表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/67

エースの矜持 その6

 大氷柱までの距離はおおよそ80m、スノードラゴンの高さは15m程。頭の先から尻尾までだと30mはゆうにありそう……これが子供だぁ!?


 冗談も休み休み言え、バカッ!!


「もう、ナジームさん、何かあったらすぐに『エスケープ』唱えてくださいね!!」私は念には念を押してこのパーティー唯一の良心とも言えるナジームさんにお願いする。


「大丈夫ですよ。サファイヤさん。このレベルならエルウッドは何度も戦ってますから」と防御魔法を展開するナジームさん。


「そうそう、俺もその時は一緒に戦ったしね」と一人だけちゃっかり岩場の影に隠れてスノードラゴンにコンパウンドボーで標準を合わせているノエルさん。


「まあ、いざとなったら俺が守ってあげっから、心配すんなって」と私の前で盾を構えてくれているベイルさん。


「えーっと、私もノエルさんの横に移動してもいいですか?」とエルウッドさんに聞いてみる。


「ふざけんな、オメーは俺がなんかあった時にリアルタイムで回復魔法唱えるためにそばにいなきゃなんねーんだよ」とエルウッドさん。〇ね!


「あの、エリクサー置いときますんで、ピンチになったらそれ勝手に飲んでもらう訳には行きませんかね?」と折衷案を出す私。


「ふざけんな、エリクサーなんか使っちまったら、スノードラゴン倒したとしても獲得するマニーが行って来いになっちまうだろうが!!」


「えーっ、エリクサーってそんなにお高いんでしたっけ?でも、経験値が入るから別によくありませんか?」


「いいから、お前はそこに居ろ!」と最前列のエルウッドさんの真後ろにベイルさんと一緒に立たされる私。ほんとちゃんとガードしてくださいね。ベイルさん。


 すると「ガッハッハ、まかしとけサファイヤちゃん」と何も言わずに察してくれました。よっぽど悲壮感に満ちた顔をしていたのでしょう。


「じゃあ、行くぞ!!」


「えっ、もう?ちょっと待って、ポケットにエリクサーしまっとくから……」と、アイテムボックスからエリクサーを出したと同時に「ファイヤ!!」と大氷柱に向かってエルウッドさんが魔法を唱えた。


 直後、大氷柱のど真ん中にポッと赤い点が見えたと思った瞬間、ビキビキビキビキーと氷が割れ始めた。


 あーあーあーあー、もう絶対に起きちゃったじゃん、アレ。


 すると、大氷柱の崩落と共に雪煙が激しく舞うフロア14。それと共に耳を劈くようなスノードラゴンの雄叫びが聞こえた。


 あーあーダメだこりゃ。すいません、ナジームさん、エスケープの準備もう、いいですか?


 距離80mを置いて、災害級一等モンスターのスノードラゴンと対峙することになった私達。ああ、ちゃんと遺書をしたためておけばよかった……


 ってまあ、こんなところで書いたとしても誰も読んじゃくれないかなんて、冷静に自分の行く末を思案していたら……


「来るぞ、サファイヤちゃん」とベイルさん。


 せっかく気持ちよく眠っていたところを無理やりたたき起こされて、スノードラゴンさんは大変ご立腹の様子です。


 なんでわかるかって?


 だって、体全身真っ青な色してるのに、お目目だけ血走ったかのように真っ赤なんですもの。


 直後、「ひゅうううぅぅぅう」とスノードラゴンはあたりの空気を肺一杯に吸い込むと、「ゴオォォォォォォオオ!!」と冷気を吐き出したのだ。


 うん、これ知ってる、たしかマイナス273度の絶対零度の奴でしょ。『絶望の息吹き』とかなんとかいう奴。


「あっ、死んだ」と思った直後、目の前に真っ赤な壁が現れた。


 んっ、どした?


 ベイルさんの盾に守られながら恐る恐る覗き見ると、エルウッドさんが『ファイヤーウォール(炎の壁)』を展開させて、アイスドラゴンの『絶望の息吹き』を防いでる。


 こりゃまた、器用なことをするもんだ。へー、ファイヤーウォールって氷系の攻撃に対してはバリヤーになるんだ。死んだかと思った。サファイヤびっくし。


 すると、「オイッ!サファイヤ、聖水!」とエルウッドさん。


「……はい?」


「だから、さっさと聖水かけろ!!」とファイヤーウォールを展開させながらエルウッドさん。


「えっ、なんて?」


「お前ぶっ飛ばすぞ、だからさっさと魔女の聖水を掛けろってんだよ!!」と切羽詰まった感じのエルウッドさん。


「この期に及んで『お聖水かけて』とか、何言ってんですか?ヘンタイ!!」あーおどろいた、サファイヤどん引き。


「いや、そうじゃなくて、エーテル水の事ですよ、サファイヤさん」とこっちも切羽詰まった感じでナジームさん。


 二人とも両手を使って魔法を掛けているために手が離せないみたいだ。


 なんだ、エーテル水の事か、『お聖水』だなんて何言ってんのかと思っちゃったわ。


 私はエルウッドさんのリクエストに応えるためにアイテムボックスの中から『エーテル水』を取り出す。


「おいっ、なにチンタラしてんだよ、さっさと掛けないとMP無くなって、俺たちみんな氷漬けだぞ!!」と若干テンパりながらのさん。


 ようやくなんとなくだが、今の状況を理解できた私。


 どうやら、『絶望の息吹き』を防ぐために『ファイヤーウォール』を展開し続けてエルウッドさんのMPがどんどん無くなって底を突きそうなんだね。うーん、納得ー♪


 って、お前、そう言う事は、戦う前にちゃんと打合せしとけよな!!


 私は泡を食いながらもなんとか商品名が『魔女の聖水』と書かれたエーテル水をぶっかける。


 すると、「すいません、サファイヤさん、私にも」とナジームさんも。


 はいはいはいはい、ちょっと待って、ちょっと待って。


 この『魔女の聖水』とかいうエーテル水。なかなかキャップが固くてすぐに開けられない。あーもう!!私はエーテル水のキャップを歯で噛んでガキッと回す。


「はい、ナジームさん」そう言って、ナジームさんにも盛大にかけてあげる。


 直後、「サファイヤ、ハイラー特盛で!!」とエルウッドさん。


 見ると、体の表面が既に凍って来てるじゃないですか、どこが楽勝なの!?


「はい、ハイラー!!」


「こっちも、サファイヤさん」とナジームさんも!!


「はい、ハイラー!!」


「聖水」


「あいよ」


「聖水下さい」


「はいよ」


「こっちはハイラー」


「あい」


「聖水とハイラー」


「あい」


 そんなことを10分ほど続けていたら、『絶望の息吹き』がようやく治まり始めた。


 はへー、スノードラゴンって肺活量多っ!!(これ肺活量って言うの?)


「よーっし、そろそろ止まるぞー」とエルウッドさん。


「あいよー」とこの間ずーっと岩陰に隠れていたノエルさん。


「念のため聖水とハイラーもてんこ盛りで」とエルウッドさん。


「こっちもお願いします」とナジームさん。


 そして、遂にスノードラゴンの『絶望の息吹き』が止まった。はー、やれやれ。


 すると、「今だ、ノエル!!」とエルウッドさん。


 その声と同時にノエルさんの放った矢がスノードラゴンの右目を射貫いた。立て続けに左目も!!


「行くぞ!!前進」その声と共に、パーティーのみんなはスノードラゴンに向かって走って行く。


 いってらっしゃーい。私は心の中でハンカチを振る……と、


「テメーも来るんだよ、サファイヤ!!」とエルウッドさんに襟首を掴まれながらスノードラゴンの目の前まで連れて越されられた。


「えええー聞いてないよー」


「うるせー!!」


 すると、両眼を射貫かれ苦しんでいるスノードラゴンとの距離が20m程に近づいたところで、エルウッドさんが指パッチンを繰り返す。


 その度に、両足、両腕、両翼の順に動かなくなると今度はそこにベイルさんがチェーンソーを振り上げ突っ込んで行った。


 うわー、ちょっと、こういうの苦手だわ。


 ノエルさんもコンパウンドボーを雨霰、ナジームさんもチップソーを雨霰。


 エルウッドさんがフィンガースナップをするたびにスノードラゴンの動きが止まっていく。


 うん、これはあんまり想像したくないんだけれど、おそらく関節や筋を内部から焼き切っているのだろう。イタタタタタタ。


 そしてついに、四肢も翼もピクリとも動かなくなりスノードラゴンは仰向けに倒れた。口も開きっぱなしで舌もだらんと虫の息。


 どうやら、顎関節もファイヤーシードで焼き切ったみたいだ。エグイって……


 そしてエルウッドさんは注意深くスノードラゴンの顔の前まで近づいていくと、呼吸もそぞろになったスノードラゴンの額に手を当て、『ファイラ』と中級火炎魔法を詠唱した。


 直後、ビクンッを体を激しく痙攣させると、その後スノードラゴンはピクリとも動かなくなった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ