エースの覚醒 その8
結局有意義な話し合いはできないままにだらだらと時間だけが過ぎていく。
「なーんか、いい方法ないですかねー」
皆さんが真昼間から酒盛りを始めたので、私はその代りと言っては何ですが、点心を注文してウーロン茶を飲みながら優雅な午後のひと時を過ごすことにした。
揚げたてのゴマ団子をハフハフしながら食べる。
「あっ、うまそー、僕にも一つちょーだい」とノエルさん。「はい、どうぞー」
「結局は物理攻撃は無理だから……魔法攻撃……ですか?」とエルウッドさんをちらりと見ながら私。
「いうても、コイツ、火炎魔法しか使えねーぞ。さっき見たろサファイヤちゃんも」とベイルさん。
「そもそも何で、エルウッドさん黒魔法使いなのに火炎系しか唱えられないんですか?普通、雷系とか氷系とか唱えられたりしないんですか?」と私。
すると、「失敬なこと言うな、俺だって雷系くらい唱えられるぞ」とエルウッドさん。
えっ、嘘、見たこと無いんですけど。
「雷系使えるんなら、湖の中にいる魚に向かって、ドーン!!って落として一網打尽じゃないですか?」と私。魔法の勉強をちゃんとしてなくても、水系のモンスターが雷系の魔法に弱い事くらいは知ってますよ。エッヘン。
「この時期は使えないけど」とボソリとエルウッドさん。
「えっ、何て!?」
「この時期は使えないんだよ!!」と改めてエルウッドさん。
「そんな時期によって使えるとか使えない魔法なんてあるんですか!?」と私。
もっとも、ノエルさんもベイルさんもナジームさんもそのことを既に知っているのか、追加で注文した小籠包に夢中です。あっ、ちょっと待ってくださいよ。私の分もとっといて!
「そもそも、黒魔法使いなら炎系以外の魔法の修行もちゃんとしたらいいんじゃないですか?」
「あっ、無理」とエルウッドさん。
「何でですかー!!」と聞いたら、「じゃあ、お前は修行したら『ファイヤ』を出せるようになるのかよ」と。
「それって屁理屈じゃないですかー。私白魔法使いですよ!!」
「だったら、俺は火炎系の黒魔法使いだ」と。
「なんかこの人変なこと言ってるんですけどー」と私はナジームさんに助っ人を頼む。
すると、ナジームさんはフゥーとため息を一つついてから、「エルウッド、あなたもちゃんと説明してあげなさいよ」と。
「やだよ。めんどくせーなー」と最後に一つ残った小籠包をパクリと食べた。ああ、それ、私の!!
すると、しょうがねーなーと言った感じで、「なぁ、サファイヤ。黒魔法に限らずだが、魔法を使う際に最も大切なことは何だと思う?」とエルウッドさん。
「正確な呪文?」
「ちがう」
「十分な魔力」
「ちがう」
「たゆまぬ努力」
「ちがう」
「やる気と根気」
「ちがう」
あーもー分かんねーなー。いーや、もう、適当で。
「センスと才能!」
「ピンポーン!」
「うそっ!」
エルウッドさんは正解した私に蒸籠の中にあったもも饅頭を一つくれた。
「あっ、どうも。……って、それって身も蓋もなくないですか!?」
すると……「だって、そうじゃん。お前、修行したらサンダー出せんのかよ?」ともも饅頭をもふもふ食べながらエルウッドさん。
「だーかーらー、私は白魔法使いだから……」
「一緒だよ」
「はい?」
「だから、黒魔法使いも、雷系の魔法の才能がなかったら出せねえんだよ」とエルウッドさん。
「才能って……」
そこで、ナジームさんが割って入る。
「まあ、才能と言いますか、マナの種ですよね?」
「種!?!?」
「はい、サファイヤさんは体の中に『ヒーラー』の種があるから『ヒーラー』出せるんですよね」
「……まあ、そういうことですね」
「エルウッドも、火炎系魔法のマナの種を持ってるから、それを増幅して『ファイヤー』や『ファイラ』そして『ファイヤーストーム』なんかを出せるんですよ」
「ほほーう」
「つまり俺は、最初から雷系や凍結系のマナの種が無いからいくら練習しても出せないって訳!!」と自らの弱点をひけらかすのが嫌なのか、語気を強めて投げやりに言うエルウッドさん。あれれー、それって逆切れですか?
「あっ、でも、さっき、季節によって雷系の呪文が出せるって」
「ああー、雷系はな、冬になると出せる」と胸を張ってエルウッドさん。
冬に雷!?またなんで!?
私が困った顔して首を傾げていると、「静電気」とエルウッドさん。
「はい?」さらに訳が分かんなくなる私。
「あーもー、鈍いなー。静電気だよ、静電気。冬になると「バチ」ッてなるだろ。あれ増幅させてサンダー出すんだよ!!」とエルウッドさん。
「えっ、雷系のマナの元って静電気なんですか」と目をぱちくりさせる私。
「まあ、マナの元というよりも、エルウッドは特別なんですよ」
「この人が?」と疑いの目でエルウッドさんを指さす私。
「はい、ふつう、静電気をいくら増幅させたって『サンダー』までなんか到底昇華できません」
「ですよねー。せいぜい指先がパチッてなるくらい」
「「「うんうんうん」」」と会話に置いてけぼりのみなさん。
「でも、俺様はできるんだよなー」と自画自賛のエルウッドさん。また器用なことを。
「ってことは、アレだ、エルウッドさんって器用貧乏なんですね」とニッコリ。
「はぁー!!誰が器用貧乏だってー!!火炎魔法に関しては俺様の右に出るものはいねーんだからな!!今のところ!!」
今の所ってあんた……
「まあ、僕が言うのもアレなんだけれど、センスはあるんだ、こいつは」とノエルさん。
「ホントですかー?」と私。
「うん、だって、氷を口の中入れてたら氷の魔法を出せれるし、以前、マムシにかまれたときはその直後だけポイズン系の魔法を出せたからねーコイツ」とノエルさん。
……また、面妖な。
「つまり、センスのある魔法使いってのは体内にあるマナをいかに効率的に増幅する術を知ってるってことなのですね」とナジームさん。
そう言われると、ちょっと心当たりが……
「だいたい、オメーだって、『ハイラー』だせなくって苦労してただろうがよ。センスある白魔法使いなら『ヒーラー』覚えたらすぐ『ハイラー』出せるようになるんだよ」と痛いところを突いて来るエルウッドさん。
「じゃっ、じゃあ、エルウッドさんはどうだったんですか?『ファイヤ』打てたらすぐに『ファイラ』打てたっていうんですか!?」
「ったりめーだろ、俺を誰だと思ってんだ。火炎魔法免許皆伝のレオン・エルウッド様だぞ!『ファイヤ』打てるようになったその日に『ファイラ』が打てるようになってたわ」
ぐぬぬぬぬぬぬ、ヤブヘビだったか。ってか、エルウッド様とか言われても知らないし!!
「だったら、そこまで言うんなら、そのお得意の火炎魔法で地底湖の水沸騰させちゃえばいいんですよ。そんでもって、水の中にいるモンスター全部茹でちゃえ」と投げやりに私は言った。
「アホか!あんな大量の水を沸騰させるなんて、特級黒魔導士だってできやしねーよ。それに、そもそもあの量の水が沸騰したら、俺たちみんなこんな風に蒸し焼きになっちまうだろうがよ!」と追加でやって来た小籠包の蒸籠を箸で指すエルウッドさん。
……うーん、確かに、そりゃ、そうだ。じゃあ、早速いただきますね。私は追加で注文した出来立ての小籠包を頂くことにする……あつ、あち、うま、ハフ。
「んで、どうするんですか?」
追加の小籠包を食べ終えた私はひと段落。ウーロン茶を飲みながらエルウッドさんに尋ねてみる。
「うーん、一番現実的なのは」
「現実的なのは?」
「雷系とか氷系とかの魔法が得意なパーティーが来るのを待って、湖のモンスターをやっつけてくれるのを待つ」とエルウッドさんはドヤ顔で言った。
「ショボ!!……ってか、ダサっ!!」
「じゃあ、他にいい案あんのかよー!?」と杏仁豆腐を食べながらエルウッドさん。
私は残りの3人の顔を見るが、みな首を横に振り「ムリムリムリ」と言っている。
「うーん……」と腕を組んで思案していると……あ、いいこと、考えたー。
そしてエルウッドさんに向かってニッコリとほほ笑みかけて言った。
「私、この後ちょっと、『グランド デポ』に行って来ますね」と。
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