表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深夜街  作者: ふあ
7/8

7

 脱兎のごとくシオは駆け出し、その背を追って人狩りも走り出した。人間のにおいでバレたらしい。全速力でシオは街を駆け抜ける。化け物たちの合間を縫い、角を曲がり坂を下り階段を駆け上がり、がむしゃらに走る。

 見知った道に、知らない路地ができていた。暗く見通しの悪いそこに飛び込み、誰かにぶつかった。

「ガロ!」

 黒いコートに、嗅ぎ慣れた獣のにおい。目の前にいるのはガロだった。

「その、刀……」

 薄闇の中で、ガロは刀を抜いていた。目を凝らすと、こちらに足を向けて誰かが倒れている。制服の青色に、赤い血がべっとりとついている。

 ちっと舌打ちが聞こえたかと思うと、シオは宙に浮いていた。否、ガロに片腕で抱えられ、路地裏を走っていた。後方には、自分を追いかける人狩りが、もうそこまで来ている。

 正面には塀が立ちはだかっている。しかしガロは地面を蹴った。右手の壁を蹴り、左手の壁を蹴り、軽々と塀を飛び越えた。そして着地すると、再び走り出す。ようやく足を止めて下ろされても、シオは少しの間目が回って立てなかった。

 それでも地面に膝をつき、周囲を見渡す。街の知らない場所だ。住民の気配はなく、随分と暗い。灯り虫が数匹宙を舞い、ガロとシオの表情を闇の中に浮かべる。木々が茂り、足元の草の先がちくちくと身体を刺す。

「においでバレたんだな」

 木の足元にしゃがんだままガロが呻くように言い、シオはこくりと頷いた。

「そこまであいつらが嗅ぎつけるとは思わなかったな」

「こんなに離れたら、もう追ってこないかな」

「いや」シオの希望をガロは一蹴する。「やつは人間のにおいだけでなく、おまえそのもののにおいを覚えたんだ。地獄の底まで追ってくるぞ」

 そんな。シオは息を呑む。

「じゃあ、どこに逃げても捕まるってこと……?」

「そうだな」

 無意識のうちに、シオは両手で顔を覆っていた。本物の化け物になりたいとこれほどまでに願ったことはない。捕まれば一体どうなるんだろう。やつらの仲間にされてしまうんだろうか。

「ガロは、どうして、あそこにいたの」

 シオが囁くと、ガロは少しだけ黙って、血の付いた刃をコートで拭った。

「……俺は、やつらに用があるんだ」

「用って?」

 それには答えず、ガロは続ける。

「短気なやつでな。俺を敵だと認識しやがったから、殺したんだ。だからおまえだけじゃねえ、あいつらにとって、俺も敵ってわけだ」

「ねえ、ガロ。ぼくを食べて」

 顔から手を離し、シオはガロを見つめる。

「馬鹿言ってんじゃねえ」

「人狩りに捕まって連れていかれるぐらいなら、ここでガロに食べられたい。これで終わりにしたい」

 遠くから足音が聞こえてくる。シオは両手を伸ばし、ガロのコートを掴んだ。ガロに終わらせてもらえるなら、本望だった。

 だが、ガロはそっとシオの手に自分の手を乗せ、コートから引きはがした。

「シオ、おまえにこんな終わりは似合わねえよ」

 鋭い爪をもつ大きな手を、軽くシオの頭に乗せる。

「俺たちは、出会わなけりゃよかったんだろうな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ