2-1もう一つの魔王討伐ご一行様も・・・
ナギたちが首都を出たその次の日から、二日間に分けて救世主と共に旅に出る者を選ぶ審査会がはじまった。さすがに、かなりの猛者たちが集まっていたのだがその中でも、群を抜いて際立ったものたちがいた。
一人は屈強な剣士で、十人がかりで攻撃されてもそれを全く苦にせず攻撃してきたものたちを逆に倒していた。
一人は見事な魔法を使っていた。その人は多種多様な魔法を持ってして他の参加者を自信の近くに近寄ることさえさせなかった。
また別の一人は戦いで傷ついた人たちを魔法を使い驚くべき早さで治していた。そしてその人は人体構造にも詳しく、魔法を使うまでもない人には見事な処置を施しており、高位の治癒術士であることが窺えた。
そして一人の剣士は小柄な体を活かし、縦横無尽に駆け回り剣士とは対極的に早さで持って他を翻弄していた。
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その四人が選ばれたのはある意味当然の流れだった。
今、彼らのいる場所は謁見の間と言われる場所。皇宮の最奥にあるところ。
「今日そちたちを呼んだのは他でもない、先日行われた審査会のことだ」
そう言って四人の前にいるのは玉座に座っている現皇帝。周りには重臣達がずらりと控えている中、彼らはいた。片方の膝を床に着け、礼をしている。右のほうから順に、屈強な戦士、魔法使い、治癒術士、小柄な剣士の順だ。彼らはその言葉をきき、垂れていた頭をより深く下げる。
「そんなにかしこまる必要はない。頭を上げるがよい。」
そう言われて断るのは逆に失礼、ということを分かっているのか四人とも顔を上げる。
「こちらでも協議したがやはり群を抜いていたそちたちに、救世主とともに魔王を屠るべく旅に出てもらいたい。」
四人は口を開かない。この国では、否、この場では上位者からの許可が出ないと喋ることは許されないのだ。皇帝のほかにも、宰相や、将軍といった要職の人物も激励の言葉を彼らに送る。
「それでは、そこのものに案内をさせる。そこで待っておるがよい。しばらくすると救世主がそこに行くのでな。」
四人は一言も話さず礼だけをして、皇帝の前を退いた。そこから女中の一人に案内してもらった部屋で待つこととなった。
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「それにしても、救世主様ってどんな方なんでしょうねー。」
そう言ったのは小柄な剣士の女性だ。審査会では剣を使っていたが、本来は弓の名手であり、ギルドでも弓士として名が通っている。名前をミール・エミシュードという。茶色の髪を肩口で切りそろえており、丸い、くりくりとした髪と同じ茶色の目は、彼女の体が小柄なことと、その口調もあいまって実際の年齢よりも若い印象を与える。彼女は、皇帝が与えてくれた一室で、これからともに旅するであろう仲間と一緒にいる。
「気になりますわ・・・。」
相槌をうって、言葉で返したのは魔法使いの女性。こちらはエルフらしく、尖っていて、人のそれよりも長い耳が生えている。髪の色は金色、肌の色は人のそれよりも白い。ハンナ・ガボットというのが彼女の名前だ。
「誰だっていいじゃねぇか。俺たちがやることは変わらねぇんだからよ。」
からからと、豪勢に笑いながら用意されたお茶を飲むのは屈強な剣士である男、ジェフ・ゴーディ。彼の屈強さを示すように腕や顔は日に焼けており、腕の筋肉は普段から鍛えられていることがうかがえる。
「確かに、それは言えますわ。でもなんと言っても、救世主様ですもの。光の神が遣わしてくださった闇を打ち滅ぼすお方……。きっと神々しいお顔をなさっていたでしょうね。」
うっとりと夢を見るように虚空を見つめるハンナはエルフらしく、光至上主義というか、光信仰らしい。
「僕は、お金さえもらえればそれでいいので。別に興味はありませんが。」
そう言ったのは、治癒術士の男だった。ギルドではお金にがめついことで有名な彼は眼鏡の位置を直し、黒い瞳をハンナに向けながら言った。ハンナは大げさな動作と声色で嘆き、天を仰いだ。今回の同行者には皇国から大量のお金が前金で支払われている。そうでなければ彼は今ここにはいなかっただろう。
「ああ、なんと言うことでしょう。神の使いたる救世主様に興味がないなんて。
神よ、このおろかな郷 龍望に救済を!!」
郷 龍望というのが彼の名前である。彼ら四人は特に自己紹介などはしていない。四人ともギルドでは名の知られた者たちであり、互いに協力して、何度か依頼もこなしている仲なのだ。だから、互いの実力は疑っていない。むしろ、このメンバーなら雑魚の魔物が百を超える量で襲ってきてもまったく苦にならないということを理解しているくらいだ。
ランク星三『距離無き弓矢』ミール・エミシュード
ランク月『四季の絵描き』ハンナ・ガボット
ランク星三『戦鬼』ジェフ・ゴーディ
ランク星三『欲深き癒し手』郷 龍望
それが彼らの立ち位置であり、周りからの認識であり、彼らも自覚しているものだった。この中に、皇国の正規兵がいないのは皇国側としても悔しいものだろうが、国よりもギルドの方に有能な人間が集まっているという現在の状況がよく現れている。彼らが思い思いに喋っていると、部屋の扉が開いた。




