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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
22/37

3-6

 ナギは手にした棒を嬉しそうにぎこちなく回している。あの後、グールと話し合い技術料として百ギリアムを支払うことで話がついた。

 しかし、百ギリアムと言うと普通にかなりいい魔具を買うことができる。つまり『技術料』としては高すぎたのだがナギは


「こんなにいい物を作ってくださったのですからそれくらい当然です!!」


と言い切り、押し通した。ナギの懐は皇国で盗んできたもので成り立っているが、この大きな出費にも耐えるくらいの量はあるようである。


「ああ、何度見ても素晴らしい物ですね。帰ったら名前を付けてあげないといけませんね」


 ご機嫌すぎるナギは先程からニミウスが行っていることがルルに頼まれた買い物であるということに気づいていない。

 まさに心ここにあらずである。

 どんな名前にしようかと悩むその姿はまるで子が生まれた親のようであった。ニミウスにはただただ注意力が散漫になって他の人に迷惑をかけないようにしてほしいと思える不安材料でしかなかったが。

 一応ナギはニミウスが足を止めると、一緒に足を止めるので見失うということもなかったが、それでも不安だったのは言うに及ばず。


◆◇◆◇◆◇◆


 買い物も終わり、さあ帰るか、となったときにナギが急に走り出した。

 なにかを見つけたのかその走りには迷いがない。ニミウスは荷物を手に追いかけた。

 身軽なためかナギの方が少しばかり速く、少しずつ距離が開くがナギを見失う前にナギは足を止めた。全力で走ったのか少し息が切れているがその顔には疲れではなく喜びの色が見てとれた。


「シズミ!!」


 ナギが相手に飛びつく。

 飛びつかれた相手はぼさっとした黒い髪をしており金色の瞳は眠いのか気だるそうな感じであった。

 ニミウスはその特徴からナギの言っていた友人だと当たりをつけた。そして、その人物はニミウスにとっては知り合いと言える人物であった。

 とりあえずニミウスはそしらぬ顔をしてナギにたずねることにした。


「その人は?」

「あたしがヴァダリアにいた頃の唯一の友人でシズミっていいます。四角と書いてシズミ、と読みます」

「へえ。初めまして、シズミさん。こいつと一緒に旅をしているニミウスといいます」


 そう言ってシズミに対して握手を求めた。相手は不思議そうにニミウスを見つめる。

 その目が「久しぶりだろう(・・・・・・・)?」と言っていたがニミウスは気にしなかった。


「……シズミなのだ。よろしく(・・・・)なのだ、ニミウスくん」

「ニミウスでいいですよ」

「わかったのだ。ならば僕のこともシズミでいいし、丁寧な言葉遣いも必要ないのだ」


 二人はそう言って握手を交わした。


◆◇◆◇◆◇◆


「今日は本当にいいことだらけですよ。杖を手に入れることもできましたし、シズミにも会えましたし」


 先ほどよりもさらにうれしそうに微笑みながらナギは歩いていた。なんだか、そのうれしさに影響を受けて、サイドの高い位置で縛っている長い髪が動き出しそうな、そんな気がしてしまうくらいである。

 シズミは昨日の夜にここ、エリクシナについたらしい。昨晩は宿を取り、今日からはナギたちと一緒にルイスの屋敷で世話になりたいらしい。


「でも、どうやって泊めてもらうんだ?」

「簡単なのだ。こうするのだ」


 シズミはそう言うと瞬きする一瞬の時間で姿を消した。

 なんとなく下を見るとそこには猫が一匹。


「つまりは猫なら問題ないと?」

「ニミウスさん、これがシズミだってわかるんですか?」


 驚いたのは猫に変身したことを見たニミウスではなく、猫がシズミだとわかったニミウスを見たナギであった。たいていは驚いたり、腰を抜かしたりするのに、とぶつぶつと言っていたがどうしてわかったのかと、たずねてきた。


「だって、消えたわけじゃないんだし、こいつがシズミだとしか思えないだろう?」

「それはもっともなんですけど……」


 ニミウスの回答を聞いても不満げなナギはシズミにもつまんないですよね、と同意を求めるが、ナギの腕に抱かれた猫はただ一声にゃあ、と鳴いただけだった。

 そこまできてナギはようやく、ニミウスが持っている(抱えている)荷物がルルに頼まれたものであると気づいた。気づいて、その量を見て、慌てて風で浮かせようとした。

 だが、ニミウスは今日はその杖を大事に持ち帰るようにと言って、荷物を持って歩き出した。

 荷物は普通の人なら持てそうにもない量だったが、ニミウスは荷物に多少振り回されているものの特に問題なさそうに歩いている。心配をしていたナギだが、猫を抱き上げるとニミウスの横ではなく斜め後ろを歩く。


「……なぜに斜め後ろ?」

「横だとニミウスさんが倒れてきたときに回避が難しいからに決まってるじゃないですか」


 決まってる、ってどうなんだろうかと思ったが、両手が塞がっている今は特になにもできず二人はルイスの屋敷まで歩いていった。

 シズミのことは拾ったとナギがルルに言うと、猫一匹なら問題はありませんと言われた。これ以上拾ってこないようにとも言われたのだが。

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