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超短編集〜雫のかたち2〜

作者: 今河

音の物語



 旋律とは程遠い不協和音が、さざ波をつくり、世界の調和を保っている。


 海の向こうにおいてきた恋人を想いながら、男はオルガンを弾き続ける。


 彼女のためならば、忌み嫌われるこの孤独も男にとっては悦びだった。


 今、この瞬間も、孤島の教会に響いている。


 誰かを守るためだけの狂った奏が。


 ………………………………………


紅の物語



 深紅が、じわりと唇に滲んだ。


 「何か意味深」


 女がキャンバスを覗き込む。

 試しに、和紙を張ったせいで、口紅がより強調されてしまった。


 「別に、深い意味はないさ」


 視線を筆先に向けたまま、淡々と答える。


 「ふーん、勘違いしちゃうところだった」


 彼女は悪戯に、艶やかな唇を尖らせた。


 ………………………………………


雫の物語



 ぽとりと、細い枝から落ちる。


 黄や緑、青に輝く美しい雫が、風の調べや樹々のざわめきを聞きながら。


 すべての音を取り込んで、ただまっすぐに、ぽとりと落ちる。


 雫は草をつたって、大河のせせらぎの一つとなった。


 流れに身を委ねるうちに、すっかり溶け込んでしまい、やがて跡形もなくなった。


 ………………………………………


星の物語



 今日が人生最後の日。


 この部屋で過ごす最後、すなわち「私」が終わる日だ。


 田舎から届いたミカンを片手に、ベランダから夜空を見上げる。


 明日の今頃は、手錠をかけられ、取り調べなんかうけているのだろうか。


 こんなはずじゃなかった。


 自分で自分が情けなくなる。


 いけない。


 星の瞬きが目に沁みる。


 ………………………………………


毒の物語



 だらりと力なく下がった指先から、ぽたぽたと血が滴る。


 狂っているのは、世間か、それとも己か。


 もう考えるのも煩わしい。


 ゆっくりと瞼を閉じる。


 しばらく経つと、男は椅子から崩れ落ち、やがて屋敷から一切の音が消えた。


 傍らには調合した毒薬の瓶が、光を反射して、ただただ美しく転がっている。

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