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一般人以上、勇者未満  作者: 紅月
第三章:カロン王国
21/37

3-5

 武器屋は昼間のほうがすいている。

 理由として言われることはいろいろとある。

 だが、その最たる理由として店に物を買いにきたり、武器の修理などを頼みに来るであろう客のほとんどが昼間は仕事として外に出ていることが多いということがあげられる。たいていは朝早くにくるか、夜になってからくるという。

 なので、ニミウスとナギが訪れた武器屋、『ユイル』もその例に漏れず閑散としていた。……もっともこの店の場合、それだけが理由ではないような気がするが。

 ルルに魔法を使うなら、と勧められたので一番初めに来たのだ。店の中の商品に埃は被ってはいないものの、それ以外の場所の掃除はえらく乱雑で、端のほうにどうでもいいといわんばかりに積み上げられていたりする。

 場所も来やすい場所というとそうではない。入り口は狭い路地の奥にあり、店の扉のあまりのぼろさ。ルルから聞いていなければ武器屋だと思うこともなかっただろうし、あまりの怪しさに入ることもしなかっただろう。

 しかし、中に入ってみると違った。確かに、扉の様子を裏切らない店内ではあったが、そこに置かれている品は、どれも一級品といって差し支えのないものだった。


「すごいですね。今までいろいろと見てきましたが、ここまですごいものばかりがそろっているのを見るのは初めてですね」

「その中に気に入ったものはなかったのか?」

「周りがご機嫌を取りにいくつも持ってきたんですが、あたしみたいに魔法を使う人間だといいものだからというだけではなかなか……」


 言葉を濁すナギ。己の肉体をもって戦う戦闘職とは違い、魔法使いとは魔属粒子に干渉する魔力と、それを扱う精神力に比重が大きく偏っている。そのため、魔法使いの扱う武器を選ぶ基準の中では『感』が重要視されるという。ニミウスはよく知らないが、波長が合う、と言えばいいのだろうか。そんな感じで、一級品を使いながらも実力を出し切れない魔法使いもいるし、質のよくない武器を使いながらも一級品を持つ相手を圧倒する魔法を扱うのもいる。

 もっとも、より魔法を扱うのに長けた魔法使いには自然といい武器と波長が合うようになるというが。

 ナギはきょろきょろと店内を見ていく。ニミウスはすでに自分の武器を持っているため、何も買わないのでナギの物色が終わるのを待っているだけで手持ち無沙汰だ。なので、ナギと同じように店内を見渡す。あまり詳しくないニミウスでもその質の良さがわかるものばかりだ。

 形状はいろいろである。杖、剣、弓、指輪、ネックレス、ピアス、槍などと幅広い。

 そんな中、ナギの商品を物色するためにさまよっていた視線が一箇所に釘付けになった。ニミウスがその先を見ると、そこにあったのはわざわざケースに入れられている一本の杖。長さは一マテほどだろうか。真っ白で、直線的なフォルムを持ったその杖はケースの中で埃を被ることなく、そのつやを薄暗い店の中で光らせていた。


「これ、いいですねえ……」


 波長が合った、というやつだろうか。ナギは笑顔になる。ケースを見ると購入をご希望のお客様は、人を呼んでくれとある。早速人を呼ぶと、その人、店員は苦笑いをこぼした。


「そちらの品の購入ですか? ではまず、持ってみてください」


 ケースから出されたそれをナギはうれしそうに受け取り、店内の商品にぶつからないように慎重に振り回す。体術はほとんどできないと公言していたし、振り回し方はかなり危なっかしく、また、適当であった。

 うれしそうに手に取ったナギに対して、店員は蒼白になっている。どうしたのか、と問う前に店の奥に消えていってしまった。


「何か悪いことでもしたのでしょうか?」

「いや、特に何もしてないと思うぞ? 商品も壊れていないし」


 何かよくないものでも見たのかと思ったが、ここにいるのはナギとニミウスだけである。二人して首をひねっていると先ほどの店員が別の人を連れて現れた。しかめ面な六十歳くらいのその人物はナギを見て目を見開いた。


「え? あたし?」


 自分を指差して、驚かれている対象が自分だと確認するナギ。

 事情を説明してもらうように求めると、相手は承諾し、椅子を出すように店員に言った。どうやらそれなりに長くなるようだ。


「まず、私の自己紹介といこう。私はグール。グール・ユイルという」

「ユイルさんですか」

「グールのほうで呼んでくれ。ユイルという名はこの店を継ぐものに受け継がれる名だ」

「はあ」


 相手、グールはお茶を持ってきてそれを四つのコップに注ぐ。コップはすべてばらばらなサイズであった。

 お茶を飲み、一息つけてグールは語りだした。


「まず、その武器の素材は何だと思う?」

「木、じゃないんですか?」

「いいや、木であっている。だが、その木はどこにも存在していない」


 それは、すでに絶滅した種という意味ではなく、この世には存在しないはずということだとグールは言った。


「私がこの店を継いですぐのころのことだ。一人の男がこの杖の素材となる木を持ってきた。男はこう言ったよ。『この店の主であるお前が、一番の腕を持つ職人と聞いた。この素材を武器に作り変えてほしい。形状は問わない。作ったらそれを店で売れ』それだけ言ってその男は去って行った。

 ずいぶん変なことを言うもんだと思ったよ。だが……自分で言うのもなんだが、私は当時からすでに超一流として認められるだけの腕を持っていた。だから男のことを怪しむよりも、その素材を見て腕が鳴った。

 見たこともない素材。質感は木なのに、その強度は鉄にも勝るという木にあるまじきものだった。火にくべても焼けることがなく、水につけても水はしみこんでいかず、やわらかくなるようなこともない。加工できたときにはものすごい満足感があったのを覚えている」

「それは、いつごろの話ですか?」

「三十年前のことだよ。その杖ができるまでに十年はかかった。しかし、しばらくしてからあっさり鉋が入ったときには驚いた」


 ニミウスは一人、何かに納得したように頷く。彼の故郷での一大事件となった木であった。

 グールのほうは加工のときの思い出を語っている。鉋で削る方法は始めの方に試したが、そのときはできなかったのだ。当時は不思議で仕方がなかったと言う。


「それから、その杖を売りに出した。ところが、その杖を誰も手に持つことができない」

「なぜですか?」

「杖が拒絶する、と言えばいいのだろうか。まるで電気が走ったかのように感じるんだそうだ。私が加工できたのはその素材に認められたからだろうな。そして認められたからか、私は杖に触っても何の問題もなかった」


 認められるまでに五年以上かかったがな、と笑う。


「一流の魔法使いもいれば、その杖の価値もわからずに観賞用として買っていこうとする貴族もいたな。だがことごとく反発した。だが、そちらのお嬢さんは持てた」

「それはつまり、この杖はあたしのことを認めた、ということですか?」

「おそらくはそうだろうな」


 それを聞いてナギがうれしそうに笑う。実際にうれしいのだろう。感極まったのか目にはうっすらと涙がたまっている。

 その後、値段の話になり、タダでいいと言い張るグールと、少しでも払いたいというナギの間でものすごい口論が繰り広げられたが、それはナギが百ギリアム払うことになって落ち着いた。最後は店員が話をまとめていた。グールは話が混乱するからということで奥に追いやられていた。


◆◇◆◇◆◇◆


 ちょうどそのころ、『ユイル』の前に一人の男がいた。真っ黒な髪から皇国の人物だとうかがえる彼は、ぼさぼさの髪から金色の瞳を覗かせていた。


「やっと見つけたのだ……」


 その言うと、男は扉の目の前にある壁に体を預ける。どうやら中から人が出てくるのを待っているようであった。

「日付が変わって月も変わったね」

『予想以上に店での話が長くなって予定した登場人物は最後のほうにちょっと出てくるだけで終了したわ』

「今回はちょっとだけだけど、ニミウスの故郷の話が出てきたね」

『ニミウスってどこの人間なのかしらね?』

「まあ、おいおいわかるでしょ」

『ということで、また次回、お会いしましょう』

「次回は今回の最後に出てきた人物がしっかり出てくる予定ー」

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