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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
29/37

3-13

 虹牙とメグミ。二人は静かに会話をしている。ジェフはレイアの剣の稽古に、あとの三人は王妃と王女から誘われてどこかへ行っている。ジェフはその誘いから逃げ出したのだった。

 そして、この二人は何をしているのか――。


◆◇◆◇◆◇◆


 レイアの部屋。少し散らかっている部屋のベッドにナギは寝かされていた。

「ほんとにナギは……。一体何をしてきたんだろうね」

 レイアのため息にニミウスは応えない。突然の出来事にまだ追いつけていないのだ。

 ぼんやりとこの部屋を眺める。ここは寝室で、隣にはレイアの勉強部屋があるらしい。この部屋にいるのは、レイア、ニミウス、そしてレイアの世話役という中年の男の三人だけだ。

「俺も詳しくは知らない。ただ……」

「ただ?」

「ナギは出会った時に皇国の兵に追われていたんだ。家出だとも、言っていた」

「そうかい……」

 レイアは中年の男に指示を出す。その内容に首をかしげるニミウスに対し男は重々しく頷いて見せた。

 今の指示について聞くとレイアは今後の保険だよ、と笑って見せた。どうしてレイアが出ていくかもしれないのか、ニミウスには全く分からなかった。そんな時にナギが目を覚ました。寝たまま部屋を見てレイアの部屋だと気付いたのかあわてて起き上がった。

「迷惑をかけてすいません」

「いいよ。ナギなら気にしないよ」

 少しばかり甘い空間を作っている二人をニミウスは眺める。男がいつの間にか用意してくれた甘めの紅茶を飲んで落ち着いたナギが改めて迷惑をかけてすまないと謝った。

「でも、どうしてここに? 介抱だけでしたら先ほどのところでもよかったのでは?」

「今、ここに虹牙君が来ていると言っても?」

 あからさまにナギは身を引いた。レイアにここにはいないと言われ、それを理解してから大きく息を吐いた。

 虹牙がだれかわからないようであるニミウスにレイアが簡単に説明する。彼はナギの親族なんだよ、と。家出しているナギにとっては追っ手に等しいのだろう。ナギはなぜ虹牙がここにいるのかは聞こうとしなかった。ナギとしては聞いてしまうことでここにいるということを意識したくなかったのだ。レイアも意図的に話題を変えてくれて、ようやくナギが落ち着いてきたときに部屋に来客が訪れた。

「出てくれ」

「かしこまりました」

 その時に扉がほんの少しだけあけられたのは意図的なものだったのだろうか。おかげで来客の声が聞こえてくる。姿は見えないがその声は威圧的なものが含まれているようだった。

 どこから聞いてきたのか、この部屋に女がいるだろう。いるなら出せ。と言っているのが聞こえた。

 対応に出ている男はレイアから誰も入れるなと言われていると言って追い返そうとするが向こうもなかなかに粘ってくる。ナギが扉越しの威圧におされたのか震えている。

「ニミウス君。今のうちに窓の外のテラスに」

 ナギを立たせて窓を開け、二人を部屋から追い出す。

 レイアが窓を閉めようとするのと、扉の向こうの人物が怒鳴ったのはほぼ同時。窓を閉められ、カーテンをかけられたあとナギを見れば顔に戻った血の気は再びなくなっていた。

「ナギ……」

「今怒鳴ったのが、さっきちょっとだけ話に上がった虹牙です。それにどうやら救世主様までいるみたいですね」

 怒鳴り声はこう言っていた。俺はヴァダリアの皇位継承第三位である虹牙だぞ。俺が入れろと言っているのだから入れろ。

 なんとも自分勝手なその発言を聞いたナギは震える体をニミウスに寄せて今にも泣きそうなほど声を震わせて、それでも気丈に振る舞おうとしていた。

 一度は聞こえなくなった声がまた聞こえてきた。どうやら部屋に入ってきたようだった。


◆◇◆◇◆◇◆


 部屋に入った虹牙は部屋をくまなく調べた。天気がいいのに閉まっているカーテンはいかにもな怪しさがあるが、そちらは後回しだった。この部屋は三階にある。彼が探している人間は風魔法で浮いて移動できるはずだが、魔法発動のの成否はそのときの精神状態による。今はそんなことができる状態ではないだろう。

 実際、ナギは今そんなことすら思いついていないくらい気が動転している。そして虹牙はそんなナギを追いつめるように意識してか、ゆっくりとしっかりと部屋を調べてまわった。一緒に来ている救世主、メグミはそれを見ているだけである。

「だいたいあなたが探している人が今この国にいるのかい?」

「ふん。貴様が娘のことをナギと呼んだ。それだけで十分すぎる事実だ」

「でもこの部屋にはいないはずだけど」

「確かに、部屋にはいないな。だが――」

 虹牙は窓に近づく。カーテンの向こうのテラスにはナギとニミウスがいる。そう思うと自然と嫌な汗が滲み出てくるのがレイアにはよくわかった。

「例えば、こんなカーテンの向こうなんかにいると思うが、なっ」

 勢いよく開けられたカーテンの向こうにナギたちはいなかった、なんてことはなく二人はあっさり発見される。虹牙は窓を開け、震えるナギをニミウスから引き離し、部屋の中へと引きずり込んでいく。

「離してください!! あたしは戻る気なんてありません」

 明らかに怯え、それでも反抗するナギの意思も虚しくどんどんニミウスから離されていくナギ。しかし、捕まれたその手をレイアがひきとめた。

 すがるように、煙たそうに、二種類の感情をぶつけられ、その目から今にも涙が溢れ出さんとするナギを見て、さすがだと思う。この状況で自身やニミウスを頼らないことも。でも、それは少し寂しい。

 もっと頼ってもいいのに。

「嫌がっているじゃないか。何があったのか知らないけど離しなよ」

「悪いがこれは我々の問題だ。他国の王子が口を出さないでもらおうか」

「それは、できないよ――」

 さりげなく手に持っていた愛用の剣を突き出す。鞘に収まっているが威嚇には十分で、虹牙は思わず手の力を緩める。開いている手でまるでさらうようにしてナギを肩に担いで窓へと一目散に走る。風魔術を使えるレイアはテラスからも飛び出して着地。ニミウスもあわてて地面へと降りる。こちらはなるべく衝撃を殺して着地をする。

「追え!!」

 虹牙の怒鳴り声に上を見れば、テラスからこちらを見下ろす救世主をナギは確認した。その顔は紛れもない、皇国で別れた彼女。

「どうして、なんで、だって、だって――」

 あふれ出た言葉は止まらない。

「あたしは確かにあなたを送ったはずなのに……。なんでメグがここにいるの!!」

 その声はか細く、ナギを担いでいるレイアにしか聞き取ることはできなかった。

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