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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第一章:逃走者たち
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1-3

「では、さっそくミルフィアへ行きましょう。」

「どうしてだ?」

「それはですね。ミルフィアに登録するといろいろと得するからです!!」


 依頼取引施設では、誰でも、報酬を条件に仕事を依頼することができる。施設へと出された依頼は、施設及び、依頼を統括しているミルフィア、という組織に登録されているメンバーが依頼を受ける形で処理される。依頼を統括しているのがミルフィアなため依頼取引施設のこともミルフィア、と呼ばれている。

 もちろん、依頼というのにもいろいろあって、探し物やら、草むしりといったボランティアレベルのものから魔物の討伐、盗賊の捕縛といった命のやり取りをするようなレベルのものまでさまざまであり、ランクわけされている。ランクはあくまでも目安でしかないが、ミルフィアが勧めているのは本人のランクと同じか、それよりも一つ上程度である、が依頼を受けるのは個人の自由であるため実はいくらでも高ランクの依頼を受けることができる。

 ちなみにランクは星一シングルから始まり、星二ダブル星三トリプルまで、そしてその上にルナ太陽フィアがあり、五段階となっている。

 受けた依頼を達成した時はミルフィア登録時にもらえる指輪を各支部で提示すれば何処でも報酬をもらうことができるようになっている。


「以上がこのミルフィア登録における説明ですが、よろしいですか?」


 目の前の女性が(おそらく営業用の)笑顔でたずねてくるのを聞き、ニミウスたちは頷いた。互いに、名前だけの自己紹介をしたあとにここ、依頼取引施設ミルフィアへとやってきたのだ。

 ミルフィアに登録することは実は結構大きな特典がある。依頼でお金を稼げることではなく、過去の経歴を問わないというものだ。

 ミルフィアでは、腕が立つのであれば誰でも、あるいは腕が立たなくても登録ができ、その時に身分証明の形として、ミルフィア所属の証として指輪をもらう。この指輪はつたが絡まったようなデザインをしており、なかなかこった装飾をしている。見た感じはただの指輪なのだが特殊な術がかけられており、それで、個人識別までやってくれる。指輪は身分証明になるため、各国にある関所のようなところはフリーパスとなる。

 そして、この指輪を持っていると犯罪を犯さない限りはミルフィアの庇護下にいることを表している。このときの犯罪というのはミルフィア登録後に犯したもののことであり、それ以前のことは一切問われないのだ。

 まぁ、登録後に犯罪を犯すとミルフィアの腕の立つ方々が始末に来るので登録後に犯罪を犯すやつというのはめったにいない。逆に、登録前に犯罪を働き、ミルフィアの庇護下に入ることで権力からの追求から逃げる者はたくさんいるらしい。例えば、いま、ニミウスの横にいるナギのもその中の一人だ。


「では、こちらの紙にお名前を書いてください。」

「名前だけでいいんですか?」

「ええ」


 質問に答えてもらったナギは紙に名前を記入する。ナギ、とカロンの文字で書く。

 カロンというのはヴァダリアと隣り合った国のことだ。カロン王国というこの国の細かい説明はおいといて、この世界での公用語はカロンの言葉で、もとは妖精族や、竜族などが使っていた言語を人が使い出した。そして人がその言葉に対して文字を作り、今度はそれを妖精族たちが使い出したので世界中に広まり、基本的に重要な証書などの類はすべてカロンの言葉で書かれている。ヴァダリアではまったく別の言語が使われてるのだが、そこも、まぁ、今は割愛しておく。


「ナギはカロン語が書けるのか?」

「?ええ、家の事情で教えられましたから。一応、会話もできますよ?」


 カロン語を覚えさせられるということはそれなりの家の出なのだろうか、とニミウスは推測する。互いに素性は明かしていない、名前だけだ。カロン語を使えるなら、ニミウスが言語解析の術を教える必要がないんじゃないかと言おうと思ったのだろうが、今はミルフィアへの登録の方が先なので、ニミウスもカロン語で名前を書き、提出する。ちなみに二人ともフルネームではないのだが、受付の人はその紙を受け取り、奥へ行った。しばらくして、指輪を二つ持ってくる。どちらも同じデザインの、つたが絡まったような感じのする指輪だ。


「では、こちらがミルフィア所属の証となる指輪です。登録は無料ですが、この指輪をなくされた際には十ギリアム払っていただきます。」


 ギリアムは金貨のことだ。1キルが銅貨一枚で、百枚集まって銀貨一枚の1ミルア。銀貨百枚で金貨一枚の一ギリアムとなっている。

 十ギリアムはだいたい星三トリプルの依頼報酬の平均よりも少し高いくらいなので、星一シングル(依頼報酬1キル~1ミルア程)である今の状況で無くすと結構、どころでなく、かなり大変なことである。この通貨単位は全国共通である。


「それと一定期間の間まったく依頼を受けられない、となりますと指輪を持っていらしてもミルフィアのメンバーとは認められなくなります。一定期間依頼を受けられない場合はあらかじめミルフィアに連絡をお願いします。もしくは一定期間後に受けられなかった理由を提示してください。それらがない場合には再登録をお願いします。再登録は個人の自由ですが、その時にはお金がかかります。」

「一定期間とは、どのくらいなのですか?それに、連絡はどのようにするんですか?」


 そう聞いたのはニミウスだ。再登録はできても、お金をとられるというのがあまり気に入らなかったようだ。


「一定期間は秘密とさせていただきます。連絡は指輪をミルフィアに届けていただければ、それを一時的に預かる、という形で指輪の持ち主を休業扱いにさせていただきます。」


 話を詳しく聞くと、一定期間を利用したずるいやつがいたらしいので、それ以来一定期間については公表しないそうだ。何をしたかというと、期間ぎりぎりまで、依頼を受けず、ぎりぎりに簡単な依頼を受けて、ミルフィアの恩恵を受ける、というものらしい。確かに、ずるい。


「それと、立ち寄った町や村で依頼取引所ミルフィアがありましたら必ず立ち寄ってください。受付に声をかけていただきますとその周辺の宿を安く借りることができます。割引率はランクによって変わりますが…星一シングルですと五分引きで、太陽フィアですと無料になります。」


最後に受付の女性はそう言って締めくくった。


「どうする?早速依頼を受けるのか?」

「いえ、目的は登録だけです。もしも依頼を受けるなら首都を出てからにしましょう。依頼を受けたことで変に足止めを食らってしまうのはよくありません。」


 受付から離れたところで話し合い、首都脱出方法を考える。


「やはり一番厳しいのは、この時期だという事でしょうね。今は救世主様目当てで首都に"入る〟人ばかりで"出て行く〟人はほとんどいませんから、普通に出て行こうとすると簡単に見つかってしまいますね。

 それに、いくらフリーパス、と言ってもさすがにこの国では無理でしょうね。」

「そりゃあ、国家が追っている犯罪者だからな、ナギは。

 それよりも本当にこの国を出ないといけないのか?…俺としてはやっぱりまだ審査会への出場を諦めきれないんだが。」

「諦めてください。やはり移動するとなると夜ですね。それも早いほうがいいでしょう。あたしが首都から出たという情報はまだないでしょうし、ニミウスが宿にいないのはそろそろ気付かれているころでしょう。なら変に守りを固められる前に突破しましょう。」


 ニミウスの未練をばっさり切り捨てるナギ。やはり、彼女は(当然だが)捕まりたくないのだろう。出て行くことを最優先にしているので、残りたい、というニミウスの意見は聞き入れることができないらしい。てきぱきと計画を立てて行く彼女を見つつニミウスは質問した。ちょうど、彼女は砦の上の見張りの交代時間や、その配備位置についての説明をしていた。


「なぁ、何でそんなに警備体制とかに詳しいんだ?」


 ニミウスとナギの前に広げられているのは首都全体を書いた地図。ナギはそこに説明をしながら通る予定の脱出経路に印を書き込んでいた。


「え?知人に詳しい人がいまして、その人に教えてもらったんですよ。」


 ナギは少し動揺しつつも答えた。その動揺を怪しみながらもニミウスはけっきょくナギの話に耳を傾けた。先ほどの一団に見つかった時から、彼の中では一団から離れるために首都を出ようとする気持ちと、首都に残りなんとしてでも救世主の仲間になりたい気持ちの二つがせめぎあっていたのだがここまでくると、もう首都脱出しかないと思ったのだろう。

 一方のナギは内心ひやひやしつつ計画をニミウスに話した。変わった人だと、出会った時から思ってはいた。見た目が、ということもあるが、見た目のわりに幼い、といえばいいのか、見た目のわりに大人だと言えばいいのかがよく分からない。だがカロン語のことといい、今のことといい、そんなことを無視しても妙なところで鋭いのだ。

 気付かれてはいけない、知られてはいけない。そう心の中でつぶやき、計画を話し続けた。

 二人が依頼取引所ミルフィアを出たのは日もとっぷりと暮れたころのことだった。

「今回は説明が多かったね」

『じゃあ、ちょっとまとめましょうか?

依頼取引所ミルフィア

他の小説ではギルドと呼ばれることが多いと思うわ。

・キル、ミルア、ギリアム

お金の単位ね。順番に銅、銀、金貨。百枚ごとに単位が変わるわ。

・カロン王国

ナギたちがいるヴァダリア皇国の隣にある国ね。

今は単純だけど、こんなものかしら?』

「それでいいと思うよ。

次回はいよいよ首都脱出!!ナギたちは無事に出ることができるのか?」

『この作品では評価、感想、アドバイス、指摘、メッセージ、お気に入り登録など、何でも待っています。ので、ぜひぜひよろしくお願いします』

「それと、失踪の方にキャラ紹介がほしいかっていうアンケートにも回答お願いします」

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