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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
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3-20

 呼吸が乱れている。ナギは杖を持ち直し、辺りを見渡す。

 雪の中に氷の粒が混じり、歩くのも危ないかもしれない。

 暴走した魔力は、本来ならその影響を受けない術者にも襲いかかる。しかし、ナギはニミウスが作り上げた土壁からその身を守ることができた。一方、蒼空の獅子の面々の傷は大きい。

 ナギにもっとも近かったリーベルはピクリとも動かない。ただ、呼吸のリズムにあわせて白くなった吐息を確認できるので死んでいることはないだろう。

 リッテナーヴァの方はなんとか立っているという感じ。後方の二人も結界を張ったものの、その決壊に魔力をかなり持っていかれたせいか、疲労の色が濃い。このあとの戦闘が可能な状態かはわからない。

 この場でまともに立っているのは防壁を作り上げたニミウス。さらにそのなかに入っていたナギだけだ。

「やるか?」

 ニミウスの質問にエテノーラは首を振った。前衛二人は動けないし、ジノフに守ってもらいながら戦うにしても厳しいと判断したのだ。

 この瞬間、勝敗が決定し、勝者であるナギたちに拍手が送られた。


◆◇◆◇◆◇◆


 ナギはレイアに抱きしめられていた。

「ああもうほんとに無事でよかったよ。あの吹雪を見たときは肝が冷える思いがしたよ」

「ちょっとライア」

 顔は迷惑そうだがその抱擁から逃げようとしないあたり、ナギも満更ではないのだろう。

 ニミウスはそれを見てなんとなく寂しい思いになったが、シズミが頭の上に乗ってきたことでその思いはなくなった。

「とりあえず、帰るぞ」

「わかりました。ほらライア、手を握ってあげますから離れてください。ね?」

 二人は手を繋いで歩き出す。帰り道はずっとナギの魔法について聞かれた。

「あれって安全なの?」

「すごい威力だけど、ふつうあんな威力にならないよね。どうやったの?」

「あれは誰だってできるの?」

 それらすべてを無視してレイスの家に戻ればレイスが飛んできた。研究者としてナギが使った魔法を調べたいらしい。

 どうやらナギが使った魔法は噂としてかなり広まっており、レイスが得た情報によると人間が凍って氷像ができたなんていう尾ひれがついていた。

「……というわけで、可能になる」

 あまりこの技術を広めるつもりはなかったニミウスだが、レイアとレイス二人の剣幕に押されて方法を教えてしまった。

「なるほど……。ある程度の魔力も必要になるわけか。やはり強力な魔法を簡単に発動できるわけではないのだね。かといって魔力があればいいというわけでもなく、魔力制御ができないとナギほどの威力は出せない。それに安定して使えるわけでもないし、威力も安定しない。術者の安全も保障されないのであれば使用の意味はあまり……」

 説明を受けたレイスはそのまま研究室に行ってしまった。何か思うところがあったのかもしれない。

 一方のレイアは顔を真っ青にしている。ナギがどれほど危険なことをしたのかわかったらしい。

「ニミウス!! どうして君はナギにそんな危ないことを教えたんだ!!」

 ニミウスの肩を掴み、激しくゆする。

「今回は君がいたからよかったものの、今後もしナギがあれを使っちゃったりしたらどうするのさ!!」

「レ、レイア」

「何!」

「気持ち悪い」

 ニミウスの講義にレイアは先ほどのあわてぶりが嘘のようにあっさりと肩から手を離した。だからといって完全に落ち着いたというわけではないらしく、優華と明華と遊んでいるナギのところへかけて行った。

 ナギはちょうど中庭で魔法で風を起こし、二人を空中に浮かせている。双子はメリーゴーランドのようにくるくる回りながら楽しんでいる。

「ナギちゃん。もっと高くー」

「はいはい」

 明華の指示に従ってナギは二人をさらに上へ持っていく。落ちても危なくないよう、高さは調整しているのか、二人は二階よりも高い位置までは行かせてもらえない。

 もっともっととねだる二人だがナギはそれ以上はあげようとはしない。

「ナギ!!」

「はいはい。ってライア」

 慌ててやってきたレイアも反射的に上にあげてしまった。

「すいません。つい」

「いや、いいよ。じゃなくて! ナギ。あれ、あんなに危ないんじゃないか。もう使わないって約束してよ」

 今度はナギの肩を掴んでゆすり始めるレイア。魔法を維持するだけの集中が無くなったせいで双子が地面に落ちる。幸い、ナギが気をつけていたおかげで二人は落下による痛みを感じただけでけがはない。

 揺さぶられているナギの方は突然のことに言葉も出せないようだ。

「ニミウスから聞いたよ。あんなに危ない方法だったなんて知らなかったからさっきは何も言わなかったけど、あんなに危ないんだよ。下手したら死んじゃうんだよ。いや、さっきのだってニミウスがいなかったらナギはどうなってたの? 対戦相手の前衛。すごい傷だったよね。ナギはもっとひどいことになっていたかもしれないよね。だから使わないって約束して、ね?」

 矢継ぎ早に言われているがナギに言葉を返す余裕はない。

「ねえ、ナギ。聞いっ」

「レイアのばかー!」

 そんなレイアを止めたのは地面におとされた双子だ。左右からタックルされてさすがにレイアは止まった。

 それをいいことにナギはさっさとレイアから離れようとした。しかし、かなり強い力でつかまれていて離れることはできなかった。

「とりあえずライア。落ち着きましょう。ゆっくりお話ししましょう」


◆◇◆◇◆◇◆


「落ち着きました?」

「……はい」

 ナギからしつこいくらいに使うことが難しいことを説明されたレイアはすっかりおとなしくなった。あの魔法の発動がいかに難しいかを三十分以上かけて説明されれば理解するというものである。

 ナギもあの魔法は二度と使うつもりはない。そもそも彼女一人ではよほどの距離がない限り発動前に倒されてしまう。

「でもよかったよ。ナギにその気がなくて」

「私はまさかそこまで心配されるとは思っていませんでしたけどね」

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