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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第一章:逃走者たち
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1-4

 さて、門を通らずに首都から出ようと思うならば砦を超えていく必要がある。この砦の上部には見張りが常に立っており、魔物の襲来や、首都内での火事といった目立つ災害に目を光らせている。夜は魔物たちの活動が活発になるので、一時も気は抜けないため、見張りにはほぼ死角がないようになっている。


「それだけすごい見張りですが、まずは砦の上に行けないと意味がありません。さすがに、砦内部にある階段の出入り口を使うのはいざ見つかった時にはさまれたりすると危険なので使えません。」

「じゃあ、どうやって砦を越えるんだ?」

「こうやるんですよ。『集え、風よ。形成カタナすは球。』」


 ナギの詠唱によってナギの周囲に風が集まる。さらに、ナギの体が浮かぶ。さらに体が上下に移動し、自由自在に移動する。ちなみにここは、路地裏。彼らは現在、突破ポイントの近くにいた。すぐ隣は砦がある。夜になっており、ちょっと大通りの方に目を向けると、そこからは楽しそうな、にぎやかな喧騒が届いてくる。しかし、ここは、静かで、明かりも無いため、真っ暗とはいかなくても、暗い。

 そして魔法による浮遊。というのがナギの示した方法だった。だがしかし、これには実は問題があった。実は―――。


「俺は風の魔法は使えないんだが……。」


 そう、ニミウスは風系の魔法が使えなかった。属性は大きく分けて四種類ある。本当はもっと細かいのだがたいていの人が四種類の内一種類は使える。地、水、火、風のことだ。ナギは囲まれた時に突破するのに、今も風を使っていることから風属性が得意なのだろう。ちなみにニミウスは炎を使える。さらに細かい属性は今は置いておくが。


「そうですか……。そういえばニミウスさんは魔法使いですか?剣士ですか?」

「剣士だよ。ある程度でよければ魔法も使えるけど、近接距離の方が強いよ。そう言うナギは?」

「あたしは魔法使いですよ。」


 魔法使いと剣士は正確な区分がされていない。魔法が使えても近距離の方が強ければ剣士と名乗っている人もいる。この区分はその人により強くなれば強くなるほど二極化していくか、あいまいになっていくかである。


「では、そんなニミウスさんに提案です。」

「なに?」

「あたしは砦の上といった狭いところで戦うのは苦手ですので砦の見張りを倒してくれませんか? かわりに、というと変ですが砦の上まで運びますよ。」

「分かった」


 そう言うニミウスの顔はどこか浮かばない。国の兵に手を出すのが嫌なのか、それともまだ、首都の外へ出ることが嫌なのか。おそらく後者だったのか、ニミウスは最後の悪あがきに出た。


「門から出ずに首都から出るのってやばいんじゃないの?」

「いえ、ここで重視されているのは入るときだけです。よほどの犯罪者がいない限り出ることは簡単にできます。ただ今回はよほどの犯罪者(あたし)がいますから……。」


 ニミウスを巻き込んだ後ろめたさがあるのか、ナギの顔は少し暗い。そこで、ニミウスは気になっていることを聞いた。


「何を、したんだ?」

「え?」

「お前は、何をして追われてるんだ?」


 ナギの顔が強張る。それは、まるで、何かに恐怖しているようなものだったが、暗かったため、ニミウスはナギの顔が強張ったところまでしか認識できなかった。


「では、ニミウスさんはなぜ、先ほどの人たちに追われていたのですか?」


 今度はニミウスが固まる番だった。ナギは単純にニミウスが裏切ったのだと思っている。それは間違ってはいないのだが、ニミウスが追われる理由は、話せば長く、説明するとややこしく、人にはとても言えないようなものである。ナギが言わないのも同じ理由なのだが。

 互いに気まずい沈黙が流れる。


(嫌なことを思い出した八つ当たりのようなものとはいえ、少し、言い過ぎてしまったでしょうか…。)

(触れられちゃまずいことだったか?)


 互いの思いはこんなところだ。二人から切り出すにはつらい沈黙は別の存在によって切り出された。


「おい、おぬしら―――。」


 敵か、と思い声をかけられた二人は声のしたほうに勢いよく向く。ニミウスは腰にさしている短剣を構えたくらいだ。それくらい、突然だったのだろう。だがそこにいたのは、兵士でも、一団でもなかった。


「ばーさん!?」


 そこにいたのは、今日|(まだ今日のことなのか、とこのときニミウスは思った)、ニミウスに助言を与えた老婆だった。老婆は短剣を向けられたことにびっくりしたのか地面にへたり込んでいた。それをニミウスが手を貸して立たせる。


「まったく、若いもんはすぐ暴力に訴えるから嫌いじゃ。」


 腰をさすりながら立ち上がった老婆はそう言った。


「ニミウスさん、そのお方は?」

「この人に言われたから今日は『熊酒』に行ったんだよ。で、今こんな状況になっているんだがな。」

「ふむ、して、望みは叶ったかの?」

「半分ほど、な。状況的には悪くなってるけどな。」


 疑いの目を老婆に向けるナギ、苦笑するニミウス。そして少しばかり満足そうな老婆。三者三様の反応を示しながらもニミウスは簡単に説明した。その説明にナギは納得したのか老婆に歩み寄って自己紹介をしていた。


「しかし、こんなくらいところで何をしているのかと思えば……。そういうことか。しかし、いくらここがそのポイントとはいえ、ここに居続けていいのかの?」


 ナギは老婆の能力のようなもの|(占い師的なあれ)については一応、ニミウスから聞いていたので驚いたものの、それとは別の、老婆が含むように言った言葉の方が気になった。


「居続けても、ってどういう意味ですか?」

「ふむ、おぬしらの相に遭遇のものが出ておる。それも、あまりよい物ではなさそうじゃの。」


 しかし、遅かったようじゃな。そう言った老婆の呟きは飛んできた短剣によってかき消された。飛んできた方向を見ると、そこにいたのはニミウスを追っていた一団。皇国兵も少しばかり混じっているようだ。どうやらあのあと互いに協力しあうことにしたらしい。いま、彼らの目の前にいるその人数は昼間よりも明らかに増えている。どうやら、昼の時にはいなかった仲間も加わっているようだ。


「よう。裏切り者。」


 一団の代表―昼間の男のようだ―が機嫌よく声をかけてきた。どうやら、話し声がするから見てみるとそこに偶然いたのがニミウスたちだったらしい。彼らにとってはまさに神の思し召しといったところであろう。一団の中に神に祈る、という習慣を持つものはいないが、皇国兵の中にはいたのだろうか、とどうでもいいことを考えることはなかったが、場所が悪かった。すぐ後ろには、砦。大通りに出て隠れようにも、大通りは追手たちの後ろであり、ここから行くのはかなりつらい。そうなると、砦伝いに逃げるしかないのだが、そろそろ予定の時間なのであまりここから離れたくない。


「『集え、風よ。形成カタナすは…』」

「『集え、炎よ!!』」


 ナギの詠唱よりも早く、一団から魔法が放たれる。呪文の一部の詠唱を省略する短縮詠唱で、後出しにも関わらず、だ。短縮詠唱ができることから、一団の術者は一流の存在であることが伺えるが、今はそんなことを考えている場合ではない。ニミウスは余裕で、呪文に集中していたナギはギリギリで避ける。放たれた炎は砦にぶつかるが砦はびくともしていなかった。どうやら、というよりもやはり魔法で強化されているらしい。

 とりあえず、ニミウスたちは正面衝突を避けるべく、砦沿いに駆け出した。ナギのあとについていく形になるニミウス。


「『集え、風よ。形成カタナすは波!!』」

「『集え、ほの…』」


 ナギの放った突風によりひるむ。詠唱が途中で途切れたらしく、うまい具合にけん制できたようで、魔法の追撃は無かった。その代わりに「追え!!」や「逃がすな!!」といった怒号に近い命令が彼らの背をたたいた。


「何処に、行くつもりなんだ?」

「正直、今の計画は無理そうなので別の計画に移ります。正直、この手は、使いたくは、なかったん、です、けど。」


 走りながら喋っているとみるみるナギのスピードが落ちていく。自身のことを魔法使いと言ったナギは典型的な魔法使いらしく体力があまりないようだった。ナギに案内を任せているニミウスは迷わないようにするためにナギを追い越すことができない。このままでは間違いなく追いつかれて捕まってしまう。ナギをここで見捨ててもいいのかもしれないが、捕まったナギがどんな目に合わされるかを考えると、見捨てるのは寝覚めが悪い。第一、そんなことをしたらこの入り組んだ道では迷ってしまう。そんなことになるのを避けるべくニミウスはナギを担いだ。当然、突然のことにナギは困惑する。


「えっ? ニミウスさん?」

「とりあえず、行き先の指示だけをくれ。こんな計画にまで乗っているのに、俺は捕まりたくない。」

「でも、重たくない……。」

「大丈夫だ。だから早くしろ!!」


 最後の方は語気が荒くなったニミウスに恐怖したのか、ナギはニミウスに行き先の指示を出し始めた。もちろん、完全に撒けるとは思っていないのだが、ナギの指示によって大通りに出たころにはその数も少なくなっていた。これは、撒けたのか、それとも別のところに人員を配したのかは分からないが一息つけると思い、ニミウスはナギをおろした。ナギを担いだままだと人の視線が痛い、というが理由だ。


「このあとは、北の門に向かいましょう。そこの詰め所から出ましょう。」


 そう言ってナギは歩き出した。ところどころで、食料を買っては、食べたり、バッグに入れたりと手際よく進んでいく。のんきそうに見えるその行動、これから詰め所へ行く、という緊張感はまったくなさそうだ。なぜ、緊張感がいるかというと。


「でも、夜は門の詰め所に人がいるんじゃないのか?」

「いえ、北門ならどうにかなるんですよ。」


 そう言われては反論しようにも、どうしようもない。気が進まないのだが、おとなしくナギについていくニミウス。


(でも、北門に行くってことは詰め所に入る兵士と顔をあわせるってことだろう?俺はともかくナギはいいのか?)


 詰め所には必ず、兵士が一人、ないし二人いる、そう言っていたのは宿屋を切り盛りしていたおかみさんだった。そこを通り抜けようとした場合、ナギの立場だと|(ニミウスは自分の立場は考えていない)ほぼ間違いなく兵士と戦闘になる。

 ニミウスも、ナギのように物を口に運びながら歩く。審査会までは連日祭りのようなにぎやかさだ。もともと、南北を結ぶ大通りは夜にはにぎやかになるものだが、ここまでにぎやかなのは普段ではなかなかないらしい。やはり、審査会目当てで冒険者がたくさん来ているからだろう、というのは宿屋で聞いたことだった。


(そういえば、あの宿屋の料理はおいしかったなぁ。)


 宿屋の恰幅のよいおかみさんの笑顔を思い浮かべながらそんなことを考えているニミウスもはたから見るとナギと同じくらい、のんきな顔をしていた。

「いつ以来の投稿だろうね?」

『気にしちゃ負けだと、紅月は言っていたわ。それにしても少し展開が早くないかしら?』

「それは紅月自身も自覚してるみたいだよ?どうしたら、描写を細かくできるか、とか悩んでたし。」

『それにしても、魔法ってすごいわよねぇ。空も飛べるんだもの』

「それくらい、ボクにだってできるけど…。」

『知ってるわよ。それよりも、紅月が伏線のうまい張り方が分からないって言っていたわね』

「本人は伏線張ってある話ってのは大好物なんだけどねー。本人にその才能がないのは残念な話だね。」

『ま、それでは次回と言うことでいいかしら?』

「そうだね。それではいつになるかわからない次回の後書きで、また会いましょう。」

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