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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
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3-18

 予選を四日間。本選を三日間の計七日。これだけの時間をかけて大会は開催される。

 試合は予定よりも早く終わる日の方が多くて、試合の進行の調整を望む声がある。しかしこの大会は露店から八日分の出店契約料を前払いで受け取っているので日程を変えることで違約金を支払う必要が出てくるなどの金銭的な問題がある。

 その他にも貴族が私兵のスカウトのために見物に来るため彼らの時間的制約という問題もある。

 そのために、日程の調整は行われない。宿屋に土産物屋、露天商など目に見えるところは活発化する。

 巡回として町を出た兵士たちは町を歩きながら露店の美味、珍味を堪能するために巡回しているようなものだ。問題が起これば彼らの出番だがこういう時はたいてい店やそのほかの人で勝手に解決されてしまったりする。巡回というが実際は祭りを楽しむための時間だ。鎧を、纏い剣を帯びていてもその気持ちの緩みは隠しきれない。

 予選はリーグ戦で、毎回十六のリーグ戦を組んでいる。各リーグ一日に一試合、もしくは二試合となっている。参加チームが多いときは試合時間も決められるが今年は救世主一行が出るということで、彼らと手合せしたいと思ったチームもエントリーしてきている。そのため出場チーム数に、チームの質ともに過去最高だと言われている。

 また、今年は参加チームが多いため、ミルフィアの方では余裕があればエキシビジョンマッチをやるかどうかを検討しているらしいといううわさも流れている。

「あたしたちは明日が初戦ですね。勝ちますよ!!」

「お前が頼りなんだから頑張れよ」

「うぐっ。そう言われるとすっごい緊張するじゃないですか」

 ナギは胸を押さえて演技するようによろける、ようなことはできなかった。周りに人がいすぎてそんなことをすると迷惑をかけてしまう。ここは町の中で、二人は練習もせずに祭り初日を楽しんでいるのだった。

 初日の今日は最後の仕上げのために練習すべきとも思ったのだが、ナギが緊張のせいなのか、何をやってもうまくいかなかったので街に出て緊張をほぐそうということになったのだ。

「ナギちゃん見て見てー」

「ふぃへふぃへー」

 優華が口いっぱいにパンを入れて膨らませている。突然の精神的攻撃に思わず笑ってしまう。飲み物を渡すと、パンにゆっくり水分を含ませつつ口の中を空っぽにする。

 今ここにはナギ、ニミウスの他にレイス男爵、その執事ポジションのルル、最近レイスに雇われることになった優明にその娘の優華と明華さらにはシズミとレイア。要は現在男爵の家で暮らしている面子がすべてそろっていることになる。

 レイスによるとエンテンシア家はすでに財産もほとんどなく、現在は研究による発明で日々細々と暮らしているらしい。

「盗まれて困るようなものがないから気楽に家をからにできるのはいいことだよ」

 と言うが、それは果たして家主としてどうなのだろうかと思う。

 そんなレイスは優明に何かプレゼントしようとルルと一緒に装飾品の露店を見て回っている。サプライズ、というわけでもないのだが優明を連れて行かなかったのはなぜだろうか。ナギたち居候四人組は照れ隠しだと思っている。

 優明は二人の娘にはぐれないように注意しながら優華にはしたない、と言って注意している。明華も真似しようとしていたのだが、優華が注意されているのを見てそれはやめたようだった。

 今いる場所は会場である兵隊の訓練場からは離れたところにある広場だったのだが、この大会の間は町中が祭りの雰囲気にのまれてしまうらしい。どこへ行っても露店のない場所なんてないし、大会とは関係のない催し物をしているところもある。

 ここでは猫が芸をするという見世物が行われていた。シズミはそれが気になるようで時々そちらの方を見ている。

 シズミは今は猫の姿をしている。人の姿になれることをナギとニミウス以外は知らないからだ。

「あーあ。僕も出たかったなあ……」

「だってライアが出るとなったら周りがうるさくなりますからね。本当は出てくれると嬉しいんですけどね」

「ナーギー」

「昼間からいちゃつくなよ」

 ナギに抱きついてほおずりするレイアにニミウスはそう言ったが聞こえていないようだった。

「ニミウスお兄ちゃん。あれとってー」

 明華が小型のクロスボウを持ってきた。後ろの方から何か聞こえている。三人と一匹は明華の後についていくと、射的の露店だった。優華がぎりぎりまで手を伸ばしてお菓子の入った箱を狙っている。打ち出すのはコルクのついた矢だ。優華はよく狙っていたものの撃ち出した時の反動でわずかに狙ったものから外れてしまった。

 明華が欲しいというので優華とかわった。ニミウスもぎりぎりまで手を伸ばし撃つ。こちらは見事に景品をゲットした。

「嬢ちゃんたち、こういうのは一回だけだからな」

 店主らしいおじさんが優華にお菓子を渡すと優華はそれをすぐさま明華に渡す。

「いいなー……」

 うれしそうにはしゃぐ双子を見て、ナギもレイアにねだった。レイアは任せて、と言って店主にお金を払った。一回につき矢が三本で銅貨三枚、三キルだ。

「頑張ってください、ライア」

「ナギに応援されたら百人力だよ」

 周りにいた何人かが舌打ちをする。どうやら二人が恋人同士だと思い、妬ましいようだ。今にも呪いの言葉を吐きそうな雰囲気の若者もいる。怖い。

 しかし、レイアはそれに気づくことなくあっさりナギの望んだ景品を手に入れた。ニミウスは何か聞こえたような気がしたが無視した。言うだけ無駄である。

「おっとー。目玉商品がとられちまったな。で、これ持って祭りの中歩くのかい?」

「取り置きとかできない?」

「まーできんことはないな。こんだけでかいとやっぱそういうやつもいるからな」

 ほれ、と店主は番号札にあけた穴に紐を通したものをレイアに渡した。

「首にでもかけとけ。こっちの方にもおんなじ番号のをかけとく。今日の五時ごろまでなら店を開いてるからそれまでに取りに来いよ」

 取りに来なかったら明日また景品として並べるそうだ。ニミウスはとりあえずもう一個お菓子の詰め合わせを取って今度は優華に渡した。二人はきゃっきゃと中身を比べている。

「家に帰ってから食べるのよ。預かっておくわ」

「えー! おかーさんのいじわるー」

「ぶーぶー」

「お菓子食べなかったら他のお店で別のものを食べれるでしょ」

「……はーい」

 最後の返事が見事に重なったのは双子だからか。そっくりなしぐさで二人はわかりやすく肩を落としていた。

 そのあとはこの広場に来るまで通った道を歩きながらレイス、ルルと合流した。

 みんなで今日あったことを話しているうちに景品の受け取りを忘れそうになっていたことに気づいてあわてて取りに行ったり、レイスが優明にあげる予定のものをなくしたと騒いだり、それはレイスの服のポケットに入っていたりと、一日ゆっくり遊んだのだった。

 その日の夜。エンテンシア男爵邸にて。

「優明、これを受け取ってほしい」

 小さな箱に入っているのはきれいなイヤリングだ。露店に出ていた小物売りから買ったそうだ。

 真珠が一つだけついているシンプルなものだ。

「仕事の最中に邪魔にならないものを選んだつもりだ。よかったら、受け取ってつけてほしい」

 顔が白くなっているレイスから優明はそれを受けとってその場でつけて見せた。

「ありがとう、レイス」

 その笑顔を見たレイスはそのまま倒れてしまった。緊張の糸が切れたのか、はたまた優明の姿に興奮しすぎて意識が遠くなったのか。どちらであるかは定かではないが、どちらにしろ彼はこんばんはいい夢を見れそうだ。

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