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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第一章:逃走者たち
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1-5

 彼らが追っているのは裏切り者だ。そういう一団に所属する彼女もまた、当然のように彼を追っていた。理由は知らない。ただ、もともと、彼の考えが彼女たちの考えとは違い、甘いものであったことは知っていたので、裏切った時に「やっと殺せる」と逆に安堵したくらいだった。彼の深く青い瞳の色は好きだったが、それはまた別の話だ。もし彼女が彼女の手で彼を殺めることができたなら、そのきれいな目だけはくりぬいて大切にしよう、くらいは考えていた。

 まぁ、理由はどうあれ、彼女はニミウスを追っていた。場所は北門と言われる場所の近く。リーダー分の男からここにいるようにと言われたので、見張りもかねて北門の近くにある居酒屋の外の様子が見える席でお酒を飲みながら、出される料理に舌鼓を打っていた。いまだ、それらしき人物はいない。男によると、連れに皇国の娘を連れていると言っていたのだが、彼女の前をそういう異色の組み合わせが通ることは今の所なかった。彼女の気持ちは監視よりも、完全に料理を楽しむ方向に傾いていた。ここにはこないだろう、という思いからだ。


「てか、ほんとにこんなところ通るのかしら。私だったら砦をぶっ壊してやるわ。…あ、これもおいしいわね。」


 自分の手柄にできないことは悔しいが、ニミウスとやりあうリスクなどを考えるとなんともいえない。だが、幸か不幸かニミウスたちは彼女の近くを通り過ぎる形で彼女の元へ向かっていたのだった。

 彼女の言ったとおり、彼らもはじめはそのつもり(壊すわけではないが)だったのだが、状況は兵と、ニミウスの追手に見つかったことで変わっていた。皇国兵と、ニミウスの追手の集団から一応ではあるが逃げ切ったナギたちはゆっくりと北門に向かう。ナギの手持ちは無尽蔵なのか、大量に食料を買っている。それを食べたりバッグに入れている。ナギのように空間をいじってあるバッグは、時間の概念がなく、生ものを入れても悪くなることはない。

 それにしても、ナギの金銭感覚はどこかおかしいとニミウスは思わされた。

 例えば、パンがある。砂糖をかけたりしてあって、子供に人気のあるものだ。これはよほどのものでない限り二キルほどあれば買うことができる。だが、ナギはそれに対してキル硬貨があるのにもかかわらず、ミルア硬貨を出す。しかも一枚じゃなく、二枚。ナギ曰く「こんなにおいしいのだからこれくらい出しても足りないかもしれないと思った。」だそうだが、見ていたニミウスはとてもひやひやとしたのであった。もちろん、高価なものに対してものすごく小額で支払いを済ませようとしていたシーンもあった。そんな時は思わずナギの頭をたたいてしまっていた。頭をさすりながらナギは言った。


「うーん。ニミウスさんといると勉強になりますね。」

「いや、常識を知らないのはお前だ。」


 そうして、居酒屋の露店を通り過ぎ、北門に到着した。当然、門は閉まっているが、横にある小さい扉からは外に出ることができる。が、そこには皇国の兵がいて、出るときも、入るときもチェックされる。夜に入ってくる人も出て行く人もいないので、詰め所に人がいる必要はないのだが念のため、というやつだ。


「本当に行くのか?」


 首都を出たくない思い半分、ナギの立場を思う気持ち半分のニミウスが尋ねる。


「当たり前です!!首都を出ないと話になりません。こんな息の詰まる場所なんて…。」

「そりゃあ、追われてる身であるお前には息苦しいだろうな。」

「…先ほどからニミウスさんはその手の話題をたびたび持ち出していますが、そんなに審査会の方に未練があるんですか?」


 ナギの意思は固いらしい。逆に、思っていることを当てられてしまう。


◆◇◆◇◆◇◆


 舌鼓を打っていた彼女は思わず口に含んでいた酒を吹きそうになった。リーダーの男から言われたとおりの組み合わせが目の前を通って行ったのだから当然と言えば、当然だろう。彼女の思いを完全に裏切っての登場だった。思わず立ち上がり、おざなりにお金を支払い、彼らを追った。

 酒のせいで足元がおぼつかない。油断していたとはいえ、多めに飲んでいたことを後悔する。

 何とか、彼らの足を止めないといけない。かと言ってこんな人の多いところで魔法を使うのはためらわれた。皇国の兵と協力している時点で微妙なところだがリーダー分の男からは隠密行動を命令されている。だから、彼女は、叫んだ。


「ニミウス!!」


 詰め所まであと少し、というところで呼ばれたニミウスは振り返った。彼女はニミウスが足を止めたことに安堵するが、ニミウスの方は違った。あせったように(実際、焦っているだろうが)連れの娘に声をかけたかと思うと一目散に詰め所に向かって駆け出した。詰め所までの距離はさほどなかったため、彼らはすぐに扉の向こうへと消えた。

 しめた、と彼女は口元だけで笑った。詰め所は首都のほうからは簡単に入れるが外へ出て行くときは詰め所内にいる兵士の持つ特殊な鍵でないと開かないようになっている、と皇国兵と協力体制を組んだときに聞いた。仮にあの二人が兵士から鍵を奪ったとしても彼女が詰め所に入り込むほうが先だと、彼女は確信していた。彼らはわざわざ袋の鼠になりにいったのだと、そう思った。


ドゴォォォン


 轟音が発生し、周りにいた人たちが音の発生した場所、先ほど彼らが駆け込んだ詰め所へと目を向ける。が、そのあと、特に何も起きないことを見ると少しずつ視線が離れていった。音がしてから十秒もたたないうちに詰め所に駆け込んだ彼女は絶句した。

 そこにいたのは詰め所の中ほどに震えている兵士が一人だけで、袋の鼠になったはずの彼らの姿はない。その兵士の奥にはおそらく魔法で吹き飛ばされたのであろう、扉があっただろうその場所に大きな穴が開いていた。


「何があったの!!」


 何があったのか、だいたい予想がついているが、聞かずにはいられなかった。彼女の気迫に圧されたのか兵士は震えながらも口を開き、彼女が予想したとおりのことを口にした。


「な、なんか変な二人組みが、やってきたんだ。そしたら、男の方が炎の魔法を発動して、そこから出て行ったんだ…。」


 最後の方は尻すぼみになっていたが、つまりはこういうことだ。ニミウスが魔法をぶっ放して二人は首都から出て行ったと。しばらくすると、彼女の仲間もやってきて、皇国兵もやってきた。詰め所にいた兵士は人が来るたびに同じ説明をしていた。

 それを聞いていた彼女や、彼女の仲間はすぐさま二人が行ったであろう方向へと向かった。残された皇国兵は一人の代表と、詰め所にいた兵士の二人組みが明日の朝、報告に行くこととなった。なぜすぐに、じゃないかというと、彼らを統括しているのは良くも悪くも時間に厳しい人だったので夜に起きたことの報告は次の日の朝にしか受け付けないのであった。片付けも、明日の朝以降ということになり、兵士達も解散した。一人残った詰め所の兵士は穴の外、上に向かって声をかけた。


「もういいぞー。降りてこーい。」


 その声を受けて降りてきたのはナギとニミウスだった。


◆◇◆◇◆◇◆


 少しばかり、時はさかのぼって、ナギとニミウスの会話。


「でもちょっと待てよ?ナギはさっき特殊な鍵があるから開けるのは難しいって。」

「そうです。見つかっていなければ兵士一人をニミウスさんが伸してくれればそれでいいですけど、見つかったとなると鍵を奪っている暇はありません。」

「じゃあ、どうやって、開けるんだ?」

「別に開ける必要はないのです。壊せばいいんですよ。かなり賭けの要素が強くなりますが。」

「どうやって…ああ、分かった。」


◆◇◆◇◆◇◆


 詰め所にて。


「お、お前らは!!」

「ニミウスさん、早く!!」

「分かってるよ!!だいたい、見つかったのは俺なのに、何でお前のほうが慌ててるんだよ。『集え、炎よ。形成カタナすはコブシ!!』」


 慌てる兵士には目もくれずニミウスは自身の腕に炎を纏わせて壁を思い切り殴った。砦と同じように、詰め所の壁にも魔法で特殊な処理を施してある、のだがその処理を上回る負荷をかければ当然、壁は壊れる。これは破壊力の高い、炎属性であったことと、剣士であるニミウスの力だったからできたのだろう。ナギが炎の魔法を使ってもこうはいかないだろうし、ニミウスが風を使っても無理だっただろう。


ドォォォン


 音と、衝撃が詰め所内で発生し、壁に穴が開く。そのまま駆け出し、しばらくしたところでナギが風を使っての浮遊魔法を発動させる。そのまま、灯台下暗し、という言葉のように気付かれないだろうと踏んで砦付近で待機。今に至るというわけだ。


「それにしても、ここにくるなんてな。」

「まさか、上にいることを気付かれていたとは思いませんでした。それに、よかったのですか?」

「何が?」

「あたし達のこと、黙ってて。」

「かわいい娘がつかまるなんて俺には耐えられんよ。」


 どうやら二人は知り合いらしい。明るくけたけたと笑いながら話す兵士とナギは笑いながらも真剣に話していた。ニミウスは二人の会話を中断させて、尋ねた。


「二人は親子なの?」

「違いますよ。ぜんぜん似てないじゃないですか。知り合いですよ。昔からよく遊んでくれた人です。近所の気のいいおじさん的な人です。」

「そうだな、こいつは俺にとっちゃあ、娘のようなやつではあるがな。そう言うお前は?」

「あ、俺はナギと一緒に行動することになったニミウスといいます。」

「そうか。俺は空雅クミヤだ。よろしくな。あと敬語やらさん付けやらはナギだけで十分だからタメ口でいいし、呼び捨てでいい。」


 互いに自己紹介をし、和やかな空気が生まれる。ナギに警備体制に関するいろんなことを教えたのは彼だろうかと、ニミウスは考えるが、それをたずねることはできなかった。なぜなら空雅が顔を引き締めると二人にとっとと首都から出て行くように言ったからだ。


「誰が、いつ戻ってくるかわからないからな。とっとと行け。」

「そうします。今までお世話になりました。」

「ちゃんとした出会いじゃなくて悪かったな、ニミウス。まぁ、こいつは言い出したら聞かないやつだが、根はいいやつだから我慢してやってくれ。」

「今日一日で、その辺はよく分かっているつもりだよ。」

「そうか、じゃあ、いつかまた、どこかで会おう。それまで、元気でな。」


 そう言って握手を求めてくる。その手をニミウスは握り返し、ナギはそれをただ見ていた。

空雅クミヤ登場!!そして一章は次で終わりです。」

『やっぱり展開が早いんじゃないかって紅月は悩んでいたわね。』

「それでも、予定よりかは長いんだよ?本当なら砦越えは成功してるはずだったし。」

『まぁ、あの老婆が出てきたのは紅月も予想外だって言っていたじゃない。』

「ま、何が一番予想外かというと、昨日に投稿して今日も投稿してるっていう紅月の行動だけど。」

『なんにせよ更新するっていうのはいいことだわ。』

「そうだね。それじゃあ読者の皆さん、いつになるかわからない次の話まで、さよなら」

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