エースの矜持 その9
――翌日、
朝からトンテン、カンテン、ベイルさんが秘密基地のDIYに勤しんでいる。
「ってか、サファイヤちゃん、この『蔵』ってスキル、めっちゃ便利だなー」と秘密基地の使われてない一角に板と途端で簡単な仕切り部屋を作ってくれたベイルさん。
「ですよねー、いちいち、商品持ってもらって『グランド デポ』詠唱する必要なくなっちゃったんですもの」と私。
「ああ、作業している途中で材料忘れたりすると最悪なんだよ。いちいちサファイヤちゃんにお願いしなきゃならないし」
「『蔵』があるのなら、ある程度、余分に商品買っててもストックできますし……あっ、ピザ温まりましたよー」と、昨日食べ切れなかったピザを温め直して朝食の用意する私。
せっかくの休みだというのにベイルさんは朝早くからDIYしたいと秘密基地に来てくれたのだ。そうなると、私も行かない訳にはいかないじゃないですか。まあ、『蔵』の内容も確認しておきたかったし……
「そういや、今日は他の皆さんどうしたんですか?」
「えーっと、ナジームは役所に行ってなんか書類の申請、んで、エルウッドとノエルはなんか用事があるんだってさー」
「なーんだ、ナジームさんはともかく、エルウッドさんもノエルさんもしっかり休日を満喫してるんですねー」
「まあ、いいじゃねーか、サファイヤちゃん、こっちはこっちで今日はのんびり昨日買ったお菓子でもつまみながら作業すれば」とピザを食べながらもトンテン・カンテンまた別の作業をするベイルさん。
「そういや、ベイルさん、『蔵』の扉に鍵つけます?」
「んっ、何で鍵を?別に誰が入ったっていいじゃねーか」
「いや、私達5人なら誰が入ってもいいですけれど、もし万が一どろぼうさんがなんかが入ったりしたら不用心じゃないですか」
「ああー、そうか、『蔵』に置いてあるアイテムだったら誰でも持ち出せるんだもんなー」そういいながら、ベイルさんはベルトに付けた腰袋から圧着ペンチを取り出した。うん、なかなか堂に入っているぞベイルさん。もうどっから見ても立派な職人さんだ。
「はい、それで、申し訳ないんですけれど、そのカギの取り付けもベイルさんお願いできますか?」
「ああ、もちろんいいぞ、南京錠みたいなやつか?それともドアノブにつけるか?」
「うーん、おまかせします」と私。
「じゃあ、ちょっと後でまた、『グランド デポ』一緒に行くか?」
「はい、ついでにサバンナコーヒーでケーキでも食べましょう。私、昨日行った時に、新発売の『ストロベリーチョコムース』がちょっと気になってたんですよ」
「ああ、あのポスターにデカデカと載ってた奴な、あれ、美味しそうだったなー」と無条件で同意してくれたベイルさん。
実は最近、ベイルさんと『グランド デポ』行くと、一緒にケーキ屋さん巡りをするのがお約束になっているのだ。
ベイルさん、こう見えて実は甘党なんで……
「よーっし、じゃあ、ちょっと、気合を入れて10時のお茶休憩まで頑張りますかー」と気合が入るベイルさん。
「じゃあ、わたし、秘密基地のお掃除しておきますねー」
そんな感じで、私達は、意外と有意義に3連休の1日目を過ごすのでした。
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――同時刻、リョージュ近郊にある、王立防衛軍 第八方面 駐屯地
『コン、コン、コン……』
レオン・エルウッドは静かにドアをノックした。
扉のプレートには『王立防衛軍 第八方面 監査室 調査班 別室』と書かれてある。
「どなたですか?」
ドアの向こうから聞きなれた男の声が聞こえた。
レオンが返事をする。
「定期連絡にやってまいりました。レオン・エルウッド少尉です」
「……どうぞ」
レオンは扉を開き中に入る……と、そこにはナジームともう一人、年配の男性がいた。
ちょっと驚いた顔をするレオン。
だがレオンはその年配の男性と視線を合わすこと無く椅子に座ると、デスク上に溜まっていた書類を淡々と整理し始めた。
年配の男は蔑んだような目でレオンを見続けている。
すると……「レオン、おはよう」とナジームが声を掛けた。
「おはよう」レオンは必要最小限の挨拶を交わす。
そして、「奥で局長が待ってますよ」とナジームは声を潜めて言った。
「……分かった」
レオンはそう言うと書類をまとめて席を立つ。
と、その時、「ふん、落ちぶれたものだな、『北壁の狼』と恐れられた男が、今ではお嬢ちゃんの子守とはな」
年配の男性がレオンを嘲るように言った。
……チッ、レオンの舌打ちが聞こえる。そして……「その年になって参謀本部から追い出されたあなたよりは大分マシですよ。大佐」とレオンは初めてその男と視線を合わせた。
ガタンッ!!
大佐と呼ばれた男が勢い良く立ち上がる。
「やめてください、大佐。わざわざケンカしにここまで来た訳じゃないでしょ!」とナジームが……そして、「レオンもさっさと局長に挨拶言って来い」と……
――三十分後、レオンが局長室から戻ってくると、既にナジームの姿はなく、大佐と呼ばれる男だけがそこに座っていた。
「ずいぶんと遅かったな」と大佐。
「……まだいたのか。こんなところまで何しに来た。また殴られたいのか」
レオンはそう言うと、血走った目で大佐をギロリと睨んだ。
大佐は目を瞑って首を振り、両の掌を上にあげると、もうこれ以上争うつもりは無いというポーズをする。
おそらくレオンがいない間にナジームから何か言い含められたのだろう。
そして、「一つ頼みがある」と大佐は言った。
「……なんだ?」
レオンは警戒心を解くことなく大佐に返事をする。
すると……「母さんが寂しがっている。たまには顔を見せに行ってくれ」……と。
重苦しい沈黙が部屋の中を支配する。
レオンは目を瞑り、そして……大きく深呼吸をしてから答えた。
「わかった、冬が来る前に、一度帰る」
そうとだけ言い残すと、レオン・エルウッド少尉は足早にその部屋から出ていった。
作者より、
ここでのBGMはドラマ『BORDER』の主題歌、『越境』でお願いします。
www.youtube.com/watch?v=Q1Br8Px1lCs




