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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
23/37

3-7

 帰ってすぐにナギは杖に名前をつけた。ただ、杖と呼ぶのが嫌だと言ってその日は寝ずに考えていたらしい。

 その結果、名前は思いついたもののひどい寝不足で特訓どころではなかった。


「ナギは馬鹿なのだ」

「ううー。自覚してますから寝かせてくださいよ……」


 ナギの部屋ではシズミがナギの睡眠を妨げていた。わざとナギの周りを寒くしたり、逆に暑くしたり、眩しい光を浴びせたりと手段は様々であった。

 カーテンが閉まっているので、この部屋からは分かりにくいが時間は昼過ぎになっている。そろそろナギも限界であり、目が閉じてはシズミに起こされるということを繰り返している。しかし、シズミはその手を緩めることはしなかった。ナギがゆっくり眠れるようにシズミが手を緩めたのは夕方になってからだった。

 シズミが人の姿を取れることとはナギとニミウスしか知らないことなので猫の姿になってから出ていった。


「お疲れのようだな」

「ニミウスなのか」


 かけられた声にシズミは特に驚いた様子も泣く返事をした。


「確かに疲れたのだ。いくらナギを寝かせないようにするためだったとはいえ、自分も寝ないというのは少々やり過ぎたのだ」


 表情は読み取れないがその雰囲気からため息でもついているのだろう。そのままニミウスの方へ近寄って行く。


「これまでにも何回かあったことなのだ。ナギは本気で取り組み過ぎて夜寝ない日があったのだ」


 だから夕方まで無理にでも起こしておくと、夜中に起きたりせず、朝までぐっすりと眠るのだ。そして、次の日からは生活リズムを崩すことなく活動するのだ。

 そう言ってニミウスの足下で一声鳴き、丸くなった。ニミウスは丸くなったシズミを抱き上げて、夕食が待っている食堂へと移動していった。この日の夕食は鳥を焼いたものだった。


◆◇◆◇◆◇◆


 次の日の朝にはナギは気分がよさそうに起きてきた。寝不足や、逆に寝すぎたといった感じは見られず、廊下で仕事をしているルルを手伝いながらめまぐるしく動き回っている。ナギよりも後に起きてきたニミウスが驚くくらいであった。


「ルルさん。これはどこに運んでおけばいいでしょうか」

「そうですね。では主人の部屋へ運んでください。今日はまだ起きていると思いますので」

「分かりました!! あ、ニミウスさん。おはようございます」


 ニミウスの横を通り過ぎる時に挨拶をして、走っていった。肩にぶら下がっているシズミが小さな声で、言った通りになったのだ、と言って笑った。もっとも声の調子から判断したものであって、表情は変わらなかったのだが。

 そして、一人と一匹がルルに近寄っていくと、ルルも挨拶を返した。


「ナギさんは朝が早いですね」

「俺もびっくりしました」


 そろそろ朝食のですから、先に食堂へ向かっていてください。そう言ってルルは荷物を持ってどこかへ行ってしまった。それを見送ってニミウスはシズミを肩に乗せたまま歩いていく。

 食堂の目の前で足元に衝撃。


「おにいちゃん、おはよー!!」

「猫ちゃんもおはよー!!」

「おはよう。優華、明華」


 右には優華、左には明華。ニミウスの手をぎゅっと握った二人は急げ急げと言いながらニミウスの手を勢いよく引いていった。


「今日はね、お母さんが朝ごはんを作ってくれてるの」

「ルー君が忙しいからだって」


 この双子はルルのことをルー君と呼ぶ。この屋敷の主であるエンテンシア男爵、レイスのことは普通にレイスさんと呼んでいる。

 全員が集まるまでまだ時間がある。レイスは普段は研究とか言って不規則な生活を送っているので、除外されるが、食事の時間は基本的に全員集まってから食べることになっている。ナギとルルが働いていたのでまだだと思い、ニミウスはシズミを優華に渡した。


「猫ちゃんと遊んでてもいいの?」

「どうせ、みんなが来るまで暇なんだろ? ならいいって」

「やった!! みーちゃん。どうする?」

「それなら猫ちゃんに高い高いしてあげよう」


 お手玉のようにぽんぽんと放り投げられるシズミを横目に、ニミウスは席に着いた。なにやら双子の方からの視線が痛いが気にしない。


「そうだ、ルー君にもらったリボンつけてあげよう!! みーちゃん、持ってるし。ゆーちゃん、きっとかわいくなるよ?」

「そうだね。ゆーちゃんもそう思うよ」


 明華がどこからともなく真っ赤なリボンを取り出して首にではなく、尻尾に縛り付けた。きれいな光沢を持ったそれは、シズミの尻尾の動きに合わせてふわふわ揺れている。

 かわいー、と言って抱きついてこようとする双子の動きを華麗にかわしてニミウスに駆け寄ってくる。尻尾をぺしぺしとニミウスにたたきつけてくるところを見ると、このファッションには不服なものがあるらしい。


「似合っているし、いいじゃないか」


 よくないのだ、と言ってシズミはニミウスから離れていく。食堂から出て行ったのを見た双子が追いかけていった。


「猫ちゃん、もうすぐ朝ごはんになるから出てっちゃだめー!!」

「みーちゃん、がんばってー」


 優明がそんな二人を暖かく見守りながら食堂にやってくる。ニミウスに丁寧に挨拶をした後、まだナギとルルがきていないことを確認してから席についた。


「ニミウスさん。ナギさんやルルさんは?」

「なんか廊下で動き回ってましたけど、すみません、いつ来るかまでは分からないですね」


 優明はそれを聞いて、再び子供たちに目をやった。気づくとシズミがつかまっていた。

 そして、二人が暴れるシズミに何とかして首にもリボンをつけたころ、ルル、ナギ、そしてレイスの三人が食堂にやってきた。


「やあ、ハニー!! いい朝だね。今日はきみの作ってくれた朝ごはんが食べれると聞いて飛んできたよ」


 今にも優明に襲い掛かりそうな、そんな鼻息の荒い、この館の主人をルルが押さえる。ナギは自分たちが最後だったことを優明に詫びた。優明がキッチンに戻るころにはレイスはルルによって床にたたき伏せられていた。

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