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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第一章:逃走者たち
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1-2

 緊迫した空気。若者は一団の向こう側にある扉からどうやって逃げ出そうか考えていた。ここにいる無関係の人たちは巻き込みたくはないものの、彼を追ってきた一団の実力を考えるとそれは難しいだろう。だが、せめて、自分とたまたま一緒にいただけの少女は逃がしてやりたいとも、考えていた。

 一団はどうやって若者を捕らえようかを考えていた。しばらく前に、彼らを裏切っていった若者を一団は許す気はなかった。ただ、彼らのボスが殺さず、捕まえて来い、というから殺さないように気をつけようとは考えていた。若者の実力を考えると、厳しい条件だろうが、他人に甘い若者なら、この状況だと手加減をするだろうと踏んでいたし、また、若者を殺せないのなら、少女を殺そうとも考えていた。おそらく、少女自身の言うとおり、たまたま居合わせただけなのだろう。運が悪かったのだ。あきらめてもらおう。

 少女は少女で、どのようにして無関係を主張するかを考えていた。もしくは逃げようかと考えていた。だが、彼女は圧倒的に実戦経験がないことを理解している。特に相手が多い時の対策など、皆無と言ってもいいくらいだ。方法がないこともないが、それをすることにはためらいがあった。だが、先ほども言ったように都合の悪いことは連鎖する。

 扉が開いて入ってくるのは皇国兵だ。巡回の途中なのか、三人が入ってきた。一団はそれに気付いた、若者は長身であったために一団の向こうもかろうじて見えていた。だが少女は誰が入ってきたのか分かっていなかった。彼らは騒ぎを見て、その中心にいる人物、特に少女を見て驚いた声を上げた。急いで、何か書かれた紙を取り出し、何度も少女の顔と紙を往復して声を上げた。


「お前は急いで仲間に連絡を!! 侵入者を発見したと!!」


 侵入者、皇宮に侵入して盗みを働いたやつのことだろう。一人はばたばたと外へ駆けて行き、残った二人が包囲網に加わった。


「お前……。」

「あー、都合悪いことになっちゃいましたね。」


 少女は頬をかきながら困ったように笑った。このとき、少女の中でためらわれていた方法が実行に移されることが決定したのには、誰も気付かない、気付いていない。気付けていたらすごいのだけど……。一団の一人が状況を理解したらしくにやりと笑い、そして兵の一人に言った。フードをかぶっていない彼の髪の毛は金色に輝いている。それだけで、彼がこの国の人間でない可能性が高いことを示している。


「兵隊さんよぉ。」

「なんでしょうか?」

「実はあの男の方なんだけど、あんたらが追ってるやつと仲間みたいなんだよ。」

「ふむふむ。」

「俺たちがちょっと男の方に用があるから、捕まえるのに協力してやろうか?」

「なっ!!」


 驚いたのは若者の方だ。当然、少女が先に主張したように、若者と、少女は仲間ではない。つまり、一団は嘘をついたのだ。だが、若者は一団の性格を、気質をよく知っている。狡猾な手を使うものの、最後の締めは必ず自身の手で行う、というものだ。そんな彼らだ。追い詰めるところまでは他人の力を借りたとしても、捉える際には自分たちの力のみでやるものだと思っていた。ゆえに、まさか、一団がそんな提案をするとは思っていなかったのだろうか、その顔には焦りしか浮かんでいない。兵はどうやらそれを了承したらしい。相手は訓練された兵と、若者を追ってきた連中。こっちは若者と、実力未知数の少女。そしてその少女は先ほど考えた方法を実行すべくさりげなく若者に近寄ると手を前に突き出した。


『集え、風よ。形成カタナすは竜巻!!』


 魔法、魔術とも呼ばれるものを少女は発動させる。

 手から放たれた竜巻が前方にいた一団の半分以上と兵二人を巻き込んで、酒場の壁を突き破った。幸いなことに客が巻き込まれた様子はなかった。呆然としている後方の客と、店主。少女が若者を助けたのには理由があったが、それ以上の理由は〝ただなんとなく〟だった。もしも、少女が若者を助ける気が、というか、理由がなければ彼女は彼を巻き込むようにして術を発動していただろう。


「なに呆けているんですか!! 逃げますよ!!」

「ちょ、えっ?」


 衝撃で吹き飛ばされたのか、兵や、一団の中に立っているものはいない。その隙に少女は若者の手を引いて逃げ出した。

 少女に手をひかれて逃げ出す。どうやらまだ追っては来ないようだが、いずれは追ってくるだろう。裏路地に入り、喧騒から離れる。途中、何度か兵と鉢合わせになりそうになったが少女はすべてかわした。


「何とか、逃げ切りましたね……。」

「ああ。」


 少女は息切れしながら、若者に話しかける。若者は呼吸をまったく乱してはいない。きっと鍛えているのだろう。


「でも、お兄さんも、追われていたんですね。」

「俺はお前が追われていたことにびっくりだよ。」

「まぁ、それは置いといて、とりあえず、お兄さんの宿に向かいましょう。話は、それからです。」


 そういうと少女は若者に案内を求める。若者は頭を抱えたくなった。この少女を連れて歩くということは、それすなわち若者に降りかかってくる火の粉が倍ほどになるということである。


「何でお前(お尋ね者)をつれて宿に行かないといけない?」

「理由はいくつかありますけど。ひとつ、お兄さんは目立ちますから先ほどの人たちはお兄さんの容姿から宿屋で待ち構えている可能性があります。今ならまだ待ち構えていないでしょうから今のうちに戻って部屋を引き払った方が賢明でしょう。ふたつ、どうやらあたし達は仲間だと思われているようですので、もしも見つかった時は皇国兵と先ほどの一団を相手にしないといけなくなります。一人ではどうしようもありませんが、二人ならまだどうにかなると思います。こう見えてもあたしは結構、魔法、得意ですよ?」


 息を整えながらの少女の回答に間違っているところがないと思った若者は仕方なく宿屋へと向かう。幸いなことに、まだ追手はきていなかった。急いで荷物を整える。荷物を整える、と言っても少ししかないのですぐに済み、宿を引き払った。


「これから、どうする気だ?」

「どうしましょうか……。とりあえず、首都を出るのは確定ですね。」


 少女の言葉は予想を裏切らないものだったが、若者にショックを与えるには十分なものだった。


「それじゃあ、困る!!」


 少女はもともと、首都から出て行くつもりだったのだからどうでもいいのかもしれないが、若者はある理由、目的のためにこのヴァダリア皇国の首都へと来ている。その理由は救世主とともに魔王を倒しに行くことだ。内緒ではあるのだが、実は、別に救世主と一緒である必要はない。だが、一緒であるほうが何かと都合がいいだろう、という考えがあってこの国に来ているのだ。それにはもうすぐ行われる審査会に出ないといけない。今首都を出てしまうと、審査会に出れなくなってしまう。


「でも、どうするんですか?お兄さんの顔は間違いなく兵達に覚えられたでしょうし、お兄さんがそのまま行ってもお尋ね者の仲間としてすぐに捕まえられてしまいますよ?」

「だが……。」


 若者はよほど、救世主の仲間になること、否、審査会に出ることにこだわっているのか、なかなか了承をしない。それでも、渋る若者を見ていた少女は何を思いついたのか、明るい顔をして手を合わせた。


「そうですよ!! じゃあ、あたし達でやりませんか?」

「何を?」

「魔王退治をです!!」


 ぽかんとする若者。少女はうん、これは名案だと言っては何度も首を縦に振っている。若者にずい、と顔を近づける。近すぎる気も、しないではないが、そこは、まぁ、若者と少女の身長差。……何というか容姿の違いはあれど、おねだりしている妹とされている兄、のような構図になっている。


「お兄さんの目的は”救世主様”や”名誉”や”地位”や”お金”じゃないんですよね?魔王を倒すことなんですよね?」

「あ、ああ。そうだけど。」

「なら、それでいいじゃないですか。あたしも魔王退治に行こうと思っていたんですよ。仲間ができてよかったです!!」


 そういうと少女は歩き出した。若者は何かを言おうとしたが諦めた。少女のあの強い意志の宿った目は絶対にその意思を曲げないであろうことを若者は本能というか直感で理解していた。本当は、「審査会に出る自信のないやつが何を言う」とか、「まだ、仲間になるなんて言っていない」とか言いたかったのだけれど、後者はともかく、前者は少女の立場(お尋ね者である)ということを考えるとしようがないのかもしれないが。

 だから、言いたいこととはまた別のことを、若者は聞いた。


「名前は?」

「え?」

「名前。これから一緒にいるんなら知らないと不便だろ?」


 若者にそう言われ、少女はしばらく悩んでいた。


「そうですね。いっそのことお互いに名前を知らないというのもなかなか面白そうだと思いましたけど「お兄さん」と呼ぶのも他人行儀な感じがしますね。では、私はナギといいます。字は……。」


 面白い、のか?それは。彼にとっては名前が分からないと呼ぶときに不便なので、たずねただけではあったのだが、そんなくだらないことで悩んでいたのか、と思いながら若者は少女、ナギの言葉をさえぎった。


「ああ、いいよ。俺、字は分からないから。」

「……お兄さんは言葉、話せてますよね?」

「ん、まぁ、そういう術をかけてるからな。」

「それはとても便利そうですね……。今度教えてくれますか?」

「ああ、いいぞ。」

「それで、お兄さんの名前は?」

「ニミウスだ。」

「ニミウスさん、ですか・・・。字が分からないとも言っていらっしゃいましたし、別の国のお方ですか?」

「ああ、あと呼び捨てでいいぞ。」

「いえ、ニミウスさんと呼ばせていただきますよ。さん付けは癖のようなものですから気にしないでください。それに、ニミウスさんの方が年長者でしょうから、最低限の敬意というものです。」


 若者、ニミウスは呆れたようにため息をつき、あきらめたように。少女、ナギは意地悪く、これから起こるであろうことに期待を膨らませながら微笑むと、とりあえず首都を出るための作戦を考えるべく話しながら歩いて行った。もちろん、人通りの少ない裏路地を選んで。

『この作品では○(章)ー○という形式で各話にタイトルがついているわ。サブタイトルが入るときはその章の始めだけになるわ』

「解説どーも。さて、これは早速王道を外れたことになるのかな?」

『さぁ、どうなのかしら?』

「でも、一日に二話投稿とか紅月もよくやるね」

『テストが終わったからこその偉業のようよ』

「ふーん。そうそう、勇者未満は単話なんて書かずに、直接書いてるから、一部おかしなところが出ていたりするかもしれないからそういうところがあったら指摘お願いします。」

『話の中ではニミウスにさえぎられてるけどナギの字は』

「わーわーわー!!それ言っちゃだめだって!!世の中言ってもいいネタばれといっちゃいけないネタばれがあるんだからそこは空気読んでよ!!」

『・・・悪かったわね』

「ふぅ。なんか話すこともないし今回はここまで

この作品でも感想、評価、アドバイス、指摘といったものを受け付けております。

思いついたことからじゃんじゃん送ってください」

『あと、テストが終わったからと言ってもこの作品は不定期更新のままですので』

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