような滑らかな装丁ではなく、表面に荒い凹凸が見受けられる。

…気になる、この時代のフルートが。もっと聴きたい。


「あの、ローレンス様…」


「ひゃいっ!?」


彼は飛び跳ねながら、大袈裟な返事をする。


「もし宜しければ、演奏をお聞かせ願えませんでしょうか?先程は私のせいで、途中で演奏を止められてしまったようでしたので…」


そう言うと、彼はそっぽを向きながら、もじもじと答える。


「その、えっと、貴女に聞かせられる…ようなもの、では…」


なんとも締まりのない返事に、つい私は本音を溢してしまう。


「まぁ!私がご挨拶が遅れたのは、ローレンス様の演奏が美しいものだったからですのに!!」


…しまった、礼を怠ったことを王族のせいにしてしまうなんて。

背筋に汗が伝う。

そんな私に気付くことなく、彼は恥ずかしそうに、小さな声で言う。


「で、では…貴女がそう、言うのであれば…少しだけ……」


そう言って彼は、スゥッと息を吸い込み、表情を変える。


先程までの、熟れ切った果実の様な顔色ではない。

姿勢を正し、視線は遠い先を見据え、凛とした顔になった。


へぇ、そんな顔もできるのか。

そう思ってしまうほど、ローレンスの表情はガラリと変わった。


ローレンスは、大きく息を吸い、その息をフルートへ丁寧に吹き込んでいく。

嗚呼、やはりこの楽器は良い音色を奏でる。

胸に沁みるような、それでいてストンと飲み込めるような、爽やかで透き通った音色。

これには演奏者の技量も当然必要だろう、彼はきっと、かなりの練習を重ねてきたのだ。

…おそらく、一人で。



ローレンス第一王子は、私と共通点がある。

それは『容姿で区別をつけられた』ということ。

私の場合はほとんど差別と言っても過言ではないが、彼はそうでなく、王族として『区別』された。


この国の貴族は、女神が創った人間、始祖の血が濃い。

高位貴族であればあるほど、王族も含めてその傾向が顕著。

それは始祖の持つ、高い〝魔力(マナ)〟の保有量や、魔法適性を保つためだ。



この世界の常識として、まず『魔法』は誰もが使えるものではない。

高い魔力保有量という、先天的な素質が必須なのだ。

それに対して『魔術』は、魔力を微量でも保有していれば、術式を正しく組み上げることにより、誰もが使えるものだ。

王国民は皆等しく、どんなに薄くとも始祖の血筋ではあるため、魔術は平等に扱えると言える。


王侯貴族は自領地を始め、国を守らなければならない。

その際、魔道士達の技量が問われる場面が多々ある。

脅威を葬る際…例えば魔物と戦闘になった際など。

『魔術』では〝祝詞詠唱(ティポス・スペル)〟が必要となり、基本的に発動に時間がかかる。

しかし『魔法』は、〝略式詠唱(アティポス・スペル)〟か、〝無詠唱(モノ・スペル)〟で扱える、短時間発動が可能なものだ、

『魔法』は十分な素質さえあれば、ほとんどノーコストで奇跡が起こせるため、その素養は重視される傾向にある。

かと言って『魔術』が軽視されているということはないが、とりあえず今回の件には関係ない。



その『魔法』の適性の判断基準は何か?


一つ、それは神殿による適性検査。

この王国では10歳になると、慣習として貴族平民問わずに神殿から適性検査を受ける。

その結果次第で将来の道を決める、誰にとっても重要なものだ。

ローレンスは2歳年上だが、それでもまだ8歳程度。

王族も等しく10歳になってからの計測のため、これで区別されることはない。



そして二つ、それは瞳の色だ。

この世界の魔力には、四大基本属性として、火・水・風・土が存在する。

魔法適性を持つと言われるほとんどの人は、この四大属性のうち、どれかの適性を持っているのだ。

より才能がある人は、2つ以上の属性の適性を持つこともあるのだとか。


さらに稀有な属性として、光・闇属性も存在する。

ゲームで登場したキャラでも、それぞれ適性持ちが1人ずつしか登場しなかった珍しい属性。

光属性はヒロインのエレナ、闇属性はロベリア様だった。


王国民は皆、素養のある素質の瞳の色を持つ。

四大基本属性であれば、赤・青・緑・黄色、光属性は金、闇属性は紫といった具合。

全ての素養が平等に低い者は、灰色の瞳で、これは庶民に多い。

そして始祖は全てが使えたとされ、その瞳は虹色に輝いていたそうだ。

さらにその瞳の色の濃淡は、魔力保有量までもを現している。

王国民は出生した時点で、そうしてある程度の魔法適性が見て取れるというわけだ。



ここまで思い返せば分かる。

彼の瞳の色は『ベビーブルー』、青としては薄い色だ。

特に血統・魔法適性を重視する王族からすれば、淡い瞳の少年は、王族としての価値が薄かった。

故に彼は、第一王子でありながら、生まれたばかりの弟に王位継承権で劣ってしまったのだ。


適性がないわけではない、しかし弟の才には勝てなかった。

弟のノワゼット第二王子は、爛々と輝く赤い瞳。

資質の差は、誰から見ても歴然だったのだ。


ローレンス第一王子、彼もまたロベリアと同じように、『瞳』で推し量られた人間。

茶会でも王妃殿下は、ノワゼットを気にすることはあっても、ローレンスを気にすることはほとんどなかった。

強いて言えば、ロベリアの母が彼女に向ける目線に似たものがあった程度。

王宮内で彼は、私ほどではないにしても、期待も興味も向かない孤独な存在だっただろう。

王族への挨拶の口上を拒んだのも、自分に王族としての自信がなかったからではないかと思う。

我が家にお連れもなしで来ることが出来るのも、彼への関心のなさが現れているようで、なんとも言えない気持ちになる。


ついでに言えば、まどプリ本編では登場こそするものの、攻略対象ではない。

タイトルの『王子様』はノワゼットのみを示唆しているようで、攻略ルート無し・登場シーンも少ない。

魔法ファンタジーな世界の中で、その才能がない者は必要なかったのかもしれない。

その一方で魔導学院での彼は、生徒会長として信頼されている立場だった。

穏やかで優しく、それでいて自他を律する厳しさも持った、人望に満ちた人だった。

だがその人気は高く、最終的にDLCから攻略対象に加わった覚えがある。

DLCはまどプリ本編の続編的位置にあり、本編では攻略対象に含まれなかったことは変わらなかったのだが。

かなり特殊なルートを踏まなければならなくて、とても苦労して、

 …あれ。 どんな内容だったか。



寂しげに響くフルートの音色を聴きながら、私は一つの違和感に思い当たる。

それは『幼少期のローレンス』と『魔導学院のローレンス』の人物像が一致しないこと。

ゲーム本編の魔導学院の彼は17〜18歳、今からちょうど10年後くらいになるはずだ。

人間は時間で変化する生き物。

それでも、今目の前にいるローレンスが、未来像に一致する姿が見えてこない。

私が知らない、何かしらのキッカケでもあるのだろうか。

…ロベリアが悪魔堕ちしたキッカケがあるのと、同様に。

それが悲しいものでなければいいなと、そう願うことくらいしか、今の私にはできないけれど。



…フルートの音色が止まる。

今度は唐突な終わりを迎えることもなく、緩やかに終わりを迎えた。

私は素直に、称賛の拍手を贈った。

アベルも私を真似て、その小さな手をぱちぱちと叩く。

それを受け取った彼は、照れくさそうに頭に手を添えた。


「そんな、大したことじゃ、ないですよ…」


「いいえ、素敵な演奏でしたわ」


「うんうん!ローレンスさまカッコよかったよ!」


私に続き、アベルは今度は称賛の言葉を述べる。

ローレンスはどうにも照れるようで、頬が引き攣ったような笑みになってしまっている。

これが本当にあの生徒会長なのか…不器用すぎるのではないだろうか…?



そうしていると、いままで大人しく座っていたアベルが、勢いよく立ち上がる。


「そうだ!おねーさまに見せたいおにわがあったんだ!!すぐそこなんだよ、ローレンスさまも来る?」


「「えっ?」」


あまりの唐突な提案に、私とローレンスのヘンテコなハーモニーが生まれてしまった。

二人とも顔はアベルの方を向いているものの、お互いどんな表情なのかはなんとなく分かる。

しかしそれらの発端となったアベル当人は、笑顔を浮かべたまま、不思議そうに首をコテンと傾げるだけだった。




いやいや…我が愛しい弟よ…


いくら幼馴染みでも、それはナシでしょう!?



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